66話 目立つ事してんじゃねえ!
「ほらよ。スマホと充電器だ」
「うわー! トール、ありがとう!」
メルダは嬉しそうに俺から袋を受け取ると、袋の中を確認している。
その様子は、まるでプレゼントを貰った子供のようにキラキラとした笑顔を浮かべていた。
「……さてと、そろそろ帰るか」
「そうね。でも、みんなはどこかしら?」
辺りを見回すと、フォン、ダルス、七海の姿は無かった。
七海は兎も角、フォンとダルスは何かを仕出かすかもしれない。
トラブルを起こしてしまった時は、どのように対処すれば良いのか。
様々な事を考えていると背中から冷や汗が流れた。
俺は慌てて思念通話を試みる。
《おい、フォン、ダルス! 何処だ?》
《トール様! これ凄いっす! うわぁ! うわぁぁぁぁ!!》
《ダルス! おいダルス! 何があった!?》
《トール様! アタシが! アタシとダルスがいっぱい居るんだわさ!!》
フォンとダルスがいっぱい?
鏡か? いや、異世界にも鏡はあったから鏡で驚くとは思えない。
だとすれば……防犯カメラか?
俺はメルダの手を取ると、防犯カメラコーナーへ向けて歩き出す。
「よしメルダ、行くぞ!」
「ちょっと! 行くって何処へ行くのよー!」
首を傾げるメルダを余所に、ずんずんと店の奥へ進んで行く。
暫くすると、踊っているような二人の人影が目に映る。
「凄いんだわさ! アタシが沢山!」
「オイラにもやらせるっす! イーッ! オーッ!」
二人は防犯カメラの前で踊ったり、変顔をしてモニターの前で大笑いしていた。
その様子は小学生のようで、七海は苦笑しながらその光景を眺めている。
ふと周囲を見回すと、店員がゆっくりと二人へ声を掛けようとしていた。
俺は額を押さえて肩を震わせる。
「おい、お前ら……」
「お、お兄ちゃん……」
七海は申し訳無さそうに俺へ視線を向けるが、サッと目を逸らした。
二人は未だに防犯カメラの前で踊り続けている。
「おい……」
「あっ、トール様! これ凄いんだわさ!……ひっ!?」
「あっ、トール様! これ面白いっす!……ひっ!?」
「お前ら……! 目立つ事してんじゃねえ!!」
「あたたたた……」
「いてててて……」
俺は二人の首元を掴むと、ズルズルと引き摺った。
フォンとダルスは踵を地に付け、仰向けになりながら大人しくその場を後にする。
「ちょっと待ちなさいよ!……」
「あはは……お騒がせしましたー……」
メルダは慌てて俺の後を追い、七海は辺りを見回すと、周囲で苦笑する店員たちへ平謝りをしながら、メルダの後を追うのだった。
※ ※ ※
俺達はショッピングモールを出ると、休憩を兼ねた反省会を路地裏でしていた。
仁王立ちする俺の前に、フォンとダルスが正座をしている。
「おいお前ら! あれほど目立つなって言っただろ!」
「「ごめんなさーい……」」
二人は苦い表情で俺を上目で見つめ、俺は鼻息を荒げる。
「ったく、次は目立った事をするなよ。警察に目を付けられたら大変なんだぞ……」
「「はーい……」」
二人は大人しく反省の態度を見せた為、俺は溜飲を下げた。
メルダと七海はヤレヤレといった表情で俺達を眺めている。
「よし! じゃあ気を取り直して帰るか!」
全員が頷き、俺達は帰路に就く。
来た道を戻りながら、繁華街を抜けようとしていた。
俺を先頭に、ダルス、メルダ、フォン、七海と続く。
横断歩道を青信号で渡り切ろうとした時、ブオォォォォとエンジンを噴かしながら猛スピードで直進する車が現れた。
車は急ブレーキを踏みながら、横断歩道へ突っ込んで行く。
俺が振り返ると、速度的に丁度フォンと七海に直撃するタイミングだった。
俺は咄嗟に七海へ向けて走り出し、手を伸ばす……
「七海ぃー!」
直後、ゴシャっと鈍い音が辺りに鳴り響いた。
周囲はタイヤが擦れて発生した白い煙により、視界が優れない。
「まさか、七海が、そんな……」
俺の頭は真っ白になった。
大事な妹が轢かれたのだ。
あの勢いで衝突すれば、無傷では済まないだろう。
全身炎化していれば、衝突する前に七海を救えたかも知れない。
だが、突然の事態に判断する余裕は無かった。
人型の運動能力は、腕力や脚力であれば常人を軽く凌駕するが、走る速度は人間と同等だ。
暴走車に追いつく事は不可能だった。
嫌な汗が額を流れる……
「嘘だ! 七海が、轢かれたなんて嘘だ……七海! 七海ぃー!!」
俺は涙を流しながら叫んだ。
「お兄ちゃん!!」
だが、直後に七海の声が聞こえる。
「な……七海?」
「お兄ちゃん! あたしは大丈夫よ!」
徐々に煙が晴れると、そこにはボンネットに手をついたフォンが立っていた。
「……ん?」
フォンは何食わぬ顔で俺達の方を向いているが、ふと手元に視線を落とす。
「……あっ!」
フォンが手をつくボンネットには、フォンの手形がくっきりと刻まれ、その周辺はグニャリと変形していた。
どうやらフォンは素手で車を止めたらしい。
事態を理解したフォンは、驚愕の表情で俺に視線を向ける。
「あ……あわわわわ……」
フォンは目を丸くし、涙目になりながら俺の元へ駆け寄って来た。
