26話 夢の中の蹂躙
龍人の村は地図の2と3の間になります。
丑三つ時。
静寂な部屋に、ドラムの呻き声が小さく響く。
「うぅっ、なんと…… いうことを……」
※ ※ ※
龍人の村で、人々の悲鳴が木霊する。
「うわぁ、助けてくれー!」
「中に! 中に息子がっ!」
「くそっ! なんだよこいつら!」
建物は燃え盛り、地面には血飛沫が広がる。
村に破壊の限りを尽くすスライム達を、ガイルが指揮していた。
「オマエら! 全員生け捕りにするッピ! 村は取り敢えず燃やしとけッピ!」
村には火が放たれ、無残にも灰燼と化した。
そして、縛り上げられた龍人達は、ガイルにより上空へと連れ去られていく……
※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ…… 今の夢は…… 我輩は…… 行かなくては!……」
ドラムは顔面蒼白となり立ち上がると、寝息を立てる三人へと視線を向ける。
「仲間…… であるか……」
ドラムは静かに呟くと、落ち着きを取り戻す。
そして横になると、目を瞑り、夜明けを待つのだった。
※ ※ ※
翌朝、ドラムは三人に昨晩の夢を神妙な面持ちで語る。
「我輩、どうしても行かなければならないのである……」
「うーん、ドラムの気持ちもわかるんだわさ! でも、トール様が戻らないと……」
「そうっす! トール様が戻ってから行くべきっす!」
「ああ。トール様が戻る前にここを離れるのはまずいな……」
三人は口を揃えてトールの帰りを待つべきだと主張した。
その直後、部屋の扉が開く。
「よう! 修行は上手くいったか?」
図ったかの如く、トールは地球から帰還した。
※ ※ ※
俺は異世界に戻り、仲間達の居る宿屋へ入った。
「よう! 修行は上手くいったか?」
すると、ドラムが深刻な顔で俺を見つめている。
異変を感じ、ドラムに事情を聴いた。
「なるほどな…… でも、その夢にはガイルが居たんだろ? ということは、今起きているわけじゃない。焦る気持ちもわかるが、まずは落ち着こう」
「うむ…… トール様の言う通りである。我輩は少し焦っていたのである……」
ガイルはプルトニーによって殺された。
つまり、夢の内容は過去の事になる。
それに、焦るドラムをこのままにしては、二次被害も想定出来る。
ここはドラムの気持ちを落ち着かせることが重要だ。
ドラムも納得してくれたようで一安心する。
「よし! じゃあ飯にするか!」
俺の提案に四人は頷く。
ドラムは俯いているが、焦って先走ることは無さそうだ。
少しでもドラムの気分を変えてやる為にも、今回の料理は珍しいものにしよう。
「今日の飯はすごいぞ! 俺が居た世界の食べ物だからな! 見たこともないものを食わせてやるよ!」
「楽しみだわさ!」
「わくわくするっす!」
「ああ……」
「……」
なんだ、オルガも活気がないのか。
今回は二人の気分を上げてやらなければならないな。
その為の料理。それは…… 天ぷらだ!
