1話 【以下の話は、俺が能力を獲得するまでの経緯だ。
スコッパーの方へお願いがございます。
拙作の旅編は最後に重点を置いております故に
14話・15話をお読みになった上で判断頂けますと幸いです。
16話から、他の作品ではあまり見られないような展開をご用意しております。
15話がお気に召しましたら、引き続きお付き合いください。
「女帝」を「女王」へ変更致しました。
修正漏れがあれば、誤字報告で教えて頂けますと嬉しいです。
作成ツール:ガン見してぅるメーカー
【フォン】
俺と狐の獣人のフォンは、村を出るとアスラン王国を目指して歩いていた。
すると、二匹のスライムが弾け飛び、俺達目掛けて襲いかかってきた。
ぶにゅっ、ぶにゅぶにゅっ、っぱーん!
「スライムだ! 気をつけろ!」
俺は意識を集中し、炎を左手から沸き上がらせるように放ち一匹のスライムを焼く。
するとスライムは動かなくなり、ゼリー状の塊となった。
「やーっ!」
フォンへ目を向けると、威勢の良い掛け声と共にスライムを蹴り上げる。
スライムは轟音を立てて上空へ飛ばされた後、地面へ落下し叩きつけられた。
強力な蹴りである。
しかしまだスライムは動いていた。
「はーっ!」
今度は左の拳でスライムを殴打すると、木に叩きつけられゼリー状の塊となる。
フォンは脚力と腕力に優れているようだ。
「フォン、大丈夫か?」
「大丈夫だわさ!」
スライムを倒し道を進むと、フォンが突然こんなことを言い出した。
「トール様はどこから来たの?」
「あー。信じられないが、他の世界から来たようだ……」
「やっぱりそうなのね! あんなに火が使える人間はいないから、そんな気はしてたんだわさ!」
俺が異世界から来たと告げてもフォンは驚かなかった。
そして、フォンがこの世界について説明を始める。
「この世界の魔物は三柱の魔王が管理してるんだわさ! 」
この世界には魔王がいるのか。
「でも、こんなに強いスライムなんて見たことないんだわさ! 絶対、何か異常なことが起きてるんだわさ!」
異常なこと…… それは俺がこの世界に来たことにも関係がありそうだ。
俺は静かにフォンの顔を見て頷く。
森の中をさらに進むと街が見えてきた。
「ここが観光都市アスラン王国だわさ! 人口は1,200万人、女王アスラン・ディープシーベットが治める人間国だわさ!」
フォンは嬉しそうに説明した。
俺達は観光都市アスラン王国に入国する。
ちなみに、戦争中ではないのでパスポートや入国審査などは無い。
入国して直ぐに、街の中が騒がしいことに気付く。
「ぎゃヴェヴォ! ぎぃぎゃぐぁ!」
頭が猪のような2メートル近い大男が、苦しそうに叫びながら暴れていた。
どう見てもオークだろう。
そして、俺に体当たりをしてくる。
俺は体当たりを避け、手を翳してオークに向けて炎を放つ。
オークは俺の炎を顔面に受け、意識を失った。
騒ぎを聞きつけた兵士がオークを拘束し、運んでいく。
そんなオークを横目に俺達はその場を後にするのだった。
「トール様! 大丈夫? 物騒だわさ……」
「ああ、大丈夫だ!」
フォンが心配してくれたが、怪我はない。
しかし……
(心なしか身体が軽くなった気がする……)
先程のオークの攻撃を避けた時、驚くほどすんなりと身体が動いたのだ。
俺はそんな事を思いながら、世界保守連盟へと向かう。
※ ※ ※
その頃、城の上部からとある人物がこちらを見ていることに、トール達が気付くことはなかった。
※ ※ ※
フォンの説明によると、アスラン王国の外れに世界保守連盟の本部があるそうだ。
約一万人が本部に所属し、人間国の各支部へ指示を出している。
そもそも世界保守連盟とは、人間に害のある魔物を排除する、警察のような機関らしい。
俺は左手から炎を噴き出し、川で獲った魚を炙りながらフォンの説明を聞いている。
噴き出した炎は俺の右手も炙っているが、熱さは感じなかった。
そして、背後から突然声が掛けられる。
「そこの御二方、御同行願えますかな?」
なんと、兵士が御同行を願ってきたのである。
俺は慌てて魚に齧りつき、味わう間もないままに昼食が終了した。
※ ※ ※
俺達は兵士の後を付いて行く。
城内に入り、長い廊下の先にある広い部屋へ案内されると……
「妾はアスラン・ディープシーベット。この国の王である。其方の戦いをここから観ておったぞ」
王様が現れた。
凄く気の強そうな女王だ。
油断していると痛い目を見そうである。
「其方の活躍、大義であったぞ! 其方がオークを倒した場所は、我が国の文化財があってな。あのままオークを野放しにしたら、破壊されていただろう。さて、其方に褒美を授けようと思うが、何が欲しい? 言うてみよ」
んん? 大義? 褒められた?
