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10話 命を賭けて新たな能力を得た】

 イフリートなら良いのか……

 言い換えると、俺は人間じゃないって事なんだよな…… なんかちょっと寂しくなった。

 だが入店出来るようなので、俺達は6人掛けのテーブルに着いた。


 店内では十人程の獣人の客が食事や酒を楽しんでいる。

 色んな種類の獣人が居るが、何の獣人かは不明だ。


「お客さん、さっきは悪かったね! ウチは獣人のお客さんがメインだから、人間が居ると空気悪くなっちゃうんだよ。さて、注文は決まったかい?」


 長い耳と小さな尻尾。兎の獣人だろうか?

 先程の店員が事情を説明すると、オーダーを取ってきた。

 人数分の酒と、適当な料理を注文し、気になった事を店員に聞いた。


「人間はそんなに獣人を差別するのか? 確かに見下している部分があるが、表立って差別している奴は殆ど見なかったが」


 すると、店内の空気が変わった。

 客が俺の事を異端の目で見ている。

 店員が顔を顰めながら聞いてきた。


「お客さん、何処から来たの? その見た目だから人間にも差別されないんだと思うけど……」

「俺達はアスラン王国からカシミア王国を経由してサルマトラン王国から上がってきたんだが」


「あー、一番安全なルートから来たんだね。それなら仕方ないか…… この島の真下にある国、タナトスって所が獣人に酷い扱いをしてるんだ。 ここから近い事もあって、獣人差別が生き甲斐みたいな人間も居るんだよ」


 獣人差別をする国。

 フォンから話は聞いていたが、やはり有るのか……


「そうか、変な事を聞いて悪かったな。俺は最近、異世界から転生してきたからその辺の事情に疎いんだよ」


 俺の言葉に、店内がざわめき立つ。

 そしてオルガ、ダルス、ドラムが驚愕の表情をしている。

 何かまずい事を言ったか?……


「トール様、今何と……」

「トール様、オイラ今、転生とか変な言葉が聞こえた気が……」

「我輩、何かの聞き間違いをしたのかな?……」


 俺には何故ざわめいたのか理解できていない。

 そしてフォンが呟く。


「【転生者現れし時、世界は混乱と変革を齎すだろう】これはこの世界に生きる者なら誰でも知ってる言い伝えなんだわさ」


 フォンの呟きに店内の全員が頷く。

 そうなのか……

 俺は知らないぞ、そんな事……


「トール様。アタシね、トール様と会う事を昔から知ってた気がするんだわさ。トール様があの森で倒れていた時、それが確信に変わったんだわさ!」


 フォンの言葉に店内が静まる。

 暫くして、ダルスが気を遣い重い口を開く。


「じっ、実はオイラも、みんなに言ってなかったことがあるっす…… 実はオイラ、闘技奴隷だったっす……」


 ダルスの言葉に俺達は驚愕した。

 フォンは口をパクパクさせている。

 獣人奴隷は実際に存在したのか……


「《獣人風情が》と言われてついカッとなって、闘技場の人間を八つ裂きにして脱走してきたっす……」


 なるほど、だからダルスは獣人風情という言葉に顔色を変えるのか。

 納得した。フォンも頷いている。


「でもトール様と出会って、暖かいものを感じたっす。だからオイラ、トール様は混乱ではなく変革を齎してくれる。そう確信しているっす!」


 すると客の一人がダルスの肩を叩いた。


「良い話じゃねぇか! おいおいみんな、何湿っぽくなってんだよ! 飲もうぜ! 今日は俺の奢りだ!」


 その言葉を聞き、店内は歓声に包まれた。

 俺は沸き立つ熱いものを感じ、店員に声を掛ける。


「なぁ店員さん、俺、料理が出来るんだけど厨房貸してくれないかな? ここに居るみんなに料理を作ってやりたいんだ」


 店員は一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐに了承してくれた。

 俺は全員に向けて叫ぶ。


「みんな! 空気を悪くしてすまないな! 今から俺は料理を作る! 奢るからみんな食ってくれ!」


 そして店内は最高潮に盛り上がった。


 俺は厨房に入ると食材を確認する。

 ……えび、水煮卵、たけのこ、椎茸、白菜、にんじん、きくらげ、絹さや、長ねぎ、しょうが、そしてナゾ肉。

 これなら八宝菜が作れそうだ。


 まず、きくらげを水で戻す。

 その間に食材を切ったり、調味料を入れたボールに入れてよく揉み込む。

 鍋に水を入れて、湯を沸かそうとする。


(ん?もしかして、身体の中でも沸かせるんじゃないか?)


