14話 絶対に殺してやる!】
辺境の研究所は地図の5番です。
※今回はグロテスクな描写があります。
ご容赦ください。
翌朝、今度こそ辺境の研究所を目指して、俺達は海上都市サッティンバーグ上空を飛んでいた。
ダルスとフォンをぶら下げるのも日常の光景となりつつある。
「ちょっと! 見えてきたわよ! あれが辺境の研究所よ!」
木々が生い茂る森の中に、横長の屋敷が異彩を放ち顕現する。
研究所というよりは、豪邸に近いだろう。
建物を囲うように薄い鏡のような結界が光を反射していた。
結界とはどんなものかと、手を触れてみると……
「ジジジ…… っぱーん!」
俺は3メートル程弾き飛ばされてしまった。あまりの威力に唖然とする。
続いてフォンが結界に殴り掛かった。
「やーっ!」
辺りに爆風が吹き荒れ、周囲の木々がなぎ倒される。
しかし結界に変化はなく、フォンは50メートル程弾き飛ばされた。
「この結界、想像以上に強力だわさ……」
物理攻撃は仲間の中で最強であるフォンの攻撃が全く歯が立たない。
やはり物理的に破るのは不可能のようだ。
「メルダ、この結界破れるか?」
「ちょっと待って! 今試してみるわ……」
メルダは杖を結界に当てると、詠唱を始めた。
「??????」
詠唱が終わると、杖から直径3メートル程の範囲の結界が赤色の円形に染まった。
「なるほどね、??????式なのね。じゃあ……」
何やら納得したメルダは再度詠唱を始める。
「??????」
すると、赤色の円の内側に、黄色の円が出現する。
「へー、??????式も兼ね備えてるなんてやるわね!」
更に、詠唱を続ける。
「??????」
今度は黄色の円の内側に、青い円が出現する。
三色の円を掻き混ぜるように杖で廻しながら詠唱を続ける。
「??????」
詠唱が終わると三色の円にヒビが入った。
「あとは誰かが打撃攻撃をすれば割れる筈よ!」
「アタシがやるわさ!」
フォンがヒビの入った結界を殴ると、いとも簡単に結界に穴が開いた。
こうして俺達は結界の内部へと侵入する。
しばらくすると穴は小さくなっていき、すぐに閉じてしまった。
「なぁメルダ、結界の穴が塞がったけど帰りは大丈夫なのか?」
「大丈夫よ! 暗証詠唱を見つけたから。侵入するのに??????式と??????式を掛け合わせてあったから、普通の魔導師じゃ破るのは無理ね!」
メルダが鼻を鳴らしながら説明してくれたが、恐らくハッキングの類なのだろう。詠唱の部分は聞き取れなかった。
※ ※ ※
屋敷の中へ入ると、薄暗い証明の中に長々と廊下が続いている。
慎重に進んで行くと、異臭を感じる。
「なんか生臭いっす!」
ダルスが涙目になりながら鼻を抑えている。犬の獣人だけあり、嗅覚に優れているからだろうか?
