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82話 良き友人

 

 俺達はシェリーから事の顛末について話を聞いた。

 オルガが魔物から致死性の高い毒を浴び、城へ運び込まれた事。

 ニャイは城で匿われているという事。


 そして――

 魔物とは基本的に人とは相容れぬ存在であり、知能が低い故に自らの欲に忠実に動き、多種族との協調を拒む傾向にある。

 その生息域は魔王によって管理され、魔物が人の居住区へ出没する事はあまり無い。

 だが、稀に高い知能を持った個体が発生し、人との関わりを持つようになる。

 更にそういった魔物は知能のみならず戦闘力も高く、人に危害を加える事が多い。

 並の兵士では太刀打ち出来ない為、討伐隊が編成される。

 ――ということを


「俺達が居ない間にオルガはそんな目にあっていたのか……」

「うむ。オルガが居なければニャイは殺されておった。今回の件はオルガの手柄じゃな」


 シェリーがオルガへ視線を合わせると、オルガは申し訳無さそうに目を逸らした。


 しかし魔物というものについて、俺は深く考えた事が無かったな。

 人々へ危害を加える存在だというのは頷ける。

 これまで多くの魔物による被害を見てきたからな。

 そして、フォンが前に(1話)言っていた事を思い出す。

 魔物は魔王によって管理されていると……


「なあ、シェリーは魔物達の管理までしているのか?」

「うむ。厳密には逆らわぬよう魔物へ妾の力を誇示した上で、管理自体は部下達に任せておるがのぅ」


「力を誇示? それは一体何をしたんだ?」

「なに、大した事はしておらぬ。軽く森をひとつ吹き飛ばしただけじゃ。奴等を怯えさせるだけで十分だからのぅ」


「森をひとつ!? ……おっ、おう、そうか」


 なかなか物騒な話だが、魔王種となった俺にも、いつか魔物へ力を誇示する時がやってくるかもしれない。

 この話は頭の片隅に入れておこう。

 だが、普通の魔物は一体どこに生息しているのだろうか?

 数はどのくらい居るのか?……


「うっ! ……我輩は?」

「「「「「「「ドラム!!」」」」」」」

「ドラムさん!!」


 そんな事を考えていたが、ドラムの声で霧散する。


「ドラム、起きたか! 体調は大丈夫か?」

「うーむ……トール様達を呼んだら気を失ってしまったのである」


 ドラムが目を擦りながらベッドから起き上がった。

 そして何かを思い出すと、顔色が真っ青になる。


「……ハッ!? そうだ! オルガが行方不明になってしまったのである! すぐに探しに行くのである!!」

「落ち着け、オルガは戻ってきて隣に居るぞ!」


 ドラムは不思議そうに目を細めながらオルガの方へ顔を向けた。


「むむっ!? オルガよ、一体何処へ行っていたのであるか?」


「……すまない。一人で考えたかったんだ」

「ふむ……まあオルガが無事なら良かったのである」


「ドラム、これまでの事情はシェリーから聞いた。お前が俺達を呼んでくれなければ、もっと大事になっていたかもしれない。こっちの世界に残ってくれて助かったよ。ありがとな!」

