13話 【俺は“奴”だけは許さない。
俺達は辺境の研究所を目指して空を飛んでいると、眼下におよそ100メートルもある巨大な船が現れた。
その隣には20メートル程の小船もあり、何やら騒がしい。
「あの船盛り上がってるなぁー」
「でも船から船へ人の行き来があって様子がおかしいわさ!」
「我輩には襲われているように見えるのだが……」
襲われている? 海賊ってことか?
《オイラ、ちょっと様子を見てくるっす!》
《あっ、アタシも!》
二人は俺の足から手を離し、高度およそ20メートルから落ちていった。
「ちょっと! あの二人、落ちていったけど大丈夫?」
「ああ、あの船の様子がおかしいから見てくるってさ」
結構な高さから落ちていったが、二人は無事着地し、様子を伺いに船内へと入っていった。
※ ※ ※
二人は船内へと繋がる扉の前で、中の様子を伺っている。
そんなフォンの背後に一人の人影が迫っている事に、二人はまだ気づいていない。
「パキーン!」
背中に違和感覚えたフォンは振り返ると、折れたナイフを握りながら男が震えて立っていた。
フォンは通常のナイフではダメージを受けない程の防御力を獲得していたようだ。
「あああ……」
「……」
「……」
暫しの沈黙の後、フォンはこの男に斬られたことを理解する。
二人は互いに目線を合わせると、逃げようとする男をフォンが静かに捕まえ、首を絞めて意識を奪った。
《やっぱりこの船おかしいわさ! アタシ達襲われたわさ!》
《おい、大丈夫か? 今からそっちへ行くから待ってろ!》
※ ※ ※
俺達は船へと降り立った。
フォンの横には如何にも海賊ですという格好をした男が倒れている。
船内に潜入すると、商人と思しき男が、海賊風の男に剣を突きつけられ脅されていた。
「この船は俺たちがいただいた!」
「なっ、なんなんだお前たちは!」
「うるせぇ! お前は黙って寝てろ!」
「うおっ!」
男は商人に殴り掛かり、意識を奪うと部屋の隅へと放り投げた。
部屋の中には十数人の海賊と、数人の商人が睨み合っている。
このままでは商人は全員無事には済まないだろう。
「ちょっと! あの商人達まずいんじゃないの? あの程度の海賊なんてトールなら一瞬で片付けられるでしょ?」
「あ、ああ。それはそうなんだが……」
俺は商人の動きに違和感を覚えた。
ソワソワとして落ち着きがない。
目線は窓から見える倉庫の扉へと向けられている。怪しい……
「なぁ、あの商人、ずっと窓の外を見てないか?」
「確かに見ているのである……」
「あの扉の中に、何かあると思わないか?」
「怪しいわさ…… ちょっと見に行くんだわさ!」
俺達は部屋の外にある扉に入る。
商人の方へ振り向くと、俺達に気付いたようで目を丸くしていた。
扉の中には食料や雑貨などの積荷が山積みにされていた。
奥に進むと、衝撃の光景を目の当たりにする。
「こっ、これって…… 檻だわさ」
「……獣人奴隷っす」
ダルスが冷めた目で見つめた檻の中には八人の獣人が力なく座り込んでいた。
目には生気がなく、上の空を向いている。
体に傷がある者も数人見受けられた。
「おい、お前ら大丈夫か? なんでこんなところに入れられてるんだよ……」
「……」
檻の中の獣人は誰一人として俺の問いに応えない。
幾許かの時が経ち、獣人の一人が静かに動いた。
おそらく犬系の獣人だろう。
「お前、この船の奴じゃないな。何しに来た?……」
「俺はたまたま通り掛かったんだ。船が騒がしかったから様子を見ていたら、お前達を見つけたんだよ」
「そうか…… でも、俺たちはこれから売られるんだろ? 行き先は聞かされていないが、きっと殺される。いや、死んだ方がマシな扱いをされるんだろうな……」
俺は言葉を失った。
人はここまで目の光を失うことができるのかと。
天空都市スカイラインで死刑を待つ時、俺はこんな顔をしていたのだろうか?……
生きる希望を無くし、只々死を待つ獣人。悲壮感とともに、強い憤りを感じた。
「お前ら、俺が助けてやる! 檻から離れてろ!」
俺は全身炎化する。
轟々と燃え盛る俺を、獣人たちは神を見るかの如く驚愕の表情で檻から離れた。
俺は檻に手を翳し、最小範囲にして最高の敵意を手に込めた。
「ドロッ……」
檻は一瞬で溶け落ちる。
獣人の目には光が戻りつつあり、涙を浮かべている者も居た。
兎の獣人だろうか?
