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8話 “イフリート”に転生したんだってな】

 ドラムが凄いことを言い出した。

 俺達四人を引っ張って、空に薄ら見える島に連れて行く? そんな事、出来るのか……


「ドラム、それ本当に出来るのか?」

「全く問題無いのである! 落ちないように捕まって貰えれば、直ぐに着くのである!」


 自信満々にドラムが断言した。

 そこまで言うなら任せてみよう。


「わかった。頼んだぞ!」

「任せるのである!」


 こうしてドラムが俺達を引っ張って行く事になった。


 俺が左手、オルガが右手、フォンが左足、ダルスが右足に捕まると、ドラムは翼を広げてゆっくりと飛翔する。

 まるでサーカスのようだ。


「おいドラム、大丈夫か? 無理はするなよ?」

「だっ、大丈夫である!……」


 天空都市スカイラインまで半分程に迫った時、ドラムは額から汗を流し始めた。

 俺達はドラムの険しい表情を感じ焦る……


「ちょっとドラム! 頑張って! ここから落ちたら怪我じゃ済まないんだわさ……」

「がっ、頑張るっす!…… きっと大丈夫っす……」

「オレのせいだ…… オレが重いから…… すまない……」


 各々が不安の声を口にする。


「大丈夫なのである! 我輩は絶対に! 落ちたり! しないのである!」


 ドラムは気合いを入れて答えるが、何処まで持つか心配だ……


 ※ ※ ※


  皆の応援もあり、何とか天空都市スカイラインへ到着した。

 ドラムは全身汗だくで、立つこともままならないが……


「ここまでしんどいとは、予想以上である……」


 ドラムは仰向けになりながら、感想を口にした。

 しかし、その直後……


「こんな所に国なんて作って、なんて頭の悪い王であるか!!」


 ドラムが叫んだ次の瞬間、兵士達が駆け寄り、俺達は包囲されてしまった。

 おそらくドラムの発言がまずかったのだろう。


「お前達を魔王様への不敬罪として連行する!」


 俺達は固まり、冷たい目線を静かにドラムへと送った。


 ※ ※ ※


 俺達は連行され、牢に閉じ込められている……


「アタシ達、どうなるんだわさ?……」

「まさかオイラ達、死刑?……」

「オレが重くなければ……」


 各々が不安の声を漏らす。

 オルガは自分の事を責めているようだが……


「皆、すまなかった…… 我輩が余計な事を言わなければ…… 本当にっ…… ずばだい……」


 ドラムが号泣している。

 確かに最初からワイバーンタクシーを使っていればこんな事も無かっただろう。

 しかし、ドラムも悪気があってやったわけではない。

 そこは汲んでやるべきだ。


「なぁ、ドラム。過ぎた事を悔やんでも仕方ない。今後気をつけて行こう。な?」

「トール様…… 我輩が…… 未熟でっ…… ううっ……」


「ドラムも反省している事だし、これ以上責めても仕方ない。まずはここから出る方法を考えよう。そうだろ?」

「トール様の言う通りだわさ!」

「その通りっす!」

「ああ…… そうだな」

「皆…… 本当に、本当に、申し訳ないっ……」


 意見が纏まったところで周りを見渡してみる。

 囚われているのは俺達だけのようだ。

 全身炎イフリート化して鉄格子を溶かすこともできるが、これ以上トラブルが大きくなるのは避けたい。

 さて、どうしたものか……

 暫くして兵士が近づいてきた。


「お前達のリーダーは誰だ?」

「俺だ」


「お前達の処分が決定した。リーダーのお前はここに残れ。後の奴は国外追放だ」


 全員に衝撃が走る。

 しかし俺一人なら逃げ出せる算段があった。


「お前ら、下に降りてろ」


 俺の言葉に四人の顔色が曇る。


「トール様…… ここに残ったら絶対酷い目に会うんだわさ!」

「トール様! オイラ、必ず助けに来ます!」

「トール様! オレの命に代えても必ず……」

「トール様! 我輩が余計な事をしなければ…… 必ず戻って来るのであります!」


 一言ずつ俺に挨拶をすると、四人は牢から出て行った。

 四人の姿が見えなくなったところで兵士が口を開く……


「リーダーのお前の処分は、魔王様への不敬罪により、死刑だ」


 その言葉に流石の俺も焦り始める。

 まさか一言の文句で死刑にされるとは。

 魔王シェリー・スカイラインとはここまで残虐なものなのか。

 やはり俺が始末しなければならないと思った瞬間だった。


 ※ ※ ※


 俺の死刑は3日後に決まったらしい。

 それまでは何もない真っ暗な牢の中でただ一人、死までのカウントダウンを刻むだけだ。

 なんてな。当然逃げるよ。


 1日目の俺は不安も大して無く、平常心を保っていた。


(あいつら、上手く逃げ出せたかな…… 流石に二度も捕まる事は無いと思うが…… 俺もタイミングを見計らってここから出ないとな……)


 そんな事を思いながら、1日目は過ぎていく……


 ※ ※ ※


 2日目、俺は脱走について考えていた。


(この牢は全身炎イフリート化で溶かせそうだ。溶かした後はどうする? 強化スライムが襲ってきても倒せるが、プルトニーが出てきたら…… いいや、ここを出てから考えよう)