「なんか嫌な感じね。禁断の詠唱をした後のような重い空気が漂っているわ……」
メルダは魔女の視点で異常を感じ取ったようだ。やはりこの建物には何かあるのだろう。
「あれは……」
オルガが足を止め、指を差す。
俺達は指の先に視線を合わせると、衝撃の光景が広がっていた。
「これは…… なんということであるか……」
「やっぱりね…… 禁断の詠唱をしたのよ!」
オルガの指差す部屋の中では、夥しい数の魔物や獣人が、合成獣となって力なく横たわっていた。
全身に火傷のような症状を負い、生きているのかも怪しい。
「おい、今助けるっす……」
「行っちゃだめよ! その部屋に入ったら、アンタも同じ症状を起こすわ!」
メルダが慌ててダルスを止める。
ダルスは戸惑いながらも渋々諦めていた。
居た堪れない気持ちでその場を後にした俺達は、巨大な部屋に辿り着く。
「暗くてよく見えないな……」
「ちょっと待って! ??????」
メルダが詠唱すると、部屋の中が明るくなった。
そして、部屋の中の光景に俺は絶句した。
「強化…… スライム……」
縦長のカプセルが数百個も並べられ、半透明の獣人や、強化スライムが中に収められていた。
「まさか、強化スライムの材料は…… 獣人!?」
メルダの言葉に俺達は暫し沈黙した。
部屋の奥へと進むと、こじんまりした、およそ3メートル四方のスペースに、テーブルと椅子が置かれ、花瓶に花が飾られている。
そして椅子には一人の男が座っていた。
「待っていたぞ」
ゆっくりとした口調で、聞き覚えのある声が響く。
嘗て鉱山都市サルマトランで見た男。
諸悪の根源であるプルトニーだった。
フォンとメルダは狂気に満ちた顔へと変貌していく。
そしてオルガは嘗てない程に怒りの表情でプルトニーを凝視している。
「お前は…… プルトニー……」
「久しぶりだな、イフリート。 少しは私を楽しませてくれ」
「……なぜ、強化スライムを放った?」
「……実験だ。どの程度のスライムで、世界が動くのかの実験だよ」
「その実験の所為で、どれだけの人が不幸になったか解っているのか?」
俺の言葉にプルトニーは鼻で笑う。
「はっ。この世界は私の実験場に過ぎない。実に素晴らしい実験場だ。獣人、魔物、溶岩に始まり、地球には無い物質、事象で溢れている。この世界は全て私の実験場でしかない!」
「地球…… まさか、お前は……」
「そう、私は転生者。【世界に混乱と変革を齎す】転生者。世界は私の手の中で動く駒だ」
「駒…… だと? 」
「そうだ。私の実験の材料に、文句を言われる筋合いなど無い!」
(巫山戯んなよ…… そんなくだらない理由で世界に混乱と不幸を撒き散らしていたのか……)
あまりの身勝手さに、俺は絶句する。
「オレはお前だけは絶対に許さん!!」
先に動いたのは意外にもオルガだった。
オルガが叫ぶと、槍を高速でプルトニーに向かって突き刺した。
しかしプルトニーは槍をオルガごと片手で持ち上げ、つまらなそうにカプセルの方へと投げつける。
投げられたオルガはカプセルを次々と破壊しながら猛スピードで飛ばされ、50個程のカプセルを破壊したところで停止した。
オルガは再びプルトニーへと槍を向けて走る。
「死ねぇ!」
「攻撃力は弱いが、防御力には優れているようだな。だが、つまらん。お前には興味がない」
プルトニーが呟くと、向かってくるオルガの顔面を片手で掴み、持ち上げた。
「ぐあぁぁぁ!」
オルガの顔はプルトニーに掴まれた場所から煙を上げ、やがて意識なくその場に落ちた。
顔には大火傷を負っている。
「貴様、オルガに何をした! 殺したら許さぬぞ!」
「五月蝿いので眠ってもらった。後で起こせば良いだろう? 起きれば、だかな」
そしてオルガが地面に落ちると、間髪入れずにドラムがプルトニーの背後へ回り込み、槍で刺そうとする。
しかしプルトニーは振り返りもせず、槍を後ろ手で掴み、ドラムの攻撃を止めた。
「ふっ。記憶を失くした気分はどうだ? 死ぬよりも辛いだろう? ふはははは!」
ドラムは泣きながらプルトニーを睨み付け、殺意を放っている。