まだこの世界の料理を熟知したわけではないが、これまで見てきた料理には、天ぷらに似た料理は無かった。
おそらく異世界で初の天ぷらとなるだろう。
俺は全身炎化すると、腹に手を突っ込みビニール袋を取り出した。
すると、フォンが不思議そうな顔でビニール袋を凝視している。
「こんなに薄い袋、見た事ないんだわさ! それに、この文字…… 何て書いてあるんだわさ?」
「ああ、この袋はビニール袋って言ってな、俺の居た世界では何処にでもあるものなんだよ。袋には“ニチー”って書かれてるんだ。店の名前だな!」
どうやらフォンは、この世界には無いビニール袋や、地球の文字に興味があるらしい。
異世界の言語は日本語と大差が無いが、文字は全く違うからな。
さすが村一番の物知りといわれるだけあるということか。
さて、材料を確認しよう。
えび、なす、かぼちゃ、しいたけ、大根、揚げ油、卵、そして天ぷら粉だ。
今回は全て地球で調達した材料を使用する。
ちなみに、この世界には小麦粉はあるが、天ぷら粉は存在しないようだ。
地球に比べると科学レベルが低い為か、複雑な食材はあまり無いのだろう。
まずはボールに天ぷら粉と卵と水を入れ、だまが無くなるまで溶く。
次に海老は背わたを取り、野菜を切り分ける。
この具材を、天ぷら粉を溶いたボールに浸し、トングを備える。
そして鍋に油を入れ、鍋の横に手を翳し中火程度の敵意を込める。
天ぷら粉を溶いたものを垂らし、軽く上がってきたら準備完了だ。
「準備できたぞ!」
「これは…… どうやって食べるんだわさ?」
「これはな、トングを使って油で揚げるんだよ」
俺は見本にトングで海老を持ち上げ、油に浸した。
海老は盛大に発泡し、コトコトと音を立てて揚がっていく。
そしてきつね色になると、鍋の横に備えた網に置き、塩を振った。
「こうやって作るんだよ。ほら、食ってみろ!」
フォンは海老をフォークで刺し、口の中へ運んだ。
「ん!?」
そして、目を丸くし俺を凝視する。
どうやら味は問題ないようだ。
異世界に天ぷらが受け入れられた瞬間だった。
フォンの顔を見たダルスが茄子を鍋に入れ、オルガとドラムも後に続き、食材を鍋へ入れる。
そして、三人は揚がった天ぷらを齧った。
「「「んん!?」」」
それ以降、火がついたように各々が食材を鍋に放り込み、フォークを指して齧り付く。
一見普通の天ぷらだが、俺達の天ぷらは一味違う。
なんといっても俺達は熱さを感じないからな。
油の跳ね返りなんて水みたいなものだ。
しゃぶしゃぶの如く、食材が次々と入れ替わり、高温の油が辺りに飛び散る。
普通の人間なら大火傷になるような油を被るも、四人は物ともせず、無我夢中で天ぷらを頬張る。
そして、海老が最後の一尾になった時、ダルスとフォンの手がトングに被った。
「はんは、はまひまはいお!(アンタ、離しなさいよ!)」
「もいああはひひほっはっふ!(オイラが先に取ったっす!)」
口から溢れんばかりに食材を頬張る二人は、意味不明な言葉をぶつけて睨み合っている。
「口から出ているのである……」
二人の口から噛み砕かれた食材が飛び交う。
呆れるドラムを余所に、二人は睨み合いを続ける。
一触触発の膠着状態の末、ダルスが動き出す。
「貰ったっす!!」
ダルスは素手で海老を掴み、腕ごと油の中へ突っ込んだ。
コトコトと揚がる海老とダルスの腕に、フォンは目を丸くする。
「ああっ! アタシの海老がっ……」
こんがりと揚がった海老を頬張るダルスをフォンは涙目で眺め。
「「はぁ……」」
オルガとドラムはその様子に大きな溜息を吐いた。
※ ※ ※
俺達は天ぷらを完食し、食休みをしていた。
俺はオルガとドラムに視線を向けると、満足そうな顔をしている。
どうやら二人は生気を取り戻したようだ。
「なぁドラム。龍人の村っていうのは、どの辺にあるんだ?」
「うむ。龍人の村は、丁度このスカイラインの真下にあるのである……」
「お前、記憶が戻ったのか?」
「いや。村の位置とその周囲の断片的なものしか戻っていないのである……」
どうやらドラムは夢で見た部分しか記憶が戻っていないようだ。
「なるほどなぁ……」
俺はそう呟くと、仲間達や部屋全体を炎で包み込み、揚げ油だけを搔き集める。
そして体内に飲み込むと、火を付けた。
四人が跳ね飛ばした油が綺麗に燃え尽きると、俺は立ち上がる。
「さて、そろそろ行くか」
俺達は、ドラムの夢の真相を確かめる為に、龍人の村へ向かうのだった。
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