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79話 情報社会の陰

 

 悩んだ末に俺は三人を助ける事にした。

 全身炎イフリート化し、室内へ炎を放つ。

 そして室内を燃やす炎と混ぜ合わせ、一気に体内へ吸い込むと、火災は1秒程で鎮火した。

 視界が鮮明になったところで人型に戻り三人の人質へ視線を向けると、人質が口をあんぐりと開け俺を凝視している。

 まぁ、そういう反応になるよな……

 これは拡散されても仕方ない。

 俺は半ば諦めつつ七海の手を取った。


「七海、大丈夫か?」

「うん、ありがとう!」


 七海の無事を確認し俺達は窓から逃げようとするが、七海が俺の手を振り切った。


「ちょっと待ってて!」


 そして人質の前で立ち止まると頭を下げる。


「あの……お願いします! 今見た事は、誰にも言わないでください!!」


 七海は俺の為に頭を下げてくれたのだ。

 そうだ、最初から諦める事じゃない。

 俺も七海に続いて三人に頭を下げる。


「今の事がバレたら俺はここに居られなくなるんです! お願いします!!」


 フォン、ダルス、メルダも俺の後に続き頭を下げる。


「「「お願いします!!」」」


 人質の三人は状況が飲み込めず固まっていたが、やがて一人が頷いた。


「あなたの体が自ら燃えるなんて驚きました。……でも、この事は言いませんよ絶対に。あなたは私達の命の恩人なんですから!」


 残りの二人も大きく頷く。


「ええ、わたしも絶対に言いません! ガソリンを撒かれた時は、もう死んだと思いました。でも、こうしてあなた方に助けられた。恩を仇で返すなんて事はしません!」

「僕も言いませんよ! 炎を吸い込んだのには驚いたけど、あなた達が居なければ僕たちは焼け死んでいた。見捨てる事も出来たのに、それをしなかったあなた達には感謝しきれません! ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!!」」


