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9話 【その後、俺は仲間と共に

 魔王シェリー・スカイライン対イフリート・トールの戦いの火蓋が切って落とされた。


「お前が諸悪の根元か! 魔王シェリー! お前は絶対に殺す!」

「諸悪の根元? テロリストの戯言など聞く価値すらないわ!」


 トールは魔王シェリーへ殴り掛かる。

 魔王シェリーはそれを躱し、トールを吹き飛ばそうと腕を振り上げた。

 爆風が発生するがイフリート化したトールには効果がない。

 牢を照らす照明が全て吹き飛ばされ、トールが周囲を赤く灯す。


「テロリストだと? 強化スライムの被害を世界中に撒き散らす。お前こそがテロリストだろうが!」

「強化スライム? 何を言うておる。あんなもの、妾の敵ではないわ!」


 戦闘は殴り合いへと変化していた。

 暴風による攻撃が効かないと判断した魔王シェリーは接近戦へと持ち込み、音速を超える打撃がトールを襲う。

 しかしイフリート化したトールに物理攻撃は効かない。

 魔王シェリーは余裕が無くなっていた。


 トールは逆に冷静さを取り戻しつつあった。

 魔王シェリーの攻撃が効かない事もあり、少し考える余裕が出始める。


「プルトニーを操って強化スライムを撒き散らす。更に俺の仲間までも殺し、それでも尚、白を切る気か!」

「プルトニー? 辺境の研究所の科学者と、妾に何の関係があると言うのか? お前は一体何の話をしておる?」


 トールは話が噛み合わない事に違和感を抱き始める。

 何かがおかしい。

 そう思った時、魔王シェリーは衝撃の一言を発した。


「それに、お前の仲間は死んではおらぬ」


 その言葉にトールの攻撃の手が止まる。


「なんだと!?」


 トールが呟いた直後、フォンがゆっくりと起き上がる。


「とっ…… トール様……」

「フォン…… お前、生きてたのか……」


「トール様…… あぁトール様っ!!」


 フォンの号泣を横目に、トールは魔王シェリーへと向き直ると


「俺達は話し合う必要があるようだ」

「そうよのぅ。 妾に説明してもらおうかのぅ」


 こうして、魔王シェリーとトールの戦闘は終結した。

 トールは仲間の無事を確認する為に、倒れている三人へと掛け寄った。


「おい、ダルス! ダルス! 大丈夫か?」

「トール様?…… トール様ぁ!!…… オイラ…… トール様は壊れてしまったと思ったっす! 良かった…… 本当に良かったっす……」


「心配掛けたな。もう大丈夫だ!」


 ダルスの無事を確認する。


「オルガ! しっかりしろ!」

「トール様!?…… よくぞ…… よくぞ無事で……」


「来てくれて、ありがとな!」


 オルガの無事を確認する。


「ドラム! おい、ドラム!」

「うぅっ…… トール様!? あぁ、我輩は…… 本当に良かった……」


「よく来てくれたな。俺はもう大丈夫だ!」


 ドラムの無事を確認する。

 四人全員の無事を確認すると、トール達は魔王シェリーに食堂へと案内される。


 ※ ※ ※


 食堂には誰も居ない。

 魔王シェリーですら勝てない俺に、この国の兵士で勝てる者などいない。

 そう判断したのだろう。


「では、妾に説明して貰おうか」


 俺はこれまでの経緯を魔王シェリーへと説明する。

 村や街が強化スライムの被害に遭っている事、強化スライムにガイルやプルトニーが指示を出していた事。

 そして、全ての黒幕が魔王シェリー・スカイラインの所為だとされている事。


「これが俺達の知る全ての情報だ。魔王シェリー、あんた本当に黒幕なのか?」


 俺の質問に魔王シェリーは一点を見つめ瞑目する。

 情報を整理しているようだ。

 暫くして、ゆっくりと俺に目線を向ける。


「妾への不敬を働いた時、お主達はテロリストだと報告を受けた。特にリーダーは要注意人物に指定されている。直ぐにでも処罰しなければ混乱が起きるだろうと。だからお主を不敬罪で死刑にした。だがそれは謀られていた。妾はもう少しで取り返しのつかぬ事をしていたやもしれぬ……」


