62話 だらしないねぇ!
――時は|暫し(55話へ)遡る
海上都市サッティンバーグの宿屋にて……
「じゃ、行ってくる!」
異世界ではトール達と別れた後、ドラムとオルガは向かい合い、無言で互いを見つめ合っていた。
「行ってしまったのである……」
「そうだな……」
暫くの沈黙の後にドラムがため息混じりに口を開く。
「……ふぅ。さて、我輩達も行くのである」
「ほ、本当に……行くつもりなのか?」
オルガはトールが地球へ旅立っている間に、天空都市スカイラインの“人間お断りの居酒屋”の店員であるニャイの元へ通おうと密かに画策していた。
だが、策が仲間達に見破られ、オルガは赤面している。
「今行かなくて、いつ行くのであるか!」
「いや……その……まだ、トール様が戻るまでは時間があるわけだから、そんなに焦らなくても良いだろう……」
オルガは静かに俯きモジモジとしている。
この様子ではトールが戻るまで此処から動かないだろう。
見兼ねたドラムは勢いよく立ち上がり、オルガの手を取ると半ば強引に宿屋の外へと連れ出す。
「ええい! 見てられないのである!」
「お、おい、引っ張るな……」
そしてオルガを羽交い締めにすると、ドラムは巨大な翼を広げ、周囲へ爆風を放ちながら意気揚々と天空へ飛翔した。
「さぁ出発である! 愛しのニャイの元へ!」
「まっ、待てドラムよ……オレはまだ心の準備がっ!」
「問答無用! 心の準備は会ってからゆっくりとするのである!!」
「おい! それでは遅いだろ! おい! ドラム! 待て! おーい!!……」
こうして、ドラムの押し付け……いや、粋な計らいによりオルガはニャイの元へと向かうのであった。
※ ※ ※
「グフフ……奴等が別行動を取った今がチャンスだじぇ……」
だが、二人の背後に不穏な影が忍び寄る。
嵐の前の静けさの如く、空は雲一つない青空が広がっていた……
※ ※ ※
二人が天空都市スカイラインのワイバーンタクシー乗り場へ到着すると、オルガは漸くドラムから解放された。
「う〜ん! 矢張りここは空気が美味いのである!」
「うぅ、こんな心境では空気なんぞ楽しむ余裕は無いぞ……」
「さっ! 行くのである!」
「おい、行くのはオレなんだぞ……」
腕を振りながら突き進むドラムへオルガはジト目を向けるが、それをドラムが気づく事はない。
オルガの悲痛な心の叫びは無情にも掻き消され、オルガの胃はキリキリと悲鳴を上げていた。
陽が傾き始めた頃、二人は“人間お断りの居酒屋”の前に辿り着く。
「着いたのである! ささっ、入るのである!」
「おっおい、まだ心の準備が……」
扉の前で立ち尽くすオルガを余所に、ドラムはニヤリと嗤い店内へと歩を進める。
「いらっしゃい! おや? 珍しいね! 今日はトールは一緒じゃないのかい?」
二人が店内へ入ると、兎の獣人の店員ラビが口を開いた。
「うむ。今日は二人だけである。そして我輩は付き添い。用があるのはこっちである!」
「うおおっ……」
ドラムに勢いよく背中を押されたオルガは、態勢を崩し店内へと雪崩れ込む。
そしてラビの前でピタリと止まると、ラビと目が合った。
「おや。ええと、アンタは……」
「オ、オルガだ……」
「そうかい。で、今日はアンタ達二人で飲んで行くのかい?」
「うむ。ところで今日はニャイは来ているのであるか?」
ラビは怪訝な表情で二人を見遣る。
「ニャイ? ……あっ、思い出した! オルガ! アンタ、ニャイに一目惚れしてただろう?」
「いや、それは、違う……いや、その……」
ストレートにラビの指摘を受けたオルガは目を泳がせ顔を引攣らせている。
するとラビは大きく溜息を吐くと、目を吊り上げた。