 今度は三人に頭を下げられ、少し照れ臭くなった。

 俺は頭を掻きながら、ありがとうと礼を述べる。

 ひとまず三人を信じてみよう。


 そんな遣り取りを終えた頃、外からサイレンの音が鳴り響く。

 どうやら警察や消防が到着してしまったようだ。

 壊れた窓から下を覗くと、犯人の男が救急車へ運ばれようとしていた。

 どうやら爆風で吹き飛ばされていたようだ。

 あの男の心配はしなくて良いだろう。

 俺達が下を覗いていると、フォンの耳がピクリと動き振り向く。


「ん!? 誰かが近付いて来るんだわさ!!」

「多分警察だ! ここで見つかったら面倒な事になるぞ……」


 警察と鉢合わせすれば取り調べに遭うことになり、フォンやダルスの存在が明るみに出てしまうだろう。

 ここは何とかして警察の目から隠れなければならないが、どうしたものか……

 俺が頭を抱えていると、フォンが何かを思い付いたようで手を挙げた。


「アタシに良い考えがあるんだわさ! ……七海ちゃん!」

「フォンちゃん、どうしたの? ……うわっ!?」


 フォンが七海を手招きして呼び寄せると、七海を抱きかかえて窓から飛び出し、向かいのマンションの屋上へと跳躍した。


「なっ!?……」


 なんて無茶な事をするんだと呆れたが、冷静に考えると警察の目を誤魔化すなら人間の運動能力では辿り着けない場所に逃げ込むのは意外と良い手なのかもしれない。

 ここはフォンの考えに乗ってみる事にしよう。


「ダルス、メルダ! フォンの後を追うぞ!」

「了解っす!」


 ダルスもフォンの後を追い、マンションの屋上を目掛けてジャンプした。


「どうしたメルダ? 行くぞ!」

「……ちょ、ちょっと! どうしたじゃないわよ!! あんな所まで飛び移れる訳ないじゃない!」


 おっと、言われてみればそうか。

 メルダは魔女とは言え身体能力は人間と大差ない。

 魔法を使えば飛べるだろうが、ここで俺が魔法を使えとは言えないな……


「わかったわかった。メルダ、ちょっと我慢しろよ!」

「えっ、ちょっと! 何すんのよ!? うわっ!……」


 俺もフォンに倣ってメルダを抱えて跳躍した。

 フォンは全員が付いてきた事を確認すると、スーパーから離れるようにマンションの屋上を転々と飛び移っていく。


 屋上を次々と飛び移りながら今回の件を見つめ直した。

 やはり、三人を見捨てずに助けて良かったと思う。

 地球では、たった一つの情報が身を滅ぼす事もある。

 だが、あの場に於いては、そんな事を忘れて純粋な気持ちで応えることが出来たのだ。

 この感覚を失わないようにしよう。

 そして異世界の三人にも感謝だな。

 あの場で俺を庇い頭を下げてくれたのは嬉しかった。

 こいつらにも後でお礼をしないといけないな……




 さて、いつまでもフォンを先頭にさせるのは不安だ。

 何棟も先を飛び移るフォンへ思念通話を飛ばす。


 《フォン、そんなもんで良いぞ! そろそろ止まってくれ!》

 《わかったんだわさ!》


 フォンは周辺のマンションの中でも一際高い建物の屋上で止まった。

 ダルスや俺も合流し一息吐く。


「ふう。なんとか逃げ切れたな!」

異世界・・・にもぶっ飛んだ奴が居るってわかったっす!」


 ダルスはヤレヤレと首を振り、フォンは苦笑した。


「七海! さっきは頭を下げてくれてありがとな! あのまま立ち去っていたら大変な事になっていたかもしれない。みんなもありがとう。俺は良い仲間を持ったと実感したよ」

「えへへ。なんだか照れちゃうなあ〜。でも、あの人たちが話のわかる人で良かったよ! みんなが頭を下げてくれたのも効いたと思うんだ! みんな、ありがとね!」


 七海の言葉に異世界の三人は笑顔で応えてくれた。

 こいつらは最高の仲間だと、改めて思った瞬間だった。


「ねぇねぇ見て! 凄い綺麗だよ!!」


 七海が指差す先に視線を向けると、オレンジ色の夕焼け空に大小様々なビルが遠目に見える。

 その光景は遥か先まで続き、俺達がちっぽけな存在なのだと感じるものだった。


「ちょっとトール。景色も良いけど、そろそろ降ろしてくれない?……」

「あっ、悪い悪い。忘れてた!」


 うっかりメルダを抱えたまま景色に見惚れてしまった。

 慌ててメルダを降ろすと、メルダの顔が赤く染まっていることに気付く。


「な、なによ。こっちずっと見て……」

「いや、別に。メルダの顔が夕日で赤くなってるなと思ってさ」


「き、綺麗な空ね。これを見れただけでも異世界に来て良かったと思うわ……」

「そうか、そりゃあ良かったよ……」


 そんな他愛の無い話をしながら、俺達は暫く空を眺めていた……




 10分ほど景色を堪能した頃には、空はもう真っ暗になっていた。

 11月は日没が早い。

 夕焼けから夜になるまではあっという間だ。


 そろそろ帰ろうと思うが、俺達はここの住人では無い。

 謂わば不法侵入しているわけで、堂々と階段を降りる訳にもいかない。

 つまり、ここから飛び降りるしかないのだ。


「……さて、そろそろ帰るか。メルダ、ここから飛び降りる準備は良いか?」

「えっ? 飛び降りるの!?」


「ああ。心配するな! また俺が抱えてやるから!」

「う、うん。じゃあお願いするわ……」


 メルダは俯きながら俺の腕に掴まった。

 ここはざっと数えて20階はある。

 きっとメルダは怖いのだろう。


「七海ちゃん、降りるんだわさ!」

「うん! またお願いね!」


 フォンも七海を抱えて準備できたようだ。

 地上を見下ろすと人通りは全く無い。

 今がチャンスだ!


「よし、みんな行くぞ!」

「「「「うん!」」」」


 俺達は一斉に地上へ向けて飛び降りた。

 風を切りながら地面に着地すると、何食わぬ顔で五人揃って歩き出す。


「あー気持ち良かったー! フォンちゃん凄いよ! あんなに高くジャンプ出来るなんて! ダルスくんもお兄ちゃんも凄いよ!!」

「あはは! アタシにとっては朝飯前だわさ! あんなので良ければいつでもやってあげるんだわさ!」


「ほんと!? やってやって! ジェットコースターより楽しいよ!!」


 七海が、はしゃぎながらフォンにねだっていた。

 調子に乗って目立つ事をしなければいいが……

 だが、たまには息抜きも必要だ。

 今度は人目のつかない所で空中散歩を楽しむのも良いかもしれない。

 そんな事を思いながら、俺達は帰路に着いた。


 ※ ※ ※


 ――警察署刑事部の一室にて


「警部、例の爆発事件の報告書です」

「おう。スーパー立て篭りの件だな。どれ、見せてみろ!」


 警部と呼ばれた男が部下から数枚の資料を受け取り目を通していく。

 男は資料を読み進めるに連れ、顔色が険しく変化する。


「……何だこれは!? 鎮火方法が不明? 消防の奴等は何をやってんだ!」

「それだけではありません。この事件は不可解な点が多過ぎます!」


「むう? ……なに、犯人は呼び掛けに一切応じないが、生活に支障はない……だと? 何じゃこりゃ?」

「文面からは信じられませんが、意識は無いものの、普段の生活は送れるという通常では有り得ない精神状態との事です。そして、こちらがスーパーの防犯カメラの解析ですが……」


「何だこの映像は! 一体どうなってやがる!? これじゃあまるで……」

「……はい。まるでこの男が炎を吸い取ったように見えます」


「この男はどこに居る?」

「それが、我々が駆けつけた時は既に立ち去った後でして……」


「人質に遭った被害者はこの男について何と言ったんだ?」

「それが……犯人については素直に話していますが、この男については知らないの一点張りなんです」


「むう。こりゃ単なる立て篭りじゃ収まらねぇかもしれねぇな……」

「そうですね。もう少し細かく調べてみます……」


 刑事たちは立て篭りの捜査が進むに連れ、非常識な事態の数々に頭を抱えていた。

 単なる爆発事件は後に、世界を巻き込む事態へと発展する事になるのだが……

 今はまだ、誰も知る由もない。


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


執筆中に211件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は8日の予定です。

→諸般の事情により、暫く延期とさせていただきます。

更新日が決まり次第こちらへ追記致します。

申し訳ございません。

→大変お待たせ致しました。

次回は5月11日に更新致します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんないい子だし、人質の人たちもいい人で良かったなと思いきや、まさかの警察! どうなることやら。 ついに、メルダが正ヒロインになるのか?
[一言] >慌ててメルダを降ろすと、メルダの顔が赤く染まっていることに気付く。 こ、これは、遂に……!! あー、刑事に目をつけられちゃいましたねw どうなることやらw
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