 全身炎イフリート化し、鍋を腹の中に入れる。

 そして、腹の中の鍋に意識を集中させ、強火程度の敵意を込めた。

 鍋を腹から取り出してみると、鍋の水が沸騰している。

 俺の身体すげえ。


 取り出した鍋に野菜を入れ湯通しする。

 フライパンにしょうがや調味料を入れ、左手を炎化して中火程度の敵意を込める。

 最後にとろみを付ければ完成だ。


 調理しているところを店員は口を開けて眺めていたが気にしない。


「出来たぞ! 八宝菜だ! みんな、食ってくれ!」


 俺の声に人が集まってきた。

 各々が八宝菜を取り分け、席に着く。

 すると、先程奢ると豪語した客が立ち上がった。


「転生者の変革を祝して、乾杯!」

『『乾杯!』』


 みんなが俺を祝ってくれる。

 こんなに胸が高鳴るのはいつぶりだろうか。

 牢に居た時とは雲泥の差だ。

 只々嬉しい、この一言だった。


 乾杯が終わると、みんなが一斉に八宝菜を口に入れる。

 すると、店内の空気の流れが止まる。


『『うまい!』』


 満場一致で俺の料理が認められた瞬間だった。

 我先にと八宝菜を求め、俺の前には長蛇の列が出来ていた。

 中には泣きながら並んでいる奴もいる。

 俺は嬉々として、追加の八宝菜を作りに厨房へと戻った。


 ※ ※ ※


 料理が一息つき、俺は自分の席へと戻ると、周りの客が俺の席に来て感謝の言葉を口にしている。

 この店に入って良かったと、心から思った。


 感謝の言葉も落ち着き、俺はテーブルを眺めると、フォンが寝ている。

 これは…… またか。


「ねぇダルスぅ…… アンタ、敏感過ぎるのよ…… 差別なんて簡単に無くなる訳ないのよ…… 一々差別される度に喧嘩売ってたら、アンタ身がもたないわさ?」


 ダルスは暫し瞑目する。

 そして、何かを悟ったように口を開いた。


「決めた! 互いの言葉は理解出来るのに、差別なんて間違ってる! オイラが差別なんて無くしてやる!」


 ダルスが差別を無くすと宣言した。

 するとフォンが勢いよく立ち上がり、ダルスに横から抱きついた。


「それでこそダルスだわさ! ダルスのそういうところが大好きだわさ!!」


「よっ! 良いぞ! 兄ちゃん! 狐の姉ちゃんも大胆だねぇ!」


 一連の流れを見ていた客がヤジを飛ばす。

 それに便乗した客たちが、歓声や指笛を鳴らし、ダルスの顔は赤く染まっていった。


 ※ ※ ※


 俺達は客達に挨拶をすませると店を出た。

 フォンはダルスに背負われている。

 オルガは酒をセーブしたようで、少し酔ってはいるが泣いてはいない。

 学習したようだ。


「なぁ、悪かったな。転生者ってのがここまで大事な事とは知らなかったんだ。こんな俺だけど、まだ仲間で居てくれるか?」


 前を歩く三人の足が止まり、俺を振り返った。


「なーに言ってるっす! オイラは一生トール様に付いていくっす!」

「オレはトール様に忠誠を誓った。今更変わる事などない!」

「我輩はトール様の忠実な下僕。裏切りなど絶対に無いのである!」


「お前ら…… ありがとな!」


 俺は改めてこいつらが、掛け替えのない仲間だと確認し、笑顔で応えたのだった。


 そして俺達は宿屋へ戻り、眠りについた。


※ ※ ※


 翌朝、宿屋に兵士が来た。


「シェリー様がお呼びです。御同行願えますか?」


 俺達は宿屋を出ると、城へと向かう。

 フォンの顔が朝から真っ赤になっている。

 ダルスが横目で気まずそうにしているが、話し掛けることは無い。

 そうしている間に城につき、魔王シェリーの居る部屋へと入る。


「おお、待たせたのぅ。この国は楽しんで貰えたか?」

「ああ、おかげさまで色々と観れました。でも、人間お断りの店が有ったのは驚きましたがね」

「下の国があの国でなければ、ここまで酷い差別にはならないのだがのぅ……」