震えながら俺に問いかけて来た。
「ほ、本当に助けてくれるの?」
「ああ。任せとけ!」
俺はこの瞬間、この船の商人と海賊の全員を敵と認識する。
人型に戻ると目を瞑り思念通話を飛ばす。
《みんな、聞いてくれ! 俺はこの船を乗っ取ることにした。目的はこいつらの解放だ。異議のある奴は居るか?》
《異議なんてないわさ! トール様ならそう言うと思ったわさ!》
《大賛成っす!》
《異議なんてあるものか》
《当然である!》
「メルダ、俺はこの船を乗っ取ることにしたから!」
「ちょちょちょっと! アンタ何言い出すのよ! 獣人が酷い目に遭ってるのはわかるけど、そんな非常識な……」
暫しの混乱の後、メルダが溜息を吐く。
「……ふっ、わかったわよ!」
メルダは何かを悟ったように同意してくれた。
これで俺達のやる事は決まった。
「お前らはここで待ってろ!」
獣人たちに待機するように指示すると、俺達は倉庫を出て先程の部屋へと入った。
「おいお前ら!! 全員跪け!」
俺の声に海賊達は肩を竦めると、俺達に斬りかかって来た。
「邪魔だ! 死ね!」
海賊の男が叫びながらフォンを斬りつけた。
しかしフォンにダメージは無い。
フォンは腕を組むと目を瞑り、攻撃を躱すことなくその場に立ち続けている。
他の男達も続いて俺達に斬り掛かるが、目を瞑りその場を動く事はない。
当然の如くダメージは無く、やがて男達は力尽き、膝を落とした。
「なっ…… 何なんだよお前達は……」
男の問いには答えない。
「お前ら、倉庫の中の獣人について、知ってる事を全部話せ!」
俺の言葉に商人達へ動揺が走る。
「はっ、話す! 話すから、命だけは……」
商人の一人が答えた。
足が震え、今にも倒れそうになりながら。
「全て話すなら命だけは助けてやる! だが、俺を騙そうとしたら…… 覚悟しろ!」
俺はそう言って商人を睨みつけた。
商人はついに膝をつき、座り込んでしまう。
「じじじ、実は……」
商人の話からすると、この船は人間国のタナトスへ物資と奴隷を運んでいる最中に海賊に襲われたらしい。
タナトスは獣人奴隷大国で、世界中から獣人奴隷が集められるそうだ。
この商人達も、世界各地から連れ去った獣人を売り捌こうとしていた。
商人の説明が終わったところで、蹲っていた海賊の男が泣き出す……
「おれはこの前までタナトスの漁師だったんだよぉ! でも、漁獲量が減って…… でも、税金は上がる一方で…… 漁師じゃやっていけねえ」
男は強い眼差しで俺に訴えかける。
「タナトスに嫁と子供が居るんだよ…… 食事も満足にできねぇ、いつ病気になったっておかしくねぇ、この船を奪えなきゃ、おれたちは死ぬしかねぇんだよぉぉぉ……」
男は拳を床に叩きつけた。
天空都市スカイラインでタナトスの噂は聞いていたが、想像以上に状況は深刻なようだ……
「おい商人達、この船に積んである食料は全部でいくら分ある?」
「きき、 金貨10枚分です……」
俺は全身炎化すると、商人の顔が驚愕の表情へと変わる。
「あ…… 貴方様は、まさか、そんな…… 魔人、イフリート……」
腹の中から金貨10枚を取り出した。
「これでこの船の食料を全て貰う。いいな?」
「はっ、はい! 確かに金貨10枚っ!」
「それと…… ちょっとサービスしてくれや!」
「さっ、サービスと言いますと? ……まさかっ!」
「この船の奴隷、全部俺に譲れ!」
「いっ、いや、それは……」
俺は火力を増すと、炎はゆっくりと部屋の中を飲み込んでいく。
勿論敵意は込めていない。
「ほ、炎が……」
「回答を、聞こうか?」
「ど、奴隷もお付けしますっ!」
俺は人型に戻り、部屋の中を静寂が支配した。
暫しの時が過ぎ、俺は海賊達に向けて質問をする。
「お前ら、外の船で来たのか?」
「ああっ…… はい!」
「じゃあ、お前ら、倉庫にある食料を外の船に積み込め」
「……は?」
海賊達は困惑の表情を浮かべた。
「持ってけよ、この船の食料全部!」
