4話 【ある日“奴”に仲間が傷つけられ
【2020.01.26 なのつく魔物様からファンアートをいただきました!】
俺達は宿屋へと入ると、フォンとダルスに薬を飲ませた。
※ ※ ※
よう! オイラはダルス! 誇り高き犬の獣人っす! 喧嘩に負けたことが無いオイラだが、トール様だけには勝てなかった! 綺麗に負けたっす……
オイラがトール様と出会う前に居た国は、獣人と言えば奴隷。
そのくらい酷い国だったっす!
「ほら! さっさと歩け!」
オイラは足枷を付けられ、闘技場の中央に立たされていたっす! 後から入ってきたのは牛の獣人。
見るからに強そうだけど、負ける気はしないっす! ここで負けることは即ち、死を意味するっす!
試合開始の合図が鳴り響くと、牛の獣人はオイラに向かって鋭角を突き刺そうと突進してきたっす!
オイラは難なく躱し、爪を伸ばして相手の頭に突き刺し倒したっす!
爪を刺して一発で仕留める、これがオイラのいつもの勝ち方っす!
そんなある日、闘技場を仕切る人間がこんな事を言い出したっす……
「よう、お前は強いなぁ。だからな、お前を奴隷から解放してやるよ! 次の試合は攻撃を受けろ。それでも勝てたら、お前は自由の身だ!」
オイラはその言葉に喜び、試合に臨んだっす! そして、右耳にわざと一発食らってやったっす。勿論試合は圧勝。でも……
「これで自由の身っす! まさか解放されるなんて思ってなかったっす!」
「はっ! あれは嘘だ! お前は試合に真剣さが足りないからな。 観客を楽しませられなければ、お前の生きてる価値なんて無いんだよ! この獣人風情が!」
オイラはその言葉を聞き、頭が真っ白になったっす! 騙された事は頭に来たっす! でも
「獣人風情が…… 獣人風情が…… 獣人風情が……」
この言葉は聞き捨てならなかったっす! オイラは誇り高き犬の獣人。
奴隷になったことは頭に来てなかったっす。
試合には毎回勝てたから気分は良かったっす。
でも、獣人を見下したことは許せなかったっす!
「テメェ、もう一度言ってみろ! 誇り高き獣人を侮辱した事を後悔させてやる!」
「おい、お前何やってるんだ! やめろ! こっちに来るな! やめろぉ!……」
オイラは足枷を切り裂き、人間を八つ裂きにして闘技場を逃げ出したっす!
トール様の噂はアスラン王国で聞いたっす!
手から炎を出し、思考誘導されたオークを倒した人間。
こいつと戦ってみたい!
闘技場で育ったオイラは、本能でそう思ったっす!
そしてカシミア王国でトール様に挑み、結果は惨敗。
初めての敗北だったっす!
そんなオイラをトール様は……
「わかった、ダルス! 師匠からの命令だ! 金輪際俺達の前に現れるな! 良いな!」
酷いっす!
オイラを見捨てて立ち去ろうとするトール様!
でもオイラは嬉しかったっす!
「師匠からの命令だ!」
この一言でオイラはこの人について行こうと決めたっす!
