11話 【すると、炎の翼で自由に飛べるようになり……
一晩明けると、体の痛みは殆ど引いていた。
俺はオルガとドラムの様子を見ようと立ち上がる。
すると、それに合わせたかのように、オルガとドラムが目を開けた。
「ここは…… 儀式は成功したのか……」
「我輩は…… 勝ったのであるか……」
《よく耐えてくれたな。フォンやダルスも無事だ。誰も欠けてない。俺達は勝ったんだよ!》
「「!?」」
二人は目を見開き俺を凝視する。
思念通話に驚いたようだ。
「トール様の声が頭に直接…… これは一体?」
「ああ、俺達の獲得した能力、思念通話だ。相手を思い浮かべながら話そうとすると伝わるはずだ」
《これでいいのか?》
《こうであるか?》
やはりオルガとドラムも思念通話を獲得したようだ。
二人も体の痛みは殆ど無いようだ。
俺達は獲得した能力を確認する為に、城内の修行場へと案内された。
※ ※ ※
ダルスは爪を立てると、左手が激しく燃え上がる。
《うわわ! 燃えたっす! でも熱くないっす!》
炎に驚いているが、熱くはないらしい。
軽く腕を振ると、床に30メートルほどの一直線の溝が彫られていた。
《凄い威力っす……》
どうやら以前と比べ物にならない程に力が上がったらしい。
俺は全身炎化すると、身体に違和感がある。
背中に傘のように開ける感覚があるのだ。
試しに開いてみると、背中から炎の翼が生えた。
おそらくドラムの飛行能力を獲得したのだろう。
腕を動かすように翼へ意識を集中すると、翼が羽搏き飛翔した。
手の甲にも違和感を感じる。
手袋をしているような感覚だ。
手袋を振り落とすように左手を振ると、30センチ程の炎の爪が生えた。
これはダルスの能力だろうか? ちなみに右手も同じ動作で爪が生えた。
残るはフォンとオルガの能力か。
フォンは腕力と脚力に優れ、オルガは防御力に優れている。
ここで一つ思いついた。
《なぁフォン、俺を一発殴ってくれ》
《……え? わかったわさ!》
フォンは困惑しつつも了承した。
そして人型に戻った俺に右ストレートを叩き込んだ。
凄まじい衝撃波により、修行場の壁にヒビが入り、爆風が吹き荒れる。
しかし俺達はその衝撃を微動打にせず、傷一つ負うことは無かった。
《オルガ、すまんが一発殴られてくれるか?》
《わかった》
次はオルガにフォンの能力の実験台になってもらう。
俺はオルガに右ストレートを叩き込む。
フォン程ではないが、凄まじい衝撃波が発生し、修行場の壁を砕く。
次の瞬間、天井が落下し修行場が崩壊した。
あっ、これまずいんじゃないの?……
轟音を聞き、魔王シェリーが慌ててやってきた。
顔が引き攣っている。まずい……
「お主ら、なんてことを…… いくらなんでもやり過ぎじゃ!」
やはり怒られた。
幸い、建物は弁償させられなかったが、修行場の使用は禁止されてしまった。
こうして俺達は苦笑しながら宿屋へと戻った。
※ ※ ※
宿屋へ戻り、みんなを見廻すと少しずつ体に変化があったようだ。
フォンは背が少し伸びたような気がする。
おそらく腕力と脚力が上がったのだろう。
オルガは体格に変化はほとんど無いが、身体が少し赤くなっていた。
防御力に何か関係あるのだろうか?
ダルスは腕が太くなり、手の甲は一回り大きくなっていた。
腕力が上昇しているのが目に見えてわかった。
ドラムを見ると、翼が以前より一回り大きくなっていた。
体つきも良くなり、飛翔能力と身体能力が上昇したようだ。
そして、一つ気付いたことがある。
思念通話は異常に疲れるのだ。
修行中の疲れは殆どが思念通話によるものだった。
まだ慣れていないというのもあるかもしれないが、日常会話を全て思念通話で行うのは無理だ。
※ ※ ※
翌日、天空都市スカイラインを出ようと、挨拶の為に魔王シェリーに謁見する。
色々お世話になったからな。
「お主らの一人も欠けることなく儀式が終了したことは賞賛に値する。見事じゃったぞ! だが、これからどうする? 辺境の研究所へ向かうのか?」
「はい、やはりプルトニーは生かしておけない。一刻も早く倒さなければ被害は拡大します。直ぐにでも向かわないと……」
「まぁ待て。その前に地下都市アルキメデスへ向かえ。彼の国の魔王グラハム・アルキメデスへ紹介状を書いてやろう。何かしらの力になってくれるであろう」
「ありがとうございます。では、俺達は地下都市アルキメデスへ向かうことにします」
魔王シェリーの提案により、俺達の次の目的地は地下都市アルキメデスに決まった。
紹介状を受け取り、天空都市スカイラインを後にするのだった。
「なぁ、流石に帰りはワイバーンタクシーだよな?」
俺達はワイバーンタクシー乗り場の前に来ていた。
行きは散々な目に遭っている。
帰りは無難にと思ったのだが……
(あれ? 俺飛べるんじゃね?)