俺の言葉を理解したのだろう。
海賊達は泣きながら俺達に跪いた。
「ありがどう…… ございまずっ……」
そして、海賊と商人は、食料を小船へと運び出していった。
※ ※ ※
俺達は倉庫の獣人奴隷達に問い掛ける。
「お前達は俺が買い取った。これからどうしたい?」
獣人達の目には光が戻り、俺を崇めるように見つめている。
「お前達は今から自由なんだよ! ま、本当の自由は港に着いてからだがな!」
「「「「「「「「ありがとう…… ございますっ!」」」」」」」」
※ ※ ※
食料を積み込んだ海賊達は、俺達に泣きながら手を振って、タナトスへと出発した。
俺達は、タナトスは危険だろうということで、海上都市サッティンバーグへと舵を切る。
やがて海上都市サッティンバーグへ到着すると、獣人奴隷達へこれからどうするかを聞いた。
そして犬系の獣人が答える。
「俺達は、八人で生きて行くことにします。別れるとまた、奴隷商人に捕まるかもしれないから……」
「そうか。じゃあ俺からの餞別だ!」
俺は全身炎化すると、腹から金貨8枚を取り出し、獣人達に手渡した。
「こっ、こんなに沢山……」
獣人達は涙を流している。
「あっ、貴方様のお名前は……」
「俺は、イフリートのトールだ」
「「「「「「「「トール様っ!!」」」」」」」」
※ ※ ※
俺達は獣人達と別れ、海上都市サッティンバーグの浜辺を歩いている。
「結局戻って来ちゃったなぁ〜」
「オイラ、腹減って来たっす……」
日が暮れ始め、そろそろ夕飯の時間が迫っていた。
俺もなんだか腹が減って来た……
「じゃあ、何か食いに行くか!」
五人は大きく頷いた。
ここは浜辺だ。海のレジャーが盛んなサッティンバーグ。
そう、海と言えばアレだ!
「海の家があるぞ! 今日はあそこにするか!」
そう! 海と言えば海の家。
片手に酒を煽りながら、海鮮料理に舌鼓。
想像しただけでたまんねぇなぁ〜!
俺達は海の家へ入ろうとすると、目の前に20センチ程で割り箸のような四つ足の奇妙な生物が現れた。
「コロチャ〜」
果物のキウイにカツラを被せたような謎の生物は、独特の鳴き声を発した。
こいつ、何処から声出してるんだ……
「チャ〜」
「おっ、おいフォン、この謎の生き物は何だよ……」
「小さいけど、なぞだわさ」
「コロ〜」
「フォンでも解らないのか?」
「いや、だから、なぞだわさ!」
おっおう? 俺にはよく解らないのだが……
「コチャ〜」
「この前の肉まんに入ってたアレだわさ!」
「……!!」
あっ! あの紫の肉の事か! つまりコイツは、今までずっと謎だったナゾという謎の生物だった。
しかし、こいつ五月蝿いな。
猫みたいな鳴き声をしている。
「コロチャ……」
「うるせぇ!!」
痺れを切らした俺は、つい怒鳴ってしまった。
すると、ナゾは何処かへトコトコと歩いていった。
割り箸のような細い足で。
「今まで、俺たちはアレの肉を食ってたのか?」
「そうだわさ?」
普段食べているものが、生きている姿は実は下手物だったという話はよくあるが、ナゾはその中でも特に衝撃的な見た目だった……
※ ※ ※
海の家に入ると、店内は人間や獣人でそこそこ賑わっていた。
半分くらいのテーブルは埋まっているだろうか。
俺達は六人掛けのテーブルに着くと、網に火を付けようとするが……
「なぁ、これどうやって火をつけるんだ?」
「ちょっと! そんな事も知らないの? これだから魔法も使えない人間は困っちゃうわ!」
どうやら魔法で火を点けるようだ。
「あれっ? 点かないじゃない! 壊れてるのかしら?」
メルダが苦戦している。
壊れているらしいが、俺にはよくわからない。
「もういいわ! あたしの魔法で点けるから!」
「??????」
メルダが詠唱をすると、網に火が灯った。
ちょっと火力が強い気がするが……
「ちょっと強い気がするけど、大丈夫そうね!」
「ありがとう、助かったよ!」
強火ながら火が灯り、食材が運ばれて来た。