※ ※ ※
「うっ、ううっ……」
「ダルス! 気がついたか!」
「トール様…… ここは?」
「宿屋だ。薬が効いて来たようだな」
ダルスが目覚めた。
魘されていたようだが大丈夫そうだ。
まずは一安心だな。
フォンにも目を向けると……
「ううっ…… アタシ、あいつを……」
「大丈夫だ、今は喋るな!」
フォンも目を覚ました。
狐の獣人の村を襲ったのはガイルだ。
村の仲間の仇、そして妹の仇を討つ事が出来ず悔しかったのだろう。
フォンは横を向き、静かに泣いていた。
ここはそっとしておいてやろう。
俺はオルガと共に宿屋を出た。
※ ※ ※
「なあオルガ。ちょっと付き合ってくれ。俺の能力の実験をしたい」
「大丈夫だ。もう怪我も治った。トール様の仰せのままに」
なんと、重症と思われたオルガはもう完治寸前にまで回復していた。
恐ろしいほど頑丈である。
全身炎化を使いこなす修行をする為、俺達は街外れの平原へと向かった。
「オルガ、行くぞ!」
「ああ、問題ない」
俺は意識を集中させ、全身炎化すると、上空から見下ろすような景色が広がる。
意識を変えると横からの景色も見る事が出来た。
どうやら炎の中なら何処でも視覚的に認識する事が可能なようだ。
そしてオルガに向かって炎を放つ。
軽く当てたつもりだが、オルガは吹っ飛んだ。
「すまん、大丈夫か?」
「大丈夫だ。この程度問題ない」
相手がオルガで良かった。
フォンやダルスなら間違いなく今の一撃で怪我をしていただろう。
そう思いながら更に1メートル程の小さな火柱を放つ。
オルガは5メートルほど上空へ巻き上げられ、そのまま落下した。
流石にこれ以上は危険だと判断し、オルガへと近づく。
「すまない、オルガ。もうここまでだ。これ以上は危険すぎる」
しかし俺は、大事な事を忘れていたのである。
人型に戻らずに、全身炎化のままでオルガへと近づいてしまった。
すると、オルガの身体が燃え始める。
やらかした! オルガが危ない! そう思ったのだが、オルガは何食わぬ顔で俺を見ていた。
「トール様、この炎は一体…… 全く熱さを感じないのだが」
なんと、音を立てて燃え上がる炎は、オルガや周囲に対してダメージを与えることはなかったのだ。
不思議に感じるが、一つ思い当たる。
今の俺には殺意や敵意がない。
もしかすると、俺の感情次第でダメージを与える量を変えられるのか。
そう思った俺はオルガから離れると、一本の木の前で火柱を放った。
木は豪快に燃え上がるが、葉は青々としている。
そして火柱を見つめ、敵意を込める。
すると、木は一瞬で炭となって倒れた。
間違いない、俺は燃やす対象を自由に選ぶ事が出来るのだ。
更に、身体の中に空間があることに気付いた。
服のポケットのような感覚で、身体の至る所から物を出し入れ出来そうな気がする。
試しに先程炭にした木を持ち上げ、腹に埋め込む。 すると……
「ゴポゴポゴポ……」
という音を立てて、炭は身体の中へ飲み込まれていった。
不思議な感覚だ。普通ならあんなものが腹に減り込んだら痛いだろう。
だが、痛みは全く無かった。
しかし、飲み込まれた炭は何処へ行ったのか。
そう思った時、脇腹に棒のような物が泳いでいる感覚があった。
中から突き出すようなイメージで棒に意識を集中させる。
すると……
「ググググ…… ボトッ!」
腹から炭が出てきた。
一連の流れにオルガは驚愕し、目を丸くしている。
余程珍しい事のようだ。
まあ、俺自身もこんな現象は見た事がない。
今度は人型に戻り、先程の炭を腹に押し付ける。
しかし、炭は俺の腹を黒く染めるだけで減り込まない。
どうやら全身炎化した時だけ飲み込むらしい。
最後に、全身炎化から飲み込んでいる最中に人型に戻ったらどうなるのか。
少し怖いが試してみると、人型に戻ろうとした時に腹が痒くなってきた。
そのまま人型を進めると、搔き壊したような痛みを感じる。
本当は止めるべきだろうが、そのまま続けると……
「……痛ってえ!」
針が刺さったような激痛が走り、慌てて全身炎化した。
炭を取り除いて人型に戻ると、腹には搔き壊したような跡があり、薄く出血していた。
まずい、これは後一歩全身炎化が遅ければ死んでいただろう。
背筋が凍るような感覚が走る。
もう二度とこのような事はしないと心に誓った。
今度は身体の中へ入る量が気になったので、全身炎化のまま適当な木の前に立つ。
木の根元を蹴って焼き切り、倒れて来た木を飲み込もうとした。
その時……
「工業都市カシミア王国この先」
と書かれた木の板が落ちた。
どうやら木の裏に隠れていたカシミア王国への看板まで焼き切ってしまったようだ。