更にフォンの後を七海も追う。
「トール様……また……やっちゃったんだわさ……」
「フォン……」
「うぅ……ごめんなさいだわさー!!」
フォンは深々と俺に頭を下げる。
「フォーーーーン!! ありがとおおおお!!!!」
「えっ??」
だが、そんなフォンを余所に俺は泣きながらフォンに抱きついた。
「ありがとう!! お前があの車を止めなければ、七海は無事では済まなかった!! フォン、お前のおかげだ! ありがとう! 本当にありがとう!!」
「えっ? あ、あはははは……なんかよくわかんないけど、良かったんだわさ! あはは、あはははは……」
俺の顔を眺め、フォンは苦笑しながら俺の肩を叩いた。
「お兄ちゃん!!」
直後、七海が俺を呼ぶ。
「おゔ、七海ぃー! 良がったよぉ! お前が無事で本当に良かっだよぉー!!」
「お兄ちゃん……ごめんね、心配掛けて。でもフォンちゃんのおかげで助かったわ! フォンちゃん、ありがとう!」
俺は七海を抱きしめながら号泣すると、七海はフォンへ顔を向ける。
「あはは……なんか柔らかいものが突っ込んできたから止めただけだわさ! でも、七海ちゃんに怪我が無くて良かったんだわさ!」
七海はフォンへ頭を下げるが、フォンは両手を振ってそれに応えた。
俺は七海の無事を確認し安堵すると、突っ込んで来た車へと視線を向ける。
すると車はボンネットから下が陥没し、運転席はエアバッグが展開され、運転手の40代の男は泡を吹いて気を失っている。
車体は、まるで電柱に衝突したかの如く変形していた。
俺達が落ち着いたところでメルダが顔を痙攣らせながら口を開く。
「ねえトール、これって普通じゃないわよね? トラブルを起こしたら不味いんじゃないの?……」
周囲を見回すと、野次馬達が集まり始めていた。
警察が来るのは時間の問題だろう。
一刻も早く立ち去るべきなのは間違いない。
だが、一つ気掛かりな事があった。
運転手の意識が無いのだ。
このまま警察が来るまで放置したら、助からないかも知れない。
不安になった俺は車に駆け寄った。
扉を開けようとするが、車体が歪んでいる為に開ける事が出来ない。
「チッ、仕方ないか……」
窓に人差し指を置く。
そして指に炎を纏わせると、瞬時に敵意を込めていく。
指先の温度が800度を超えると、ドロリとガラスが溶け始めた。
すかさず掌をガラスに付け、熱の回収を行う。
すると液体となったガラスは直ぐに固まり、窓には拳大の穴が空いた。
その穴から手を入れ、運転手の肩を叩く。
「おい、大丈夫か? おい!」
「うっ……腹が……痛い……」
運転手の腹部を見ると、傘が脇腹を貫いていた。
最悪なことに、傘はストローのように血液を体外に放出している。
運転席の足元には血溜まりが出来始めていた。
直ぐに止血しなければ命に関わるだろう。
「くっ、これか……待ってろ! 今助けてやる!」
俺は運転手の治療を試みることにした。
右腕を窓から車内へ突っ込むと、手首から先を炎化させる。
「クソっ!……車が燃えやがったか……オレは……ここまでか……」
「安心しろ! この炎は大丈夫だ! 絶対助けてやるから待ってろ!」
男は混乱するが、それを宥める。
そして掌から炎を放ち、男の腹を貫いている傘の先端を焼き切った。
男の背後と足元に傘の先端と持ち手がゴトンと転がる。
「すまねぇな……兄ちゃん……ちと飛ばし過ぎた……」
「本当だよ、全く。歩行者を撥ねてたらどうする気だったんだ!」
他愛の無い会話をしながら、傘を引き抜く体勢を整えていく。
「ははっ。そうだな……オレは人殺しで刑務所行き……だったかもな……」
「ま、これに懲りてもう飛ばさない事だな。さて、傘を抜くぞ! かなり痛いが耐えろよ!」
そして傘の破片を掴み、男の体から引き抜き始める。
グジュグジュと水気の含んだ音を立てながら、男の腹部から傘の一部が抜け出ていく。
「ぐああああ!!」
男は絶叫するが、それを無視して治療に入る。
炎を傷口に侵入させ、視界を炎へ移した。
傷口を眺めると、出血以外は大したことが無さそうだ。
これなら傷口を塞げば救急車が来るまでは耐えられるだろう。
男の体内に侵入している炎を傷口へ集中させ、肉が焦げないギリギリの温度で焼き、縫合していく。
「いでぇぇぇぇ!!」
「我慢しろ! もう少しだ!」
縫合が終わると炎を回収し、腕を人型へ戻すと窓から腕を引き抜いた。
すると男は穏やかな顔つきとなる。
「なんだか知らねぇが助かった……兄ちゃん、ありがとな」
「おう。もう無茶して飛ばすなよ!」
そう言うと俺は逃げるように車から仲間達の元へ走った。
僅か数分の出来事だったが、周囲を気にしながらの手術は数時間が経過したように感じられた。
暫くすると、救急車のサイレンが聞こえて来る。
どうやら誰かが通報したらしい。
「ここに居たら面倒な事になりそうだ、みんな行くぞ!」
全員が頷き、俺達は足早にこの場を後にした。
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