 魔王シェリーも謀られていた。

 つまりはこの国にはプルトニーの配下が潜むという証明。

 事の深刻さに俺達は衝撃を受ける。


「つまり、黒幕はプルトニー。か……」


 俺が呟くと魔王シェリーは静かに頷いた。

 これで俺達の本当の敵は魔王シェリーではなくプルトニーだということが確定した。

 俺達は沈黙する。

 そしてこの静寂が、一人の人物を炙り出す。


「何者だ!」


 魔王シェリーは壁に向けて叫ぶ。

 すると何者かが走り出す音が廊下に響いた。

 その瞬間、フォンが走り出すと、程なくして意識を失った兵士を背負って戻ってきた。


「こいつが立ち聞きしてたんだわさ!」


 魔王シェリーは兵士の顔を見ると、驚愕する。


「此奴は妾にお主達の報告をしてきた者だ。つまり此奴がプルトニーと繋がっておったという事か……」


 そして、魔王シェリーは小刻みに震え、怒りを堪えるが……


「ダァーー!!」


 魔王シェリーが叫んだ瞬間、食堂の天井が吹き飛び、頭上に満点の星空が広がった。

 その衝撃を聞き付けた兵士達が食堂へと駆け込んで来る。


「シェリー様! ご無事ですか!?」

「おお、丁度良い所に来た。おいお前、此奴を牢に入れておけ」


 魔王シェリーは駆け付けた兵士へ何食わぬ顔で命令する。

 一連の流れに俺達は肩を竦めた。


「おい、今の兵士は信用出来るのか? まだプルトニーの配下が居るかも知れないんだぞ!」

「いや、あの者は心配要らぬ。立ち聞きしていた奴は足音に違和感があった。恐らく思考誘導されていたのであろう」


 なんと魔王シェリーは足音だけで兵士が思考誘導されていたことを見抜いた。

 これは凡人には不可能な能力である事を悟り、俺は魔王シェリーの評価を上方修正した。


「お主はトールと言ったな。トールよ、これからどうする?」

「ああ、俺達はプルトニーを倒そうと思う。元々は強化スライムを操っていたとされるあんたを討伐する目的で来たんだが、黒幕が判明した以上あんたに対して敵対はしたくない。これからプルトニーが何処に潜んでいるのかを調べて倒しに行くつもりだ」


  俺達の目的は魔王シェリーの討伐ではなく、強化スライムの被害の撲滅だ。


「なるほどのぅ。その話、妾も協力してやろう。プルトニーの居場所なら知っておる。辺境の研究所と呼ばれる場所で怪しげな研究をしておるのだ」


 敵だと思っていた魔王シェリーと協力関係を築けるの大きい。

 勿論この誘いは乗らせてもらう。

 プルトニーは生かしてはならないと決意した。


「わかった。協力、感謝する!」


 俺は満点の星空を横目に、食堂を出ようとした。すると……


「待て! お主のその腕輪、精霊の加護がついておるのう…… ほう、これは珍しい。この腕輪は時の精霊の加護があるようじゃ」


 ほうほう。

 この腕輪は本当に精霊の加護があるのか。

 しかも時の精霊というレアな精霊らしい。

 しかしこの話と何の関係が?

 俺が首を傾げると……


「我が城の警備はお主達が侵入して以降、警戒レベルを上げておった。その警備をすり抜け、牢まで辿り着くことは容易ではあるまい。お主達が無事に辿り着けたのは、時の精霊の加護があったからやもしれぬのぅ……」

「なるほど。確かにあの場に俺の仲間が来なければ、俺は死んでいただろうな。この腕輪のお陰で助かった、そういう事か……」


(ありがとよ!)