「こんな分かりにくい所に看板なんて付けるなよ!」
俺は突っ込みながらオルガと顔を合わせた。
俺の中の悪魔が、バレなきゃいいよ! と叫んでいたので、何食わぬ顔で看板ごと木を飲み込む。
すると、飲み込んだ物を掴めそうな気がした。
目を瞑り、イメージを集中させて看板を掴む。
「この感じは…… おにぎりだ!」
おにぎりの型のように、看板の複製が出来そうな気がしたのだ。
俺の呟きにオルガが首を傾げるが、作業を進める。
しばらくして身体の中の物を吐き出すと、飲み込む前より短くなった木と2つの看板が出てきた。
どうやらコピー能力の様で、焼き切った脚の形状までそっくりだった。
「もしかして、コイツを直せるかもしれない」
もう一度看板と木を飲み込んだ。
おにぎりの形状を変えるようにイメージする。
すると、二つの脚を生やした状態で看板を吐き出すことに成功した。
そんなわけで、全身炎化で獲得した能力は4つ。
『視点変更』
炎の中の何処の映像も観ることができる。
『選択炎上』
燃える炎や燃えない炎を出せる。
意思によって炎によるダメージを自由に与えられる。
『空間収納』
全身炎化の時に限り、物を体内に保管できる。
どれだけ入るかはわからないが、俺の体長ほどもある炭が入ってもまだまだ余裕があった。
おそらく空間が拡張されているのだろう。
『複製修理』
破損した物を飲み込むと、イメージできる範囲で復元ができる。
見本と材料があれば、同じ物を複製もできる。
めちゃくちゃ便利な能力だ。
特に燃えない炎なんてチートすぎる。
そう思いながら俺達は宿屋へと戻る。
※ ※ ※
俺達はフォンとダルスに修行の成果を話す為、部屋の中に入ろうとすると……
「あんたが悪いんでしょ! また後先考えないで! トール様にバレても知らないんだわさ!」
「はー? オイラの所為かよ! 」
何やら言い争っていた。
俺が部屋へ入ると、二人は額から大量の汗を流しながら正座をして俺に目を合わそうとしない。
「おい、何か隠してないか?」
二人は高速で首を振る。
怪しい、怪しすぎる。
俺が後ろに回り込もうとすると、背中を隠すように二人が動き出す。
「後ろに何を隠してるんだ?」
観念したのか、しぶしぶ二人は立ち上がる。
「じ、実は…… これなんだわさ……」
「トール様、すまねぇっす……」
二人の足元を見ると、高価そうな壺が割れていた。
どうやら俺達が修行している間に割ってしまったらしい。
「これは、どういう事だ?」
「「実は……」」
二人は事の経緯を語り出した。
時は俺が宿屋を出た直後に遡る。
※ ※ ※
「フィン…… ごめんね……」
フォンは横になり、しゃがれ声で泣いている。
意識が戻ったダルスは、隣で泣くフォンを横目に複雑な心境になる。
(泣いてるっす…… 気まずいっす……)
ダルスはフォンを励まそうと考えるが、大した案は浮かばない。
熟考の末、思い浮かんだ言葉を口にする。
「フォン! お前の仇はオイラが討ってやる! だから泣くな!」
「ダルス…… なっ、泣いてないんだわさ!」
「そうかそうか。お前が泣いてると気持ち悪いもんな!」
「なっ、何ですって⁉︎」
フォンは、顔を赤らめながらダルスに殴り掛かった。
ダルスはニヤけながら避けると……
「パリーン!」
フォンの拳は部屋に飾られている高価そうな壺に当たる。
「「あっ!」」
二人は顔を青ざめ壺の破片を手に取る。
「アンタが悪いんでしょ!……」
※ ※ ※
経緯を聞き、俺とオルガはジト目でフォンとダルスを眺める。
すると二人は再び額から大量の汗を流し始めた。
しかし、俺には新たな能力がある。
「ったく、お前らは…… 仕方ないなぁ」
俺は部屋の中で全身炎化した。
「わわわ! トール様! 何やってるんだわさ!」
「火事っす! 大変っす!」
二人は慌て出すが、オルガは動じない。
「まぁ待て。俺の新しい能力を見せてやるよ!」
俺は壺の破片を腕で撫でると、破片だけを『空間収納』で飲み込み『修理複製』で壺を直した。
「ほら、出来たぞ!」
腹から綺麗に修理された壺を取り出し、元の位置に戻す。
それを見た二人は目に涙を浮かべる。
「ドール様ぁ! ありがどうございまずぅ! アダジもうだめがど……」
「ドール様ぁ! オイラ…… オイラ……」
号泣しながら感謝された。
炎で体が燃えていることにも気付かずに。
俺は全身炎化を解き、人型に戻ると腹が鳴り出した。
そういえば今日はまだ何も食べていない。
「よし、問題も解決した事だし、やり損ねた宴に行くぞ!」
俺の言葉に三人は頷いた。
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