7話 【そして、俺は悟ったんだ。
「なっ、なんと! 炎を出しおったわ……」
そして、炎は部屋全体に広がる。
驚いた兵士の一人が応援を呼びに部屋を出ようとするが……
「待てい! 余計な事をするなと言うたろうが! そこで大人しくしておれ!」
王様は兵士をその場に留めて俺を注視した。
なかなか肝の座った王様だと感心する。
やがて轟々と燃え盛る炎は部屋全体を包み込む。
そして全身炎化を解除し、炎は静かに消え去った。
「素晴らしい…… 素晴らしいぞ、トールよ! これであの未曾有の大火事が消火された理由がはっきりしたわ! ははははは!」
王様は満足した顔で大業に笑った。
兵士達は腰を抜かして座り込んでいる。
「実は、あの大火事の消火に梃子摺っておっての。もう少し消火が遅れていたら、更なる惨事になっておった。トールよ、お主の活躍、大義であったぞ!」
「ありがとうございます。被害を抑えることが出来て、俺も嬉しいです」
俺が消火しなければドラムは助けられなかったが、それ以上に街への被害も広がっていただろう。
「しかしな、お主も知っての通り、消火に当たっていた者が一人犠牲となった。炎によるものではなく、何者かに殴打されていた。トールよ、何か知っておるか?」
「はい。強化スライムというのはご存知ですか? それを指揮していた者が、彼を殺害しました」
「何! 強化スライムだと? あの忌々しいスライムの指揮者が今回の大火事に噛んでおったか……」
「犯人の名はプルトニーと言い、魔王シェリー・スカイラインの差し向けた刺客です」
「これは貴重な情報じゃ。お主に褒賞を与えよう」
王様は兵士に目配せさせると、先程まで腰が抜けていた兵士が部屋から出て行き、腕輪のようなものを持ってきた。
「この腕輪は精霊の加護を受けたものでの。装備者に降り掛かる不幸を防ぐと言われておる。腕輪自体も高価なものだ、これをお主に与える」
そう言って腕輪を手渡され、俺は腕輪を装備し一礼した。
フォンに目をやると、真顔でこちらを見ている。
金貨じゃないのかと言いたそうな顔だった。
「不躾な事をお聞きしますが、この腕輪はどのくらいの価値があるのでしょうか?」
こんな事聞きたくないよ? 聞きたくないけどさ、フォン奴がさ…… そのさ…… ごめん、俺も気になった。
「そうよのぉ、金貨200枚はくだらぬのではないか?」
「っぱーん!」
王様の言葉にフォンはいつものように倒れた。
その反応に、オルガやダルスは勿論、ドラムまで肩を竦めた。
※ ※ ※
俺達は城を出ると、貰った腕輪を眺める。
「こんなのに金貨200枚の価値があるんだわさ?」
「ただの腕輪にしか見えないっす……」
「特に珍しさも感じないが……」
「我輩には解らぬ代物である」
俺にもただのガラクタにしか見えない。
機会があれば売りに出そうか。
しかし精霊の加護があるらしいし、そんなに簡単に売っていいのか?
そう思いながら俺達は宿屋へと戻った。
※ ※ ※
俺達は宿屋で寛いでいた。すると……
「パリーン!」
何かが割れた音がする。
俺はダルスとフォンを見るが、二人共高速で首を振っている。
流石に二回目は無いようだ。では、何だろう?
音は外から聞こえた気がするが……
外の様子を見に行くと、おっさんがチンピラ二人に絡まれていた。
「おいおっさん! どこ見て歩いてんだよ! 服が汚れたじゃねーかよ!」
「そうだそうだ! 弁償だ! 弁償!」
「すっ、すいません。でも貴方達がぶつかってきたんじゃ……」
「あぁ? 服を汚しておいてイチャモン付けるのか? おっさん! なめてんのか?」
「そうだそうだ! なめてんのか?」
どこかで見たシチュエーションだ…… しかもあのチンピラ、居酒屋に居た奴だ。
そういえば前回、チンピラ共は覚えてろ! って言ってたな。
俺は覚えてたぞ。うん、ちょっと遊んでやるか。
「ちょっとちょっと、お兄さん達!」
「あぁ? なんだおめぇは? 部外者が口出しすんじゃねぇよ!」
チンピラは俺の胸倉を掴んできた。
こいつ、自分で覚えてろって言ったのに、俺の事を覚えてないのか?