 魔王シェリーは複雑な顔をしながら溜息を吐く。

 タナトスという国は魔王が溜息を吐くくらい酷い国らしい。


「では、儀式の祭壇へと向かうかのぅす」


 俺達は城の外にある祭壇に案内された。

 祭壇には複雑な魔方陣が描かれている。

 直径10メートルくらいだろうか、相撲の土俵のようだった。


「お主達、前にも話だが、この儀式は命を落とす危険がある。今一度確認するが、覚悟は良いな?」


 俺達は迷い無く頷いた。


「では、儀式を始める。この儀式は血呑みの儀式と言うての。主人が部下や下僕を強化する為のものじゃ。主人の血を魔方陣の中で一口飲むと、身体を作り替える術が発動する。それに耐えられた者だけが生き残り、新たな力を手に入れられるのじゃ」


 身体を作り替えるのか…… これはかなりの苦痛を味わうことになりそうだ。


「この儀式の成功率は、主人への忠誠心が強いほど上がるでの。普通は意識を失うが、極稀に意識を保ったままで儀式を終える者もおる」


 意識を失うことが前提か。

 儀式が終わる時に、誰も欠けてないと良いのだが……


「ではトールよ、腕を貸すのじゃ」


 俺は献血の様にコップ一杯程の血を抜かれた。

 その血を一口分ずつ四人へ配ると、正方形が出来るように魔方陣へと立つ。

 正方形の中心に俺が立ち、準備が完了した。


「では、血を飲むのじゃ」


 四人は一斉に俺の血を飲んだ。

 すると、魔方陣が強く輝く。


「健闘を祈るでの」


 魔王シェリーは呟くと、部屋を出ていった。


 その直後、俺達は大量に吐血した。

 眼は赤く血走り、体が震える。

 立つ事もままならない程の強い痛みと共に、床に倒れ込む。

 魔方陣の輝きが増す程に痛みは強くなり、呻き叫ぶ声が祭壇に木霊する。


 あまりの苦痛に全身炎イフリート化しようとするが、発動しなかった。

 全身に針が刺さる様な激痛が走り、身体が溶けるような錯覚に襲われる。

 そして光が弱くなると、儀式が終了したようだ。


 俺とフォンとダルスは、全身が血塗れになりながらも、なんとか意識は保っていた。

 しかしオルガとドラムは意識がない。

 激痛で俺達はその場から動く事は出来なかった……


 ※ ※ ※


 暫くして魔王シェリーが戻って来た。


「なんと、三人も意識を保ちおったか。大したものよのう。残りの二人も死んではおらぬようじゃな」


 そして兵士に目配せし、俺達は医務室へと運ばれた。


 ※ ※ ※


 ベッドへ寝かされ、暫くすると体が落ち着いてきた。

 全身筋肉痛のような痛みに襲われるが、先程の痛みよりは楽だ。

 俺は気持ちに少し余裕が出来ると、あいつらの事が心配になった。


《あいつら、大丈夫かなぁ? 変な後遺症とか残らないといいんだけどな》


《アタシは大丈夫だわさ!》


 んん? 頭の中にフォンの声が響いた。


《お前、フォンか? なんだこれは? 頭にフォンの声が直接聞こえるぞ?》


《アタシもよくわからないけど、直接話せるようになったんだわさ!》


《オイラにも聴こえるっす! なんか便利っす!》


 なんと、フォンとダルスに直接会話出来るようになったらしい。

 伝えたい相手を思いながら言葉を並べると伝わるようだ。

 まだ意識が戻らないが、おそらくオルガやドラムも使えるようになっているだろう。

 俺達は、新たな能力《思念通話》を獲得した。


この作品を楽しんで頂けましたら

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評価や感想もありましたら、是非お願いします。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

次回もお読み頂ければ幸いです。

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