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55話 異世界獣人の地球旅行

 

 翌日、俺達は身支度を済ませると、今後の流れについて打ち合わせを始める。


「まずは注意事項だ。フォン、メルダ、ダルスの三人は、今から言うことを絶対に守ってくれ。いいな?」


 俺が考えた地球での注意事項は以下の3つだ。


 ・能力を使わない事

 ・獣人とバレてはいけない

 ・物を壊したり殺してはいけない


「わかったわさ!」

「ええ!」

「了解っす!」


 三人はまるで遊園地を前にした子供のように目を輝かせ、うんうんと頷いている。

 注意事項が頭に入っているのか、とても心配だ。


「た、頼んだぞ……」


 そして俺はドラムと目を合わせると、ドラムは静かに頷いた。


「オルガとドラムは留守番だな」

「ああ……すまない」


「気にするな、誰だって気乗りしない時はある。一人の時間を作るのも大事だ。ニャイに会いに行きたいんだろ?」


 最近、オルガはソワソワして煮え切らない反応をする事が多かった。

 だが、人間お断りの居酒屋でニャイと会ってから、落ち着いた雰囲気が戻ってきたように感じる。

 オルガのプライベートに過干渉するつもりは無いが、こんな時だからこそ一人の時間を大切にして欲しいと思う。


「い、いや、オレは別に、その……」


 オルガは額から汗を流し手を振った。

 とても分かりやすい奴だ。


「まぁ楽しんでくれ! 俺達は5日程度で戻って来るつもりだ」


 ドラムは仲間達と視線を合わせると笑顔で口を開く。


「みんな、楽しんで来るのである!」


「うん! 行ってくるんだわさ!」

「おう! お土産買ってくるっす!」

「ありがとう。行ってくるね!」


(そういえば、この世界の金貨は向こうでは使えない事を説明していなかったな。まぁそれは追い追い説明することにしよう)


 俺は全身炎イフリート化すると、室内を炎で包み三人を体内へ飲み込んだ。


「じゃ、行ってくる!」


 そして宿屋を後にすると、空へ向けて飛翔した。

 成層圏や外気圏を抜け、宇宙空間へ出ると光速まで速度を上げる。


 ふと体内へ視線を向けると、三人は自分の世界に浸っていた。


「知らないことっ!」

「美味いものっ!」

「新たな発見っ!」


 各々の欲望を垂れ流しながら目を輝かせている。


(まぁ、こいつらには何時も世話になってるしな……)


 そんな事を思いながら星々の隙間を縫って進んでいくと、10分程で地球が見えてきた。

 速度を落としながら大気圏に突入すると、日本へ向けて着地の態勢をとる。

 そして、俺の勤めていた中華料理店の裏口へと降り立った。

 すぐに人型へと戻ると、俺の部屋へ向けて歩き出そうとする。

 だが……


「待て樋口! お前こんな所で何してる?」


(そ、その声は……)


 聞き覚えのある声に呼び止められ、ぎこちなく振り返る。


「え、遠藤料理長! お疲れ様です……」


 俺達部下に面倒事を押し付ける事に定評のある、面倒料理長だった。


「お前、何だその服は?」

「いや、これは、その……え、演劇の衣装です!」


 異世界の服です! なんて言える訳がない。


「ほう? あと、その赤い髪は何だ? 彼女でも出来たか?」

「いえ、別にそういう訳では……」


 額から汗を流しながら弁明に苦しんでいると、一人の男がこちらに歩いてくる。


「「あっ!」」


 そして男と目が合った。

 その男とは、前世の俺だった。

 最悪のタイミングで鉢合わせしてしまったのだ。

 遠藤料理長が怪訝な表情で俺達の顔を交互に見遣る。


「樋口が二人ぃ? こりゃどういう事だ?」

「「えーっと、これは……」」


 俺達は冷や汗を流しながら遠藤料理長の顔を見つめる。

 何とかこの場を凌ごうと、前世の俺に思念通話を飛ばす。


 《仕方ない! 俺達は双子って事で誤魔化すぞ!》


 前世の俺は小さく頷き口を開く。


「じ、実はオレ達、双子なんですよ!」

「双子ぉ? そんなの初耳だなぁ?」


「そ、そうなんですよー! 遠藤さんの事はこいつからよく聞いてました!」

「ほ〜お?」


 遠藤料理長は、まるで俺達を何かの犯人を見るような目付きで睨みつける。


「う〜ん?」


(まずいまずいまずい! 話が拗れたらまた面倒な事に……)


 遠藤料理長の顔が俺達に迫る。


「う〜〜〜〜ん?」


(もうだめだ! やっぱり双子設定なんて無理があったんだ!!)


 遠藤料理長の鼻息が俺達の顔に掛かる。


「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん?」

「「……ぐっ」」


「なんだ! お前ら双子なのか! 息もピッタリじゃねぇか!」


 どうやら上手く誤魔化せたようだ。

 俺達はそっと胸を撫で下ろした。


「樋口、しっかりやれよ!」


 遠藤料理長は前世の俺の肩をバンバンと叩くと、厨房へと入っていった。

 そして俺は前世の俺に声を掛ける。


「よ、よう!」

「おい! なんでこんな所に居るんだよ!」


「仕方ないだろ? 街中はどこでも防犯カメラがあるんだから。確実にバレない場所って言ったらここくらいなんだよ!」


 このご時世、何処に監視カメラが設置されているのかわからない程にカメラで溢れている。

 俺が空から炎を纏い降りてきたなんて事が世間に知られたら大事になるだろう。

 そんな面倒な事は願い下げだ。


「そ、そうか。だがオレは今休憩中だ。鍵を渡すから部屋で待っててくれ!」

「わかった。ありがとう」


 前世の俺から部屋の鍵を受け取り、中華料理店を後にした。


 街を歩いていると、店頭に施されたハロウィンの装飾が目に入り、気温も少し肌寒い。


(こっちはもう11月か……)


 そんな事を考えていると、俺達の部屋に辿り着いた。

 部屋に入ると全身炎イフリート化し、体内の仲間達へ到着を知らせる。


「着いたぞ! みんな出てこい!」


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


執筆中に146件目のブックマークを頂きました!

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次回の更新は1日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 地球にやってきましたが、『獣人とバレてはいけない』ってどうやって守ればいいんでしょうね。 すぐに、『テテーン! ダルス、アウトー』になりそうな気が……。
[一言] >(そういえば、この世界の金貨は向こうでは使えない事を説明していなかったな。まぁそれは追い追い説明することにしよう) フラグ?w 今更ですけど、前世の自分も同じ世界に存在してるってのは斬新…
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