「まあまあ、落ち着いて。話せば分かるよ」
「話す前になあ、まず弁償しろって言ってんだよっ!」
案の定、チンピラが殴り掛かってきた。
俺は上半身だけ炎化し、少し敵意を込める。
「熱い! 手が! 俺の手が燃えてるぅ!」
「お兄さん、帰った方がいいんじゃない?」
俺はニヤニヤしながらチンピラに語りかけた。
チンピラは顔色が青くなる。
「おっ、おまえはっ! あの時の……」
「あっ、思い出した? これ以上続けると、お兄さんの腕無くなっちゃうよ? まだやるの?」
「くっ…… 覚えてろぉ〜!」
「待ってよ兄貴ぃ〜!」
まったく、口ほどにも無い。
次に会っても俺の事は覚えていないだろう。
うん、間違いない。
さて、絡まれていたおっさんに視線を向けると……
「ありがとうございます…… おかげさまで助かりました……」
おっさんは俯いて溜息を吐き、然程喜んでいない。
俺は下を向くと、壺が割れていた。
「その壺そんなに大切なの?」
「ええ。この壺は我が家に代々伝わる家宝で、これから質屋に出そうとした矢先、あの二人にぶつかって割れてしまったのです……」
(へぇ、家宝なんだ。って、家宝を質屋に入れようとしてるの? このおっさん。結構まずい状況なんじゃないか? 仕方ない、直してやるか……)
「わかった。その壺直してやるからちょっと待っててよ」
「は、はぁ…… こんなに粉々で直すんですか?」
俺は全身炎化して、地面に散った破片を掌から飲み込む。
「も、燃えた!」
おっさんが裏返った声で呟いたが気にしない。
そして『複製修理』で壺を直し、腹から取り出した。
「ほい、出来たぞ。今度は絡まれるなよ!」
壺を渡して立ち去ろうとすると……
「ちょっと待ってください! うちはこの先で料理屋をやってるんです。お礼させてください」
おっさんに引き止められた。
前回の店は微妙だったけど、今回はどうだろうか?
質屋に壺を持って行くところを見ると予想はつくが……
※ ※ ※
俺はフォン達を宿屋から呼び、おっさんの料理屋へ入る。
六人掛けのテーブルに座ると、麻婆豆腐のような物が出てきた。
「これは?……」
「はい。これはウチの看板メニュー、ナーゾードーフです。ナゾ挽肉と豆腐を煮込んだものになります」
ここでもナゾ肉が出てきた。しかも挽肉で。
一体ナゾとはどんな生物なんだろうか、是非とも一度生きている姿を見てみたい。
そう思いながら、俺達はナーゾードーフを口に入れる。
「「「「「まっず!」」」」」
知ってた。
家宝を質屋に持っていくおっさんの料理なんてこんなもんだろう。
だがしかし、不味過ぎる!
「おい! 何だこれは! まず過ぎるぞ!」
「おかしいですね…… 私は美味しいと思うのですが……」
このおっさんもあの居酒屋の店員と同じことを言い出した。
この世界の飲食店はどうなっているんだ?
ふと前を向くと、フォン、オルガ、ダルスが俺に熱い視線を送っている。
仕方ない、やるか……
「こんなものは食えない! 厨房を貸してくれ!」
「わかりました。食材も自由に使ってください……」
おっさんは肩を竦めたが、自分の料理のまずさを理解していないのか。
このままだと間違いなく潰れるだろう。
そう思いながら厨房へ入った。
材料を確認しよう。
豆腐、長ねぎ、生姜、ニンニク、サラダ油、そしてナゾ挽肉
相変わらず気味の悪い紫色の肉だ。
さて、調理に入ろう。
まずフライパンにサラダ油を引き、左手を炎化する。
中火程度の敵意を込めて熱し、長ねぎとナゾ挽肉を入れる。
ナゾ挽肉がなんとも言えない色に変色したら、調味料で味を整え、とろみを付けたら完成だ。
「ほら、出来たぞ!」
出来上がったのは麻婆豆腐。
言うまでもなく絶品だ。
おっさんを含めた五人に料理を置くと、フォン、ダルス、オルガは目を輝かせて麻婆豆腐を見つめている。
「さあ食え!」
その言葉に、待てを解かれた犬の如く、三人は麻婆豆腐を素早く口に運んだ。
「「「「「んん!……」」」」」
(勝ったな)
俺は満足して全員の顔を見渡す。
ドラムが口を開けて俺を見つめ、おっさんは泣いていた。
「うっ…… ううっ…… こんなに美味い料理、食べたことがない……」
人を泣かせて気持ちが良いことがあるんだな。
そして暫し考える。
(これはレシピを教えてやらないと、この店は間違いなく潰れるな……)
「なぁ、おっさん。この料理、作ってみるか?」
すると、おっさんの顔が歓喜の表情になる。
「是非とも、作り方を教えてください!」
おっさんは頭を下げた。
レシピを教えると、おっさんが作った麻婆豆腐が全員の前に出され、各々が口に含む。
「美味しいんだわさ!」
「美味いっす!」
「美味いな」
「美味である!」
概ね良好のようだ。
俺の麻婆豆腐程ではないが、合格点には達したらしい。
「これはお礼です。好きなだけ飲んでください!」
俺は麻婆豆腐を食べ比べていると、おっさんは酒を持ってきてくれた。
ダルスは嬉しそうに酒を飲み始め、ドラムもゆっくりと口をつけた。
しかしフォンとオルガは酒を前に固唾を飲んでいる。
先日の失敗を思い出したのだろう。