「……」


 俺は心の中で腕輪に感謝した。


「さて、トールよ! お主は良いとしても、お主の仲間は弱すぎる!」


 魔王シェリーの言葉に四人は背筋が伸び、申し訳無さそうな顔をしている。


「このままではお主達は間違いなくプルトニーに敗北するであろう」


 確かに、こいつらは普通の兵士と比べれば圧倒的に強いが、相手がプルトニーとなると話は別だ。

 俺ですらどうする事も出来なかった相手に、敗北することは必至だった。


「だからのぅ、お主達に力を授けようと思うのじゃが…… この力を得るためには、命を賭ける必要があるのじゃ。お主達に、その覚悟はあるか?」


 魔王シェリーは俺達を見廻す。

 俺達は顔を合わせると、同時に頷いた。

 その様子に魔王シェリーは満足気に笑みを漏らす。


「いいだろう! お主達に儀式を施してやる! では、後日お主達を呼び出すでの。それまで観光でもしておれ!」

「あー、でも俺は不敬罪なんですよね?」


「何を言うておる。協力関係になったのだ。不敬罪などはもう無い。お主は無罪じゃ!」


 俺は無罪になったらしい。

 これで堂々とこの国を出歩けるようになったわけだ。


「ありがとうございます。じゃあ、俺達はこれで……」

「待てい!」


 まだ何かあるのかよ!


「言い忘れておったが、我が国の密偵が、不審なガーゴイルが世界保守連盟の本部に出入りしていたとの情報を掴んだのじゃ。先の話にあったガイルというガーゴイルやもしれぬ」