「へっ、だらしないねぇ! 惚れた女に好きと言えないでどうするんだい? 男ならもっと、どーんと構えな! どーんと!!」
「ぐほっ……」
ラビの剣幕に気圧され背中を叩かれたオルガは、タジタジになりながら二人掛けのテーブルへと腰を下ろした。
「では我輩も……」
オルガに続きドラムも店内へと進むが、ラビに呼び止められる。
「ちょっとちょっと!」
「む? 何であるか?」
「オルガとニャイが両想いなのはわかるけどさぁ。あんな調子で大丈夫なのかい? アタシゃニャイが心配になってきたよ……」
「うーむ、こうなったら我輩が一肌脱ぐのである!」
「じゃ、ひとつ任せたよ。ええと、アンタは……」
「ドラムである!」
「ドラム。ニャイはもう少ししたら出勤するからね。それまで何とかして、あの陰鬱な空気を払拭しておくれよ!」
「うむ。我輩に任せるのである!」
ドラムは大きく頷くと、ラビもそれに合わせて頷いた。
二人は結託してオルガとニャイの仲を取り持つ為に躍起になるのだった。
暫くすると、数人の客が来店する。
「おうラビ! いつもの頼むぜー!」
「あいよ! ちょっと待ってな!」
狼の獣人グレインを筆頭に、常連たちがテーブルに着いた。
すると、グレインはドラムと目が合い口を開く。
「おっ? あんたは確か、ダルスと一緒に旅してる……」
「我輩は龍人のドラム、こっちはオークのオルガである!」
「おうドラムとオルガ、よろしくな!」
「よろしく頼むのである!」
「よ、よろしく……」
ドラムはキレの良い挨拶を返し、オルガはやや俯きつつ返答した。
「あいよ! いつものね!」
グレイン達のテーブルには見慣れた酒やツマミなどがラビによって並べられていく。
そんな中、グレインが酒を片手に口を開く。
「それで、今日は二人だけなのか?」
「うむ。今日はニャイに用があって来たのであるが……」
「ニャイ? あの子に一体何の用だ?」
「うむ。実は……」
怪訝な表情を浮かべるグレインにドラムがふと閃く。
「そうである! グレインたちに頼みたい事があるのである……」
「俺たちに頼み?」
「お、おい、余計なことはしなくていいぞ……」
料理を並べ終えたラビがオルガの背を叩く。
「オルガ! あんた本当にニャイと一緒になりたいって思ってんのかい!?」
「うぐっ……あっ、ああ……思って……るっ!……」
ラビの喝により咳き込むオルガを余所に、ドラムは飄々とグレインたちへ説明を始める。
オルガとニャイは明らかに両想いだが、関係は平行線だという事。
そして今日はオルガがニャイへ、その想いを告げに来たという事を。
「……という訳である!」
「おおっ!? ってことは、俺たちに二人の関係を形にする手伝いをしろって事だな?」
だが、オルガがドラムの前に割り込むようにテーブルから乗り出した。
「ま、待てドラム! オレは……一人でだいじょ……むぐぐ!」
「今、良いところなのである! オルガは少し黙っているのである!」
しかし、オルガはドラムに口を塞がれ押し戻されてしまった。
更にラビからもオルガへ追加のカウンターが飛ぶ。
「あんた、本当に一人で告白なんて出来るのかい!? えぇ!?」
「うぐっ……」
ラビに気圧されると、遂にオルガは借りて来た猫……もとい、借りて来たオークの如く肩を丸め蹲ってしまった。
そしてドラムは再びグレインへ向き直ると、口元を歪め目線を合わせる。
「……グレイン、どうか頼めるか?」
「おう! 俺に任せとけ! ニャイの為にも、ここは何としても二人をくっつけてやるぜ!」
ドラムとグレインはガッチリと手を組むと、力強く頷いた。
「はぁ〜……」
そんな二人を横目に、オルガは弱々しく溜息を吐くのだった。
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