「いや、やっぱり飛んで行こう。俺も飛べるようになったんだ。良いだろ?」
四人は頷いた。
俺は全身炎化して左足にフォンを、右足にダルスをぶら下げ、ドラムは両足にオルガをぶら下げると、天空都市スカイラインから飛び降りた。
「風が気持ち良いんだわさ!」
「爽快っす!」
眼下には広大な一つの島と、俺達が今まで歩んできた国々を一望できる。
そして爽やかな向かい風が心地良い。
俺達は空の散歩を楽しみながら、地上へと降りて行った。
側から見たら、真っ赤に燃える鳥が、狐と犬をぶら下げて飛んでいる、そんな所だろう。
とてもシュールな光景が想像できた。
※ ※ ※
俺達は空中散歩を楽しむと、地下都市アルキメデスの入り口に降り立った。
「ここが地下都市アルキメデスの入り口だわさ!」
フォンがこの国について説明する。
人口は500万人。
嘗て魔王シェリー・スカイラインとの戦闘で街を壊滅させられてから、火山の麓が入り口になったそうだ。
当時の戦闘での死者数は1万人にも昇り、その影響でシェリー・スカイラインは魔王種の資格を得て魔王に覚醒したらしい。
まぁ、あの魔王ならあり得る話だな。
食堂の屋根が吹き飛び満天の星空を眺めたことを思い出し、俺は苦笑した。
麓の穴から中へと入ると、驚きの光景が広がっていた。
数十階建ての巨大な吹き抜けの構造に、商業区画や居住区画が織り交ぜられ、九龍城を眼下に眺めるような複雑な建物が密集している。
「こりゃ凄い眺めだな!」
「魔王シェリーの襲撃で破壊された部分を増改築した結果、こんなに複雑な建物になったんだわさ!」
そんな事を話しながら、俺は兵士に魔王シェリーからの紹介状を見せた。
「こちらへどうぞ」
兵士は淡々と歩き出す。
何か対応が冷たいように感じるが……
俺達は兵士に連れられ、街の最下層にある熔岩池を通る。
「ここは側に溶岩があるのに全然熱くないっす!」
修行場では爪が燃えていたし、ダルスは俺の熱耐性を獲得したのかもしれない。
更に進み、他国と比べると小振りな城へと案内される。
「グラハム様、お客様をお連れしました。魔王シェリー様の御紹介です」
そして俺達は部屋の中に通される。
部屋の奥には30代中盤くらいの男が立っていた。
魔王グラハム・アルキメデスだろうか?
「ふんっ! 貴様等が辺境の研究所を潰そうとしている者か……」
男が小さく呟く。
そして、目を見開くと突然叫び出した。
「下等な人間と奴隷供が!」
俺達は吹き飛ばされ、窓から溶岩池に落下した。
なんて事をしやがる! 死んだらどうするんだ!
「おい! みんな無事か!?」
「な、何とか生きてるわさ……」
「ビックリしたっす……」
「熱くは…… ないな」
「死ぬかと思ったのである……」
溶岩の中でも無事だった。
どうやらみんな血呑みの儀式で俺の熱耐性を獲得していたらしい。
体から数センチ程の膜が発生し、それで熱を防いで居るようだ。
あの儀式をしていなければ間違いなく死んでいただろう。
魔王グラハム、なんて奴だ!
「おい、なんて事しやがる!」
「ふんっ、あのトリが紹介状を書くだけあるということか」
俺達は溶岩池から引き上げられると、改めて食事に招待された。
しかしこの魔王は自分勝手すぎる。
食堂へ入りテーブルに着くと、俺はこれまでの強化スライムの被害と、ガイルやプルトニーの事を話した。
そして、何故俺達を溶岩池に落としたのかを聞くと……
「我は人間が嫌いだ。だから殺そうとした。それだけよ。あのトリの従者の人間を溶岩池で殺した時は街を破壊されてしまって大変だったがな!」
さらっと凄い事を言ったぞ。
そりゃ魔王シェリーが怒るのも無理はない。
こんなのが王様やってて良いのか?