 そして俺は全身炎イフリート化する。


「……」


「嘘だろ……」


 なんと、俺は全身炎イフリート化出来なくなっていた。

 何度試しても身体に変化はない……


 焦る気持ちに埋め尽くされながら2日目が過ぎていった……


 ※ ※ ※


 丸2日が経過した。

 食事は出るが、満足出来るものではない。

 俺は心が折れ始めていた。


「みんな…… 今頃何してるんだろう…… 俺は…… もう死ぬのかな…… イフリートになって、能力を使って…… そんな事が何年も前に感じる……」


 何もする事がない上に真っ暗な部屋だ。

 精神的な消耗も早い。

 そして、全身炎イフリート化出来ない。

 この事実が更に俺を追い詰める。


「おかしいな…… 俺、ここから出られると思ってたんだぜ? 笑っちゃうだろ? 全身炎イフリート化出来ない俺なんて、結局ただの非力な人間じゃないかっ……」


 俺は知らぬ間に泣いていた。

 暗闇の中で、冷たい雫が手に落ちる感覚が身体に刻まれる……


 独り言を言い出す程に、精神は限界に達していた……


 俺の死刑まで、あと半日。


※ ※ ※


 時は2日程前に遡る。

 フォン、オルガ、ダルス、ドラムの四人はトールと別れると、数時間の拘束の後、天空都市スカイラインから追放されようとしていた……


「お前達は国外追放だ! もう二度と来るんじゃないぞ!」


 兵士はワイバーンタクシー乗り場の前で四人を解放した。

 しかし四人に焦りは無い。


「さぁ、どうするんだわさ?」

「勿論、トール様を助けるっす!」

「作戦を考えよう」

「我輩に良い考えがある!」


 三人はドラムに視線を向けると食い入るように見つめる。


「作戦はこうである! まず我輩は皆を引っ張って城の壁を越える。そして我輩が城内に魔法で爆発を起こすので、その間に皆は牢に向かってトール様を救出して欲しい」

「ちょっと待って! そんな事をしたらドラムが捕まっちゃうんだわさ!」

「ちょっ! ドラムが捕まったら、トール様を救出してもトール様は喜ばないっす!」

「犠牲は出さないようにするべきだ」


 ※ ※ ※


 作戦会議の結果導き出された方法は、深夜にドラムが三人を引っ張り城内へ侵入し、兵士を避けて牢へと向かう。

 もし見つかった場合は兵士を殺さずに無力化するという方針に決まった。


 トールの死刑執行まであと2日……


 ※ ※ ※


 深夜、四人はトール救出作戦を決行する。


 ドラムは暗闇の中、三人を引っ張りゆっくりと飛翔している。

 三人は兵士達が居ないか足元を見渡し、安全を確認する。


「居ないんだわさ!」

「こっちも居ないっす!」

「大丈夫だ!」


 そして城内に侵入するが……


「おい! そこで何をしている!」


 十字路で兵士と運悪く鉢合わせになる。

 そして兵士は応援を呼びに走るが、フォンは強力な脚力により兵士に追いつき、押さえつけた。