 最後に凄い情報が来た。

 世界保守連盟の本部と言えば、観光都市アスラン王国の外れにある組織だ。

 フォンやオルガと狐の獣人の村の件の報告に行った時に、受付の対応に違和感があった。

 もしガイルやプルトニーが噛んでいるのだとしたら、世界保守連盟は敵という事になるだろう。


「貴重な情報ありがとうございます」


 こうして俺達は無罪放免となり、貴重な情報や魔王シェリーの協力も得て、城を出た。


 ※ ※ ※


城の壁に一体のグールが張り付いている。


「プルトニー様に報告だじぇ」


 嘗てガイルだった肉片を齧るグールは、静かに姿を消した。


※ ※ ※


 俺達は城を出ると宿屋へ入った。


「まったく! 酷い目にあったわさ!」

「もう、オイラ疲れたっす!」

「だが、全員無事で何よりだ」

「我輩、今回の件でトール様になんと言えば良いか……」

「まぁ、いろいろあったが誰も欠けなくて良かったよ。倒す筈だった相手が協力してくれるって言うんだから、これ程心強い味方はないぞ!」


 そんな事を話しながら、俺達は眠りにつく。


 ※ ※ ※


 翌朝、俺達は観光の為に宿屋を出た。

 この国に着いた時は気が付かなかったが、街には獣人の姿が多い。

 何の種族かは俺にはわからないが、様々な顔や背丈の獣人や魔物が歩いている。

 流石魔王の治める国といったところか。


 街を歩いた先に、島を一望出来る高台がある。

 その高台へ登ると、広がる景色はまさに絶景。

 心なしか空気も美味しいような気がする。


「すっ、凄いんだわさ! アタシ達が歩いてきた道がアスラン王国まで見えるんだわさ!」

「オイラ、こんな景色初めて見たっす! 世界が一つの島に見えるっす!」

「この広がる世界の中で、オレはなんてちっぽけな存在なんだろうか」

「やはり此処は世界一絶景である! 我輩でもこんなに高い所は飛んだ事が無いのである!」


 上空1.000メートルはあろうかという高度から眺める景色は、暫し時間を忘れさせてくれるものだった。

 景色に満足した俺達は、各々の防具やアイテム、食材などを買い揃える。

 やがて日が沈み、食事の時間が迫っていた。


「日が暮れてきたし、そろそろ飯にするか!」


 四人が頷く。

 手頃な店は無いかと辺りを見回していると……


「ふっざけんなっ! 何で人間だけお断りなんだよっ!」

「そうだそうだ! 兄貴の言う通りだ!」

「ウチは獣人のお客様が多いんだよ! 人間は獣人差別をするからねぇ、大事なお客様を不快にさせるわけにはいかないんだよ!」


 何やら言い争っていた。

 どうやらこの店は人間お断りらしい。

 獣人差別は聞いたことがあるが、人間差別は初耳だな。

 って、あの二人はまさか……


「何の為に高い金出してワイバーンに乗ってきたと思ってんだよ! 観光しに来てんだぞ! こんな所で人間差別して、許されると思ってんのか!?」

「そうだそうだ! 許されると思ってんのか!?」

「観光ならアスラン王国にでも行けば良いだろ! ここはアンタみたいな人間が来るところじゃ無いんだよ! さぁ、帰ってくれ!」


 間違いない。

 鉱山都市サルマトラン王国で俺が遊んであげたチンピラだった。

 しかしこいつら、俺達を尾行しているのか?

 何で行く先々でこんなに鉢合わせするんだよ!


「ケッ! こんな所、二度と来るかよ! 獣人風情が偉そうに!」


 この言葉を聞いたダルスから笑顔が消える。

 これはまずい。

 俺がそう思った瞬間、ダルスが走り出してしまった。


「おい! てめぇ、今の言葉もう一度言ってみろ!」

「あぁ? 何だおめぇは? 何度でも言ってやるよ! 獣人ふごふぁ……」


 間一髪のところでチンピラの口をフォンが抑える。

 よくやったぞ、フォン!


「あはははは、それ以上言わない方が良いと思んだわさ……」

「あぁ? おめぇも獣人だろ? コイツの仲間か?」


 フォンは顔を痙攣らせながら、チンピラの相手をしている。

 しかしフォンも獣人だ。

 穏便に行くのは難しいだろう。

 仕方ない、また俺が行くか……


「ったく! 何でこんなに獣人ふぜ……」

「お兄さん?」


「今度はなんっ…… おっ、お前は……」

「あっ、俺の事やっと覚えてくれたの? いやぁ、コイツら俺の仲間なんだよね。何か変なことしなかった?」


 俺は笑顔で全身炎イフリート化する。


「あっ…… あああっ……」

「んん? お兄さん、どうしたのかなぁ?」


 チンピラを見つめると、ガタガタと震え出した。


「すっ、すいませんでしたーー!」

「待ってよ兄貴ぃ〜!」


 いつもの様にチンピラは逃げていった。

 ダルスが暴れる前にチンピラを追っ払えた事に、俺とフォンは胸を撫で下ろす。


 そして俺は人型に戻ると、人間差別で揉めていた店に興味が湧いたので、入ってみることにした。

 店の扉を開けてみると……


「いらっしゃい…… あー、ごめんね、ウチ人間お断りなんだ。他の店に行ってもらえるかな?」


 やはり断られた。

 このまま他の店に行っても良いのだが、ちょっと遊んでみたくなったので全身炎イフリート化してみた。


「これでもダメか?」

「あっ! イフリートのお客さんとは珍しい! 失礼しました。さあ、中へどうぞ!」


 イフリートなら良いのか……

 言い換えると、俺は人間じゃないって事なんだよな…… ちょっと寂しくなった。

 だが入店出来るようなので、俺達は6人掛けのテーブルに着く。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

モチベーションの維持とエタりの防止になりますので、最新話の下にある評価&ブックマークを押して頂けますと嬉しいです。


魔王シェリー・スカイラインの表記を、魔王シェリーとするか、シェリーとするかで迷いましたが、魔王シェリーと表記することにしました。

次回もお読み頂けますと幸いです。

さて、ここまでの戦闘力です。


トール40000

フォン8500

オルガ6500

ダルス7000

ドラム6000

魔王シェリー40000以上


魔王のシェリーはトールに勝てませんでしたが、相性の問題です。

戦闘力では魔王シェリーが上になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強化スライムとか素敵ですね (`・ω・´)ゞ~♪ 私は頭が固いので思い浮かびません (;'∀')
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