「……いいや、我輩もオルガが居なければ新たな発見は出来なかったのである!」


 ドラムはスッとラビを見遣る。

 するとラビは困惑しながら僅かに顔を紅く染めた。

 ……ん? まさか俺達の居ない間にドラムとラビは……


「おいドラム。お前まさかラビと……」

「うむ。我輩はラビと……」


 ドラムの真剣な表情にフォンとダルスが熱い視線を向け、ラビはドラムを凝視している……


「「「ラビと?……」」」

「ラビと良き友人(・・・・)になったのである!」


「ぐふっ!……」

「「「はぁ…………」」」


 ドラムの回答に、ラビが盛大に肩を落とし、俺達は大きな溜息を吐いた。


「そ、そうかい……そうだよね。ドラム、アタイはアンタの良き友人さ。これからも仲良くしておくれよ……」

「うむ! ラビよ、我輩こそよろしく頼むのである!」


 ラビは呆れながら呟くと、ドラムはラビへ深々と頭を下げる。

 だが、僅かに二人の口元が歪むのを俺は見逃さなかった。

 ドラムはああ言っているが、二人の思いは通じているように見えた。

 そんな事とは露知らず溜息を吐く隣の二人(フォンとダルス)を俺は横目で見ながら、こいつら(ドラムとラビ)も素直じゃないなと心の中で小さく笑った。




 その後暫く他愛の無い話に花を咲かせていると、陽が傾き始めてきた事に気付く。


「そろそろ夕暮れだな……よし! ドラムの無事を確認出来たことだし、そろそろ俺達は宿屋に戻るとするか!」


 俺の言葉にフォンとダルスとメルダが頷く。


「じゃあ俺達は戻るが、ドラムとオルガはもう一晩ここで静養するんだろう?」


 すると二人は首を振った。


「いや、我輩も宿屋へ戻るのである」

「お前、体は大丈夫なのか?」


 ドラムは腕や足を曲げ伸ばし、体の隅々を見回す。


「……うむ。体は特に問題無いのである!」

「そうか。オルガはどうだ?」


 オルガがゆっくりと肯首する。


「ああ、オレも大丈夫だ。いつまでもここで世話になるわけにはいかないからな。もう戻ろう」

「わかった。じゃあシェリー、こいつらが世話になったな。ありがとう」


「ふむ。本来であれば一月は安静なのじゃが……まあ良い。好きにするのじゃ」


 こうしてドラムとオルガは着替えを済ませると、俺達は揃って医務室を後にした。




 暫く廊下を進むとシェリーが立ち止まる。


「さて、妾とニャイはここまでじゃな」

「本当にいつも助けられてばかりですまない。いつか御礼をしなくちゃな……」


「礼か、そんなものはいつでも構わぬ。それよりもトールよ、お主は魔王としての自覚を持つのが先じゃな。今後は悪意を持つ者が接触を図る事もあるじゃろう。油断するでないぞ!」

「うっ、そうだな。こうしてオルガが襲われたんだ。気を引き締めなきゃな……」


 俺はシェリーの言葉を心に刻む。

 そして城を出ようと一歩踏み出すが、シェリーが密かに耳打ちをしてきた。


「あともう一つ。オルガの目には未だ迷いが見える。奴の行動は十分に目を配るのじゃ!」

「ああ。オルガは思い詰めると周りが見えなくなるからな。気をつけるよ」


 シェリーは頷くと、流麗な所作でニャイを連れて去ろうとする。

 だが、ニャイは引き返しオルガの元へ駆け寄った。


「オルガさん……あんまり背負い込んじゃダメだニ。ウチは自然体なオルガさんが好きだニ!」

「ニャイ……わかった。もう余計な事は考えない。だが一つだけ誓おう。オレは必ず君を守る! だから君はずっとオレの側に居て欲しい……」


 オルガはニャイへ手を伸ばすと、ニャイはオルガの手を取り胸に顔を埋めた。

 そしてオルガはニャイをそっと抱きしめると、二人は暫し身を寄せ合う……


「んっ、んん! お主ら場所を弁えろ! 続きは後日幾らでもせい!」


 だが、見兼ねたシェリーが咳払いをすると、二人は我に返り顔を赤らめながら、そそくさと離れた。


「じゃ、今度こそ帰るぞ!」


 オルガとニャイは申し訳なさそうに小さく頷くと、俺達はシェリー達と別れ城を後にした。


 ※※※


 俺達は城下町を歩いていた。

 人混みで賑わう路地を抜けたところで、今度はラビが足を止める。


「どうしたラビ? 急に立ち止まって」

「アンタ達、そろそろお腹も空く頃だろう? 宿屋へ戻る前にアタイの店に寄っていきなよ!」


「良いのか? まだ開店時間には早いぞ!」

「へへっ。今日は客として呼ぶわけじゃないよ。アタイの大事な友人(・・)として呼ぶのさ!」


 ラビはニヤリと微笑いながらドラムを見遣る。


「な、何故我輩を見るのである……」

「しっしっし。さっきの仕返しさ!」


 するとドラムは分が悪そうに目を逸らした。


「トール様、オイラもう腹が限界っす……」

「うー。アタシもさすがにお腹が空いたんだわさ……」


 そうだ、地球で夕飯の準備をしていたところでドラムに呼ばれて慌てて戻ってきたんだったな。


「お前はさっきから腹空かせてただろ!」

「アンタよりは空いてなかったんだわさ!」


 はぁ、今度はこっちが喧嘩か。

 フォンが暴れ出す前に、早いところ夕飯にした方が良さそうだな。


「「むー!!」」


 ダルスとフォンが腕を組み睨み合っている。


「わかったわかった。ラビ、ありがたく寄らせてもらう事にするよ。お前らもそれで良いんだろ?」

「「うん! うん! うん!」」


 フォンとダルスはブンブンと縦に肯首した。

 メルダはヤレヤレと肩を竦め、オルガは小さく溜息を吐くと、俺達はラビの店へ寄る事になった。


今回もお読みくださりありがとうございます。

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次回の更新は12日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ドラムは鈍感系ですねー。 1番敏感なトールが、1番恋愛から縁遠いという(笑)。
[一言] >ドラムはああ言っているが、二人の思いは通じているように見えた。 流石トール、空気が読める( ˘ω˘ )
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