しかし失敗を恐れて立ち止まっては、先に進むことは出来ない。
これを酒に当て嵌めるべきかは賛否別れるだろうが、俺は二人に酒を勧めた。
「なぁ、少しなら、良いんじゃないか?」
「少しなら、うん、少しなら……」
「ああ、少しなら大丈夫だろう、少しなら……」
俺の言葉にフォンとオルガは暫し戸惑いつつ、二人は酒を口にした。
※ ※ ※
30分後、テーブルには案の定あの光景が広がっていた。
「ちょっとダルスぅ、アンタはアタシの事どう思ってんのよ!」
「ええっ? どうって言われてもオイラは仲間だと思ってるけど……」
「ううっ…… オレは、いっつもいっつも迷惑掛けてばかりで、役立たずで…… ううっ……」
「そんな事はない。オルガは断じて役立たずでは無いのである!」
やはりカオスだ。
ダルスはフォンに呑まれ、オルガはドラムに引き揚げられている。
※ ※ ※
更に30分後、眠るフォンをダルスが背負い、オルガをドラムが慰めながら、俺達は店を出ようとしている。
しかし俺は一つ気になることがあった。
「なぁ、おっさん。あんた、家宝を売る程困ってるんだろ?」
「はい…… 実はこのままだと、あと3日持つがどうかで……」
状況は思ったより深刻そうだ。
「その家宝、売ったらいくらになるんだ? その金で何日持つ?」
「はい…… 査定結果は金貨20枚でした。これだけあれば、あと2ヶ月は頑張れるかと……」
「そうか。ちょっと待ってろ!」
俺は全身炎化し、腹から金貨20枚を取り出した。
「これを貸してやる。店が軌道に乗ったら返してくれ」
「よ、宜しいのですか? こんな大金を……」
「俺の麻婆豆腐のレシピがあれば、何とかなるだろう。それで店を軌道に乗せるといい」
「はい! 本当に何から何までお世話になりました……」
おっさんはようやく顔を綻ばせた。
ダルスとドラムは目を丸くしたが、直ぐに納得してくれたようだ。
こうして俺達は店を出て宿屋へ向かう……
※ ※ ※
一夜明け、俺達は宿屋を出ようと支度をしていた。のだが……
「ああぁ……」
「ううぅ……」
フォンとオルガが放心状態になっている。理由は勿論昨晩の醜態だ。
「もうアタシ、絶対にお酒なんて飲まない……」
「オレは…… オレは…… ううっ……」
うん、まぁ、そのうち治るだろう。
喘ぐ二人を横目に、俺達は鉱山都市サルマトラン王国を出ようとしていた。
「なぁ、フォン。ここから天空都市スカイラインへはどうやって行くんだ?」
「トール様…… はぁ……」
フォンは使い物にならなかった。
困ったな、道案内が居ないぞ。
「トール様! 我輩が天空都市スカイラインへの道案内をするのである!」
「ドラムお前、プルトニーに記憶を消されたんじゃないのか?」
「いやいや、消されたのは我輩に関する記憶だけで、経験や知識は消されていないのである……」
「そうか、じゃあ道案内頼めるか?」
「お安い御用である!」
ドラムが道案内を買って出てくれた。
プルトニーに記憶を消されたが、飽くまで自分自身に関する記憶のみらしい。
この言葉を信じて道案内を頼んでみた。
※ ※ ※
鉱山都市サルマトラン王国を出て半日程歩くと、天空に浮かぶ島が見えてきた。
「あれが天空都市スカイラインだわさ…… アタシ達の敵、魔王シェリー・スカイラインが治める国…… 人口は300万人…… 見晴らしが良いと言われてるんだわさ……」
フォンが疲れた声で説明する。
一見普段と変わらないが、目の中に光がなかった。
そんなフォンに見兼ねたダルスが溜息を吐く。
「はぁ。アタシ痺れちゃった! って、フォン、お前なかなか痛い事言うよな! オイラ笑っちゃったっす!」
フォンを挑発した。
その言葉にフォンの顔は赤くなり……
「なんですって!! もう一度言ってみなさいよ!!」
フォンは逆上し、ダルスに向かって殴り掛かった。
ダルスはそれを難なく躱す。
するとフォンの拳がダルスの背後にある木にヒットする。
その衝撃で20メートルもあろうかという木が倒れた。
ダルスは顔が引き攣り、俺達は静かに苦笑する……
「フォン! お前いい加減にしろよ! お前が暴れると周りの被害が大き過ぎるんだから……」
「うっ…… 気をつけるんだわさ……」
俺はフォンに注意すると、肩を落として反省していた。
しかし、目にはいつも通り光が戻っている。
これはダルスの気配りのおかげだろうな。
このくらい元気な方がフォンらしくて良い。
※ ※ ※
色々あったが、俺達は天空都市スカイラインの真下へ到着した。
「鉱山都市サルマトランと天空都市スカイラインを結ぶ足としてワイバーンタクシーが常備されているのである! しかし、ワイバーンタクシーは飛べない者の足元を見ているので料金が高い! 我輩は飛べるので、皆を引っ張って天空都市スカイラインへと連れて行くのである!」
ドラムが凄いことを言い出した。
俺達四人を引っ張って、空に薄ら見える島に連れて行く? そんな事、出来るのか……
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