国民は可哀想だろ。
そんな事を考えながら話を聞き流していると……
「トールと言ったな。貴様と一戦手合わせ願いたい。あのトリが見込んだ者の実力がどの程度か見極めたいと思ったのだ」
「わかりました、良いでしょう」
勝負を申し込まれた。
俺もこいつに腹が立っていたから丁度いい。
快く受けることにした。
※ ※ ※
俺達は溶岩池の前の広場へ案内された。
どう見ても戦って良い場所ではない気がするが、大丈夫だろうか……
「来い。全員一斉でも構わん!」
魔王グラハムの声で戦闘が開始した。
最初に仕掛けたのはフォンだ。
一瞬で魔王グラハムの間合いに入り、殴り掛かる。
魔王グラハムはそれを躱し、翼を広げて飛翔する。
フォンが跳躍し、蹴り飛ばそうと踵を下ろした瞬間、魔王グラハムが視界から消え、フォンの頭上に出現する。
そして懐から怪しい液体を取り出し、フォンに振りかけた。
その直後、フォンの体から煙が上がり、地面に叩きつけられ動かなくなってしまった。
「まずは一人……」
「おい! フォンに何をした!」
「なに、一人ずつ潰していくだけだ」
不気味な笑みを浮かべるながら、魔王グラハムが答えた。
その直後、ダルスが動き出す。
「てめぇ、フォンに何しやがった! タダじゃ済まさねぇ!」
ダルスは狂気に満ちた顔になり、両手に燃え盛る爪を伸ばし魔王グラハムへ斬りかかる。
周囲に衝撃波が発生し、溶岩池に亀裂が入る。
「ほう、我に傷を付けるとはやりおるな」
「傷しか付かねぇのかよ!」
魔王グラハムの顔に一筋の傷が付くも、大きなダメージにはなっていない。
そして上空へと飛翔すると、ダルスは上空へ向けて爪を振り翳し衝撃波を放った。
しかしダメージはない。
そして怪しい液体をダルスに振りかけると、ダルスも動かなくなってしまった。
「ここは二人で行くしかないのである」
「そうだな……」
そしてオルガは走り出し、ドラムが飛翔する。
高速で旋回しながら槍を繰り出すドラムを躱す魔王グラハムに、地上から強力な槍を放つ。
しかし腕に傷を負うも大きなダメージは与えられていなかった。
魔王グラハムは再び怪しい液体をオルガへと振りかける。
オルガの体から煙が上がるも、オルガは何とか耐えていた。
「ほう、珍しい。この薬に耐えるものが居るのか。ならばこちらを使うとしよう」
すると懐から別の液体を取り出しオルガに振りかける。
オルガの皮膚は焼け爛れ、黒く変色していく。
「ぐああああ!」
そしてオルガは動かなくなった。
叫ぶオルガを横目に、俺は沸々と魔王グラハムに殺意が湧いてきた。
そしてドラムも顔を殴られ怯んだ隙に、怪しい液体をかけられ動かなくなる。
「よくもやってくれたな。卑怯な手を使いやがって! こんなのは手合わせじゃねぇ! 殺してやる!」
俺は全身炎化し、魔王グラハムへ向けて飛翔する。
殴り掛かろうと左手を伸ばすと、魔王グラハムもそれに応え、互いの眼前に拳と拳が衝突し、辺りを衝撃波が襲い、周囲の建物には亀裂が走る。
「ほう。イフリートか、面白い」
「お前の楽しみの為に他人を巻き込むんじゃねえ!」
俺は距離を置く為地上に降りると、魔王グラハムも続く。
そして、魔王グラハムの目が赤く光り、溶岩池へ手を翳すと、巨大な地震が起こる。
その直後、溶岩池から溶岩が溢れ出し、火山が噴火した。
俺は溶岩に飲まれるが、ダメージは無い。
やがて溶岩が引き、怪しい液体を握る魔王グラハムが嗤いながら襲い掛かる。
しかし辺りは溶岩によって高温になった地面だ。
俺は周囲に炎を発生させ、魔王グラハムを迎え撃つ。
「死ねぇ!」
「させねぇ!」
魔王グラハムが液体を掛けようとした瞬間、俺は魔王グラハムを炎で飲み込み、数千度まで温度を上げる。
すると怪しい液体は蒸発し、爆発した。
全身炎化した俺に物理攻撃は通用しない。
爆発に巻き込まれた魔王グラハムは地面に叩きつけられた。
火傷と爆発でかなりのダメージを負い、なんとか立っているという状態だった。
俺は魔王グラハムへと接近し、胸倉を掴む。
最後の一撃を放とうとした瞬間。
「フハハハハ! 良かろう、降参だ!」
その直後、辺りの風景が戦闘前へと戻る。
「これは貴様を試す為の幻術だ。幻術無く戦っていた場合、我は貴様に負けていたということだ」
「俺を試しただと?」
一瞬何を言っているのか理解出来なかったが、周囲を見渡すとフォンが手を振っていた。
どうやら危害は受けていないようだ。
「勿論貴様の仲間には事前に説明し別室に待機して貰った。危害は加えていない。だが、貴様の見たものは現実に起こり得る現象を再現したものだ。結果は限りなく幻術に近い」
俺は唖然としながらも、魔王グラハムの説明にしぶしぶ納得し、フォン達の無事を確認すると胸を撫で下ろした。
この作品を楽しんで頂けましたら
ブックマークを押してくださると泣いて喜びます。
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ありがとうございます!!
さて、今回は戦闘力です。
トール110000
フォン30000
オルガ28000
ダルス29500
ドラム29000
魔王グラハム・アルキメデス100000
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回もお読み頂ければ幸いです。