串に刺さった野菜、エビ、ホタテ……
ここまでは良かった。ここまでは。しかし……
「おい、何だこれは……」
市場で見たムカデのような30センチ程の半透明な軟体生物が運ばれてきた。
さらに衝撃は続く……
「これは…… さっきの……」
〆られたナゾである。
しかもそのままの姿で。
俺はふと外に目をやると……
「コロチャ〜」
奴が鳴いていた。
うーん、食い辛い……
「な、なぁ、この軟体生物ってどうやって食うんだ?」
「どうって、焼けば良いんだわさ。ぶよぶよは塩味が効いてて美味しいんだわさ!」
このムカデのような軟体生物はぶよぶよと言うのか…… 異世界恐るべし。
俺は顔を強張らせながら、ぶよぶよをトングで掴み、網に乗せる。すると……
「ワシャワシャワシャワシャ!」
っと足が踊り出した。悍ましい……
あまりの悍ましさに背中に冷や汗が流れ、身震いする。
「気持ち悪っ! こんなの本当に食えるのかよ……」
フォンの方へ顔を向けると、ぶよぶよを咥えてモゴモゴしている。
その顔は寄生生物に寄生されたような様相だった。
「ん?」
「ワシャシャ!」
フォンが首を傾げると、首の動きに合わせてぶよぶよの足が蠢きながら、フォンの口の中へと吸い込まれていった。
その光景に俺はまた身震いした。
「トール様! 焼けたわさ!」
「おっ、おう……」
俺のぶよぶよが焼き上がった。
いや、焼き上がってしまった……
恐る恐るぶよぶよをフォークで突き刺す。
「ぶすっ! ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!」
滅茶苦茶動いた。
俺は涙目になりながら、ぶよぶよを口に入れる。
口の中で踊るワシャワシャ…… いや、ぶよぶよは俺の精神を容赦なく削っていく。
(くそぅ! 料理人の俺を泣かせる食料があるなんて…… なんという敗北感っ!)
俺は涙目になりながら、ぶよぶよを噛み切る!
「ぶちっ! ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ」
ぶよぶよの半身は、テーブルにある俺の皿へと落ちると、高速で足を躍らせた。
(もう嫌だ! 限界だ!)
そう思った時、俺の口の中に爽やかな磯の香りが広がる。
「うっ、美味ぇ!!」
俺の料理に勝るとも劣らないその味は、俺の精神を一気に回復されるのに十分な旨味を秘めていた。
それ以降の俺は、悍ましさが可愛く見えるほど、ぶよぶよの虜になってしまった。
さて、残るは奴だ。そう、ナゾである。
「なっ、なぁフォン、ナゾはどうやって食うんだ?」
「ん? 焼きあがった後に、毛をむしってかぶり付くんだわさ!」
おっ、おう…… なかなかハードな食べ方だった。
俺はナゾを網に乗せ、焼き上がりを待つ。
暫くすると、カツラのような毛が変色し、チリチリと千切れてきた。
「焼けたわさ!」
「この毛を…… 毟るのか?……」
フォンが頷く。
しかし、これはどう見ても……
(どう見ても、バーコード禿げ……)
俺は苦笑しながら毛を毟り始める。
すると、バーコードの中から見覚えのある紫色が現れた。
いつものナゾ肉だ。
ここまで来たら怖いものはない。
俺はバーコードに齧り付いた。
「うん、美味い!」
普通に美味かった。
しかし、ふと疑問が浮かぶ。
「なぁフォン、こいつ、内臓とか無いの?」
「無いわさ! 皮と足以外は全部食べられるんだわさ!」
なんと、こいつには内臓はないらしい。
えっ? どうやって生きてんの?
「こいつの生態ってどうなってるんだよ……」
「謎だわさ!」
俺は頭を抱えながら、目の前のナゾを頬張るのだった。
この作品を楽しんで頂けましたら
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ここまでお読み頂きありがとうございます。
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