第十二話 再起
暖かな光、燃える木がはぜる音により、ゆっくりと宗二は覚醒していく。
空は闇、どうやら巨兵と戦ってから時間がずいぶん経っているようだ。
自分はどうなったのか、記憶に白い霧がかかって何も思い出せない。
「っ!」
左肩の痛みで白い霧が徐々に晴れ記憶の輪郭が見えてくる。
宗二は思い出す。巨兵からの一撃を肩に受けたことを。
それからどうなったかは、やはり思い出せない。
遠くから何かを削るような音が聞こえるだけだ。
首だけを動かして、辺りを確認する。
焚き木を囲んで、みんなが座っていた。
会話は聞こえてこない。
どうも雰囲気も暗いような気がする。
「ソージ殿! 気が付かれましたか!」
ディーグアは宗二が頭を動かしたことに気が付いたようだった。
それに続く形で、ファルが、ドレイッドが視線を向ける。
「良かった。ソージさん、全然意識が戻らなかったんですよ」
どれだけ時間が経ったか分からない。
昼から夜になったことは分かる。
「お前が巨兵に負けてから半日程度だ」
珍しく、ドレイッドが声をかけてくる。
体を起こそうとすると、全身が痛みに悲鳴をあげる。
特に左肩は重症のようで、動かそうとすると激痛が走る。
「まだ寝ていなくちゃ駄目だよ」
体を動かそうとする宗二をファルが制止した。
それでも、無理やり体を起こす。
「ソージ殿! 今は御自分の体を休ませるのが先決ですぞ」
ディーグアも宗二の体を労わって制止しようとした。
そんな様子に少し笑って見せる。
「大丈夫です。別にアディバイスがやられただけで、僕は怪我した訳じゃないですから」
拳が砕けるほど巨兵を殴ったが、痛みだけで怪我はなかった。
今回もそのはずだ。
痛みを共有するだけだ。
「痛った!」
ドレイッドが宗二の左腕を剣の鞘で突いていた。
「無理すんじゃねぇ」
痛みをかばっていることは、バレバレだった。
だけれど、宗二にはやらなくてはならないことがあった。
自分がこうしているということは、巨兵はまだ健在のはずだ。
「怪我はしていないはずですから、問題ないです」
体を起こすだけでなく、立ち上がろうとしする。
足がふらついてうまく立ち上がれない。
「ソージさん、無理はよくないです」
ファルに支えられながら、ようやく立つことが出来た。
立つ事は出来たのだ、これぐらいなら問題はないはずだ。
「巨兵……巨兵はまだいるんですよね?」
その言葉に3人は黙ってしまった。
なんと声をかければいいのか分からない様子だ。
「巨兵はまだ町中にいます。住民は避難が終わっており、町は放棄すればよろしいかと」
巨兵は他のイジンに任せればいい。そういう意味なのだろう。
ディーグアの言葉はいつも正しい。
だが、正しいことだけが最善ではないこともある。
今はそのときだと、宗二は確信していた。
「僕ならまだやれます。巨兵を倒してみせます」
見てしまったから。
今度は窓越しではなく、間近で襲われる人、怯える人、母親とはぐれた子供を。
見なかったことには出来ない。
「分かった。肩を貸してやる」
決意に応えたのはドレイッドだった。
「いけません、ドレイッド。ソージ殿に無理はさせられない」
「駄目だよ、ドッド」
2人に反対されながらも、彼は動きを止めない。
ファルに支えられていた宗二の肩を担ごうとする。
抵抗しようとファルが動きかけるが、それを制止した。
「巨兵くらい倒してきますよ」
精一杯の強がりに2人は口を閉ざし、もう止める事はしなかった。
「素手で巨兵に挑むのは無謀です。武器を奪えば勝機はありましょう」
ドレイッドに肩を担がれ巨兵へと向かおうとした際、ディーグアがアドバイスをくれた。
これは行くことを認めてもらえたと考えていいだろう。
ファルは何も言わなかったが、なんとなしに認めてくれている気がした。
―――
ドレイッドに肩を借り巨兵へと急ぐ。
どうしてこのような事を申し出たのか分からない。
こちらを意を汲んでくれたのは確かなようだ。
以前のように宗二が死ぬことを期待しているようではない。
「俺は巨兵が憎い。そいつを倒せる力を貰っているんだから、お前は倒す義務がある」
何も返事をすることなく、耳を傾ける。
「だから、行くんだろ。それを俺は手助けしてやる。ディーグア様が俺を護衛に指名してくれたしな」
分かってきた。
彼は今まで葛藤してきたことを。
町を救わなかった宗二が憎い、だが巨兵を倒すには守護機装の力が要る。
彼自身宗二にどう接すればいいかわからなかったのだ。
「ドレ……」
「ドッドだ。親しい奴は俺をそう呼ぶ」
宗二の心が穏やかになっていく。
ドッドは自分のことを親しいと思ってくれているという事だ。
ずっと嫌われていると思っていた。
「ありがとう、ドッド」
「ふん」
それから走り続け、焼け焦げたハイフィーグへとたどり着く。
そこには剣を振り回す巨兵の姿があった。
遠くから聞こえた耳障りな音はやはりここからだった。
人はいないというのに、その行為は止めない。
理由はわからないが、巨兵は倒すだけだ。
「俺はお前に少しでも期待しちまった。だから、負けるなよ」
彼は宗二の背中を強く押す。
前のめりになりつつも姿勢を立て直した。
「剣は受け止めるものじゃない、受け流すんだ。それくらいなら出来るだろ」
彼からアドバイスを受け、戦うイメージが出来てきた。
ディーグアとドッドの策があれば、勝てるかもしれない。
違う、そうじゃない。
勝つのだ。
「守護起動 守護機装 アディバイスッ!」
取り出した白いカードを右手で高く掲げる。
その姿は今までは違う。
勇ましいその姿は、自信と希望に満ちていた。