「応援は呼ばせないんだわさ!」


 兵士は首を軽く締められると意識を失なった。

 流れるような一連の動作だったが、それでもフォンの対応は遅過ぎた。

 十字路から更にもう一人、兵士が向かっていることに気付けなかったのだ。


「おっ、お前達は!…… 侵入者! 侵入者だ!」


 その直後、サイレンが鳴り響く。


「まずいんだわさ! もう一人居たなんて……」

「これは一度引くべきっす!」

「仕方ない……」

「一旦退却である!」


 鬱積する思いを抱きながら、四人は再び空へと飛翔し、闇へと姿を隠した……


 ※ ※ ※


 四人は城の近くにある路地裏の倉庫に侵入し、交代で仮眠を取っていた。

 最後の見張りはフォンだ。


「ダルス、代わるんだわさ!」

「おう、頼んだっす!」


 ダルスが仮眠を取ろうと倉庫の中へ入ろうとしたその時……


「ダルス! ねぇ、その…… ありがとね」

「何だよ急に……」


「サルマトランを出た時、アタシを挑発したでしょ? あれ、アタシを元気付ける為だったんでしょ?」

「そっ、そんなことねーよ!」


「アタシ、ダルスのそういうところ、良いなって思ってるんだわさ!」

「何言ってんだよ…… おやすみ!」


 ダルスの顔は赤く染まり、逃げるように倉庫の中へと入っていった……


 トールの死刑執行まで、あと1日……


 ※ ※ ※


 死刑当日。

 俺はもう、何もかもがどうでも良くなっていた。


「ちゃーはんあがったよ。これ4ばんてーぶるね……」


「ちがうんだよ。ひかげんが、だいじなんだよ……」


「ありがとーございまーす……」


(俺は幻覚を見ているのか? それとも異世界が幻覚だったのか? やけにリアルな幻覚だったな。俺は今日も料理を作る。明日も明後日も明々後日もその次の日も……)


(俺の人生って何だったのかな…… 何の為に生きてるんだろう? 生きてて意味なんてあるのか? まぁいいや、俺はこれから死ぬんだ……)


「時間だ。出ろ!」

「ありがとうございましたっ!……」


 俺は腰縄を巻かれ、朦朧とする意識の中で処刑場を目指していた……


 ※ ※ ※


 トールの死刑当日、夜明け前に再度城内へと侵入する為、四人はドラムに掴まり飛翔していた。


「トール様、大丈夫でしょうね?」

「信じるしかないっす!」

「早く助けなければ……」

「急ぐのである!」


 前回の反省を踏まえ、物音一つ聞き逃さないように細心の注意を払いながら城内に侵入する。

 ここで兵士が現れなかったことは歴史を大きく変える転換点となるが、彼らは知る由もない。


「こっちには居ないわさ!」

「足音も無いっす!」

「よし行こう!」

「こちらも問題ないのである!」


 奇跡的な偶然が重なり、兵士に発見されることなく四人はトールの居る牢の前まで辿り着いた。

 

