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59話 フォンの踵落とし

レビューを頂きまして、嬉しかったので更新日を前倒し致しました。

 

「お兄ちゃん! おっはよー!」


 聞き慣れた声で薄っすらと目を開けると、七海が俺の傍らに座していた。

 隣では未だにダルスが寝息を立てている。


「ん……七海、おはよう……」

「くかー……」

「おはよう、お兄ちゃん! ……あれ? フォンちゃんとメルダちゃんは?」


「んぁ? ああ、あいつらか……」


 俺は、のそっと立ち上がると、半目で腹をポリポリと掻きつつ全身炎イフリート化した。

 そして寝惚け眼を擦りながら腹に手を突っ込み、齧ったスイカの種を舌で掘り当てるような要領で体内を弄る。


(ん〜あいつら……この辺りを漂ってんのかなぁ〜……あ、これか!)


 フォンとメルダの気配を掴むと、腹から二人を吐き出した。


「くかー?」

「あいたっ!」


 すると二人は勢いよく飛び出し、床に積み重なる。

 その様子に七海が苦笑しながら口を開く。


「メ、メルダちゃん大丈夫?」

「七海ちゃん……だ、大丈夫よ、いつもの事だから……」

「くかー!」


 メルダは乱れた髪を直しつつ、半目を擦りながら答えた。


「これがいつもの事なの? お兄ちゃん、乱暴なんじゃない?……」

「そうよ! トールはちょっと乱暴なのよ! ……あ、でもあんまり言うとまた拗ねちゃうわね。早く機嫌直しなさいよ!」


 ジト目で見つめてくる七海と、意地悪な嗤いを向けるメルダに俺は口を尖らせ視線を逸らす。


「し、仕方ないだろ、お前らだけを取り出すのは難しいんだからさ……あと、もう拗ねてなんかないぞ!!」


 とは言いつつもバツが悪くなり、俺は顔を洗う為、逃げるように洗面所へ向かう。


「でもフォンちゃんって凄いのね。あんなに派手に飛ばされても起きないなんて……」

「これもいつもの事ね。フォンは図太くて繊細なのよ」


 顔を洗っていると二人の会話が耳に入ってきた。


「「くかー!」」


 丁度その時、フォンとダルスの鼾が重なる。


「ふふっ、お似合いね……」


 七海は目を細め二人を一瞥すると静かに微笑んだ。

 だが、フォンは突如左足を振り上げる。

 振り上げた足の真下にはダルスが転がっていた。

 その様子を七海は目を丸くして眺めている。


「ん? フォンちゃんどうしたのかしら?」


「ダルス……覚悟……するんだわ……」


 どうやらフォンは夢の中でもダルスと喧嘩をしているようだ。


「えっ? 待って待って! このままじゃダルスくんが……」


 七海の願いも虚しく、フォンの踵落としがダルスの鳩尾へ直撃する。


「さっ!!!!」

「ぐっっっっへぇぇぇぇ!!!!」


 ドゴオオオオンという衝撃と共に、建物全体にギイイイイと軋む音が響く。

 ダルスがクッションとならなければ、建物が崩壊していたかもしれない……


「うわぁ凄い音……それに少し揺れたよ!?」

「うん……あの一撃はちょっと可哀想ね……」


 そんなフォンの破壊力に七海とメルダは唖然とし、ダルスは大きく目を見開くと涙目になりながら飛び起きた。


「ぐはぁ〜……朝から酷い目にあったっす……」


 七海とメルダは、心なしか窶れた顔のダルスへ苦笑しながら挨拶を交わす。


「ダ、ダルスくん、おはよう……大丈夫?」

「おはようダルス……」

「二人とも、おはようっす……うーん、何とか大丈夫っす……」


 ダルスは意識が覚醒すると、恨めしそうにフォンの顔を覗き込む。


「しっかしコイツ、人を蹴っておいて全く起きない……」

「はー! よく寝たんだわ……」


 直後、フォンは目を大きく見開くとガバっと起き上がった。


「……っす!?」

「……さ!!」


 勢いよく起き上がったフォンは、図らずもダルスと唇が重なってしまう。

 そしてブチュ〜っと熱い音が室内に響いた。


「「んん!?」」


 突然の事故にフォンとダルスは唇を重ねたまま目を丸くする。

 そしてチュポンと唇が離れると、二人の意識が戻ってきた。


「やっ、やっちゃったんだわさ……」

「うえぇ……フォンと……やっちまったっす……」


 フォンは顔を両手で抑え俯き、ダルスは目を丸くし驚愕の表情を浮かべた。

 そんな二人へメルダが苦笑交じりに声を掛ける。


「ちょっと、二人とも大丈夫?」

「まったく、フォンの所為で酷い目にあったっす……」

「ううう……大丈夫じゃ……ないんだわさ……ダルスと……初めての……キ……あぅぅ……」


 だが、ダルスの反応を余所に、フォンは顔を赤らめて塞ぎ込んでしまった。


「お、おいフォン、どうしたんだよ……」


 ダルスはフォンの予想外の反応に戸惑い、辺りをキョロキョロと見回している。


「オ、オイラ、どうしたらいいっす?……」

「あーあ、ダルスくん自覚無いんだね……」


「えっ? 七海ちゃん、どういう事っす?」

「ふふふ。フォンちゃんの気持ちに早く気付いてあげた方がいいよ!」


 七海は意味深にダルスへ諭し軽く肩を叩くと、首を傾げるダルスを余所に、紙袋の中身を取り出した。


「はいこれ! フォンちゃんとメルダちゃんの服だよ! サイズはちょっと微妙かもしれないけど……」


 メルダは七海から服を受け取ると、風呂場の脱衣所で着替え始めた。

 フォンも静かに服を受け取り、顔を赤らめながらメルダの後に続く。

 やがて二人は着替え終えるとダイニングへ戻ってきた。

 メルダの服装は白を基調とした長袖のワンピース姿で、フォンは茶色のポンチョコートを纏っている。


「あっ、メルダちゃん可愛い! フォンちゃんも似合ってるよ!」

「本当? 七海ちゃん、ありがとね!」

「あっ、ありがとだわさ……」


 ダルスは気まずそうにボソっと呟く。


「フォン、その……似合ってるっす……」

「……ほんとに?」


「……おう! すっごく似合ってるっす!! 最高っす!!」


 ダルスは半ばヤケクソにフォンを褒めるが、それに気を良くしたフォンは徐々に笑顔となっていった。


「ダルス、ありがとだわさ!」

「おっ、おう……」


 フォンは満面の笑みをダルスへ向けると、ダルスは少し照れながら目線を逸らす。

 こうして一悶着ありながらも、俺達は何とか平穏な朝を迎えた。

 そして俺は朝食の準備の為にキッチンへと向かう。


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


執筆中に156件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は1日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー、アンラッキーからのラッキースケベ? チューはスケベといっちゃダメですね。 これで、フォンとダルスの仲が進展したらいいですね。 熱いよヒューヒュー(古い)。
[一言] チューキタアアアア!!!w ダルスが鈍感系ラノベ主人公みたいww 主人公はトールなのにw
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