またしても意図せずに何かを守ったのか。
俺は困惑の表情で答える。
「実は俺、最近異世界から来まして、この世界の事がよくわかってないんです。何が必要なのか、お金とかどうするのか……」
王様は一瞬戸惑うと、盛大に笑い出す。
「ふっ…… ふはははは! 其方、面白い事を言うではないか! 良かろう! 其方に金貨100枚を授けるとしよう!」
価値がよく分からなかったので、フォンの方へ顔を向ける。
するとフォンは目を丸くしていた。
どうやら金貨100枚とは相当な大金らしい。
俺はふと、オークが気になった。
「王様、あのオークはどうなるのでしょうか?」
「思考誘導されていたとはいえ、あのような重要な場で暴れたのだから、まぁ…… 死刑じゃの」
思考誘導? 洗脳のようなものだろうか?
兵士に連行されていく時は、最初のような暴れる素振りは見せなかったが……
そして、死刑を言う時に若干の躊躇いが見える。
その躊躇いに、あのオークを助けられる可能性を感じた。
「金貨は結構ですので、あのオークを解放していただけないでしょうか? 思考誘導も解けたので、もう大丈夫です」
「其方、金貨100枚よりもあのオークを取るというのか?」
思考誘導が解けたかは不明だが、とりあえず言ってみた。
まぁ、また暴走しても俺の能力で止められるという自信もあったのだが。
金は欲しいがオークの命と引き換えに貰うのは気が引けた。
そして俺は静かに頷く。
「良かろう! だが一つ条件がある。これが飲めなければオークの解放は認めぬ!」
「あの…… 条件とは何でしょうか?」
凄く嫌な予感がする。
そして、王様は邪悪な笑みを浮かべながら口を開く。
「うむ。最近、強化スライムによる被害が多発しておってのう。我が国の密偵が、魔王シェリー・スカイラインによるものだという情報を掴んだのじゃ。そこで其方には魔王シェリー・スカイラインの討伐を頼みたい」
この王様、とんでも無い事を言いだしたぞ。
魔王討伐? 出来るわけないだろ!
「まぁ、討伐は出来なくとも強化スライムの被害が収まればそれで良い。どうじゃ、頼めるか?」
強化スライムさえなんとかなれば良いのか。
何故か出来そうな気がする。
そして、オークを見殺しにするのは嫌だ。
だから俺はこの依頼を受けることにした。
「分かりました。その依頼受けましょう」
すると王様から邪悪な笑みが消え、少し照れた様子で口を開く。
「実を言うとな……妾も無駄な殺生は好かぬのだ。其方のあのオークへのこだわりが気になっての。少し試させてもらったのだ。すまんのう」
そして、俺を強い眼差しで見つめる。
「しかし、依頼を受けたからにはやり遂げて貰うぞ! 逃亡は許さぬからな!」
「わかりました。では、俺達はこの辺で……」
なんとなく気まずくなり、逃げるように部屋から出ようとすると……
「待てい! まだ話は終わっておらぬ! 其方にはもう一つ、褒美を授けよう!」
まだ何か貰えるの? 俺は踵を返し、元居た位置へと戻る。
「其方には、オークの他に金貨100枚を授ける!」
「っぱーん!」
フォンに視線を向けると驚きのあまり気を失って倒れていた。
※ ※ ※
「出ろ! お前は釈放だ!」
オレは訳もわからず牢から出された。
大変な事をした自覚がある。
釈放どころか死刑も覚悟したのだ。
それが一体何故……
「よう、大変だったな。俺はトール。さっきは悪かったな。火傷は大丈夫か?」
「ああ。丈夫さが取り柄なんだ」
オレの前に現れたのは、思考誘導から正気に戻してくれた人間。
思考誘導されてはいたが、あの時の炎をはっきりと覚えている。
炎の勢いは強かったが、不思議と擦り傷程度で済んだからだ。
「そうか…… ところで、これからどうするんだ? 行く宛はあるのか?」
「いや、オレは一人で旅をしていた。行く宛などない」
そうだ、オレは許されない事をした。
例え釈放されたとしても、生きている事にオレ自身が後悔するだろう。
「そうか。じゃあ…… 一緒に来ないか? 実はな、お前を釈放するのと引き換えに、強化スライムを何とかするように依頼されたんだよ」
不思議な人間だ。
何故オークのオレなんかを仲間にする? 力など大してない。
ただ身体が頑丈というだけのオレに……
「オレを仲間にしたら、また思考誘導で迷惑を掛けることになるぞ……」
「大丈夫だ! また思考誘導されたら俺が何とかしてやる! だから付いて来い! いいな?」
オレは何も言えなかった。
「わかった。よろしく頼む……」
「アタシはフォン! よろしくだわさ! ねぇあなた、名前は?」
「オレはオークのオルガだ!」
一度ならず二度も助けられた。
何故こんなどうしようもないオレなんかに……
そしてオレはトール様に忠誠を誓った。
※ ※ ※
「もっ、申し訳ありません、プルトニー様! あのオーク、意志が強く思考誘導に応じず……」
“無駄に広い”部屋の隅に座る人物に、ガーゴイルのガイルが謝罪と弁解をしている。
「もう次は、無いぞ……」
プルトニーはガイルへ告げると花瓶の花を掴むと、花は生気を失い枯れ落ちた。
「ひっ! ひゃい! わかりましたッピ!」
ガイルは目を見開きながら枯れていく花の様子を眺めると、慌てて部屋を出て行く……
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
次回もお読み頂ければ幸いです。
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さて、今回の戦闘力です。
トール 2000
フォン 1200
オルガ 1000