「見て! あれはトール様だわさ!」

「嘘だろ? ずっと独り言を言ってるっす……」

「まずいぞ。精神が限界にきている……」

「あの兵士をなんとかするのである……」


 精神が崩壊する寸前まで追い詰められたトールは、彼らの知るそれではない。


  四人は互いに目を合わせると、阿吽の呼吸で兵士に襲い掛かる。

 兵士は何が起きたか認識するまでもなく意識を牛なった。

 そして四人はトールに話し掛ける。


「トール様! 助けに来たんだわさ!」

「おう、チャーハン追加な!」


「トール様! 逃げるっす!」

「おい! そのセットはスープ付いてるだろ!」


「トール様、気をしっかり……」

「ピータンは切らしてるんだよ!」


「トール様……」

「大丈夫! 30人前だって作ってやるよ!」


 疑うまでもなくトールの精神は崩壊していた。

 本来は明るい性格のトールが、暗闇の中で3日間耐えることは不可能だった。

 彼らの知るトールはもう居ない。

 その事実を認識した瞬間、彼らの心に大きな穴が開く。


「嘘よ、嘘よ嘘よ嘘よ! こんなの、こんなのトール様じゃない! トール様はもっと…… もっと意地悪だったじゃないっ……」

「トール様…… オイラはこんな冷たいトール様なんて見たくないっす……」

「なんでこんなことに…… これでは死んだも同然ではないかっ……」

「こうなるべきは我輩だったのに…… 何故トール様がこの様な変わり果てた姿にっ……」


 悔しさと憤りで平常心を保つ事すらままならない彼らに、更に追い討ちを掛けるが如く、一柱の影が迫る……


「なんじゃ、侵入者か!」


 四人の後ろには魔王の一柱ひとりであるハーピー、シェリー・スカイラインが現れる。

 その姿を見た彼らからは哀しみの表情が消え、神経が張り裂けんばかりの怒りが湧き上がる。


「「「「シェリー!!! よくもトール様を!!!」」」」


 彼らは魔王シェリー・スカイラインへと攻撃を開始した。

 しかし無情にも魔王シェリーにダメージはない。


「五月蝿いのぅ。お主達の攻撃は、妾には効かぬ!」


 魔王シェリーは片腕を振り下ろすと、強風が四人へと襲い掛かる。

 一人ずつゆっくりと、戦闘不能にされていく……


 ※ ※ ※


(4番にチャーハン追加です!)

「おう、チャーハン追加な!」


(Aセット出まーす)

「おい! そのセットはスープ付いてるだろ!」


(ピータン入りました!)

「ピータンは切らしてるんだよ!」


(これから飛び込みで30名様だって……)

「大丈夫! 30人前だって作ってやるよ!」


 崩壊したトールの精神は、ただひたすらに料理を作り続ける。

 そんな中、ホールから物が割れる音がする。


「パリーン!」


 トールはやれやれといった顔でホールを覗き込む。


「おいおい。誰だよ皿割ったの……」


 トールがホールを覗き込むと、謎の人物に吹き飛ばされ、テーブルを薙ぎ倒し動かなくなるフォンの姿が。


「おいおい、フォン、大丈夫か?」


 しかしトールの声は届かない。

 ここはトールの精神世界の一端に過ぎないのだから。


 続いてダルスが宙を舞い、ホールの壁に叩きつけられて動かなくなる。


「おい、ダルス! しっかりしろ!」


 そしてドラムが飛ばされ、掴んでいた槍がToiletと書かれた扉に突き刺さる。


「ドラム! おい!」


 最後にオルガが一直線に厨房へ突っ込み、煮込んでいた鍋がひっくり返される。


「オルガ! 大丈夫か!」


 四人は店内で静かに動かなくなった……


 ※ ※ ※


「なんじゃ、もう終わりか?」


 魔王シェリーは物足りなそうに、転がる四人を見渡す。


「よ…… まを……」


 トールの目には薄っすらと光が戻り始める。


「よく…… かまを……」


 そしてゆっくりと謎の人物へと視線を向ける。


「よくも…… なかまを……」


 トールはゆっくりと魔王シェリーへと歩き出す。


「よくも、俺の仲間を!!!!!!!!」


 トールが叫んだ瞬間、牢の周囲は青い炎に包まれた。

 トールの目は完全に光を取り戻し、足元に転がる四人を眺める。


「お前ら、来てくれたんだな……」


 目を細めて呟くと、視線を魔王シェリーへ戻した。


「お前だけは絶対に許さない! 殺してやる!」


「ほう、イフリートか。だがテロリスト風情がほざくでない。妾に勝てると思うな!」


 牢の鉄格子が溶かされ、魔王シェリー・スカイライン対イフリート・トールの戦いの火蓋が切って落とされた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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