しかしプルトニーが振り返ることはない。まるで興味がないかの如く、槍と共にドラムを地面へ叩きつけ、ドラムは動かなくなった。
続いてダルスが走り出し、燃え盛る爪を伸ばして斬り掛かる。
「テメェだけは生かしちゃおけねぇ!」
プルトニーは片手でダルスを止めようとしたが、ダルスは避けるとプルトニーの懐に飛び込んだ。
「貰った!」
ダルスの攻撃はプルトニーの喉を搔き切った。
プルトニーは喉に手を当てると、自身の血液をまじまじと眺める。
「ほう、面白い」
そう呟くと、切り裂かれた喉に手を翳す。
すると、煙と共に傷口が塞がり、笑みを浮かべた。
「良いものを持っているなっ!!」
プルトニーは歓喜の表情でダルスの両腕を掴む。
ダルスは抵抗するも、振りほどく事ができない。
そして掴まれた部分から煙が上がる。
「ぐあぁっっっ!!!!」
ダルスの腕から黒い血が流れ、そして……
「ぼとぼとっ!」
やがて肘は握り潰され、両腕が地面に転がり落ちると、ダルスは吐血して蹲った。
その直後、フォンが助走をつけ、プルトニーへ殴り掛かる。
フォンの拳はプルトニーの顔面へ減り込むと、頬の肉を抉り取り、歯茎を露わにさせた。
一方的に殴るフォンに、プルトニーは抵抗せず、顔は最早原型を留めていない。
やがてフォンの両腕を掴み上げて甲高く叫ぶ。
「お前もやるではないか!!!!!!」
嘗てないほどに活き活きとした表情は、顔の原型が無い事も相まって、俺の恐怖心を芽生えさせる。
(なんだこいつ…… 尋常じゃねぇ……)
そしてフォンは床へと叩きつけられると、衝撃で両腕が吹き飛ばされた。
「いやぁぁぁ!!……」
フォンは金切り声で叫ぶと、蹲ってしまう。
最後にメルダが杖をプルトニーへ向けると詠唱を始める。
「アンタはこの世界に存在してはいけないのよ!」
「??????、????????」
「????????、??????」
「???、???????????」
「?????、?????????」
「?、?????????????」
「仇よ、死になさい!」
長い詠唱を早口で終えると、プルトニーへ杖を飛ばした。
杖の先からプルトニーを包むように結界が張られ、内部では真っ青な炎が轟々と燃え盛る。
恐らく数千度もの高温で、プルトニーは焼かれているようだ。
やがて結界が消えると、そこには……
「ちょっと…… 嘘でしょ? 禁断の詠唱で生き残る生命体なんて居るはずがない!」
メルダは震えながら立ち尽くす。
本来であれば跡形もなく燃え尽きる筈のプルトニーが、平然とメルダを眺めていた。
「私に熱や炎は通じぬ」
そう呟くと、プルトニーはメルダにゆっくりと歩いて行く。
「嫌。嘘よ! 来ないで! 来るな!!!!」
甲高く叫び腰を抜かすメルダに、プルトニーは真顔で迫る。
「嫌だ! 助けて!!たすっ…… あああぁぁ!!!!」
メルダの叫びに不快感を露わにしたプルトニーは、メルダの左腕を千切って投げ捨てた。
そして右腕と両足を一本ずつゆっくりと、本来曲がる方向とは逆に曲げていく。
「これで邪魔は出来ないだろう」
全ての手足が折られた時、メルダは白目になり泡を吐いて意識を失っていた。
わずか数十秒だった。
あまりに一瞬の出来事に、俺は成す術なく立ち尽くす。
「待たせたな。始めようか」
プルトニーのその声に俺は我に帰る。
しかし戦意は喪失し、今から何をするのか、目的を完全に見失っていた。
「なんだ、お前もつまらんのか。期待外れな……」
プルトニーが呟くと、俺に手を翳す。
そして俺は死を覚悟し目を瞑った。
次の瞬間……
「トール様っ!!!!」
フォンが俺の前に向かって飛び出した。
その直後である。
小さな爆発と轟音。
俺は目を開けると、そこには腰から下が消失した、フォンの亡骸が落ちていた。
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旅編は、次回が最終話となります。
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