6話 巨人と戦闘 (勇)
トローク村に生まれた少年ラストル
いつものように続く平和な日々の中、
異変は起こる。
轟音と共に建物の一部が破壊され、瓦礫と破片が広場にいた生徒達を襲った。
大きな瓦礫は何名かの生徒を押しつぶし、棒状の破片で身体を貫かれる者もいた。
「なんだよ…これ…ウップ…!!」
奇跡的に無傷だったラストルは、血と悲鳴が飛び交う惨状に吐き気を催し、口を押さえる。
粉塵の中で、たしかに巨大な魔物の光る2つの目が見える。
その巨体は持っていた山のような大きさの棍棒を、再び大きく振りかぶった。
「…ッ!!!」
落雷が目の前に落ちたような爆音と共に、巨大な棍棒が学院を縦に真っ二つにした。
破壊の衝撃波で、ラストルは広場の端まで吹き飛ばされた。
傷だらけになりながら、ラストルは身体を起こした。左腕に激痛が走る。骨が折れていた。
「ラス…ト…ル…」
消え入りそうな声がしたので振り向くと、植木の下で頭から血を流したオリビアがぐったりしていた。
「オリビアッ!!」
ラストルは痛む左腕を押さえながら、植木まで走る。
「しっかりするんだオリビアッ!」
「よかっ…た…無事…で…」
ズルッと、オリビアが力なくラストルの胸に倒れ込んだ。背中は血だらけになっており、植木から突き出した枝には、付け根まで血がついていた。
「そんな…オリビア…」
「リカバーッ!!」
背後から、大きな声で回復魔法を唱える声がした。オリビアの体と、ラストルの腕が青い光に包まれる。
腕の痛みが一瞬で無くなり、動かせるようになった。
目に涙を浮かべていたラストルは、後ろを振り返った。
教師デューダが立っていた。
「ラストル!無事だったか!」
「先生ッ!…みんなが!オリビアが!!」
ラストルは涙を流しながら、混乱と恐怖で頭が回らない。
目の前の大人に一から説明したいのに、言葉が出なかった。
デューダはラストルの前で膝をつき、両肩に手を置いて喋り出した。
「落ち着け!死んでなければ回復魔法は効く!
ひとまずオリビアは大丈夫だ!
他の子たちは状況を見てだいたい分かった。
先生も逃げるので精一杯でな…他の先生はほとんど逃げ遅れてしまった…
とりあえず、あの魔物の巨人タイタンを退治せねば私も君も生きて帰れない!
気をしっかり持てラストル!」
ラストルは涙をぬぐいながら、ゆっくりとデューダの言葉を理解した。
「タイタンって…第五次人魔対戦期の…勇者様達を苦しめたっていう、あのタイタンですか…!?」
ラストルは愛読本の''勇者伝記''で書いてあった内容を思い出した。
「そうだ、
物語でしか出てこなかった魔物だ!
歴史的には、巨神兵やらギガントとか言われてる。暴れ出したら手がつけられない。」
「そんなのに、僕たちが勝てるんですか!?」
ラストルは、デューダの説明に半ば諦めかけていた。
自分よりも何十倍もある巨大な敵を前に勝つイメージが一つも湧かなかった。
「正直分からん。
ただ、敵は1体。第五次人魔対戦で狂魔王ザーガンが率いていたとされる数は8000体。
逃げても、奴に走られたら終わりだ。
であれば、無理だとしてもやるしかない!」
デューダは真剣な顔でラストルを見る。
ラストルは黙ったまま頷く。
デューダは、立ち上がり質問した。
「ラストル!君は強化補助魔法は使えるか?」
ラストルは首を横に振る。
「できません…
僕が習ったのは、火、水、光属性の下級攻撃魔法と、下級回復魔法だけで…」
「わかった!それならば、
君の光属性の下級魔法を奴にぶつける!
巨人タイタンは眠りを妨げる光が苦手だ。
今も日の光で照らされてるせいで、我を忘れている。
私は上級補助魔法で君の魔法を強化する!
おそらく、上級攻撃魔法単体よりは強くなるはずだ!
大丈夫、自分の力を信じれば必ず勝てる!
一緒にオリビアも助けるぞ!
さあ、立てラストル!」
デューダはラストルに手を差し伸べる。
ラストルはその手を借りて立ち上がる。
不思議な事に、恐怖の感情はどんどん薄れていた。
ラストルは横で倒れているオリビアの姿を見た。
傷口は塞がっている。
せっかく一命を取り留めても、何もしなければ死を待つ状況。
しかし、彼の感じる恐怖はいつしか、勇気に変わっていた。
デューダの言葉は、まだ幼い彼の心を前向きにするには十分な力を持っていた。
「オリビア、僕が必ず守る!」
青い巨人は相変わらず、巨大な棍棒で学院の残った部分を入念に破壊していた。
その間にデューダは、学院が破壊された時に飛ばされた木造部分の木の破片を拾ってきた。
「トローク学院の木造部分にはサイリルの木が使われている。
これは強い魔力を発する、結界にも使われる木だ。
この木を魔法を打ち出す為の武器代わりにする!
足りない魔力はこの木が付け加えてくれるはずだ!」
デューダはラストルの腕ほどの長さの、細く裂けたサイリルの木の木片を渡した。
「さあ、準備はいいか?
それを奴に向かって構えるんだ!」
デューダの言葉にラストルは静かに頷き、両手で持ったサイリルの木片を構える。
「全てを抱擁せし、力の神よ。
三星の力を貸し与えたまえ。
汝、その力を以って恐れを砕き、
その力を以って邪を払い、
その力を以って光を救え。
発動せよ!三星強化!!」
詠唱と同時に、ラストルの体が白い光に包まれる。
体が一気に軽くなり、身体から力が溢れてくる。
「いけッ!!ラストル!!全力で放てッ!!」
デューダの掛け声を合図に、
ラストルは詠唱を唱える。
「光よ!ここに集え!!
発動!!」
ラストルは片足を踏み込み、両手を突き出し、
力の限り叫んだ。
「フラァァァッシュッ!!!」
サイリルの木片の先端から、周囲の空気を巻き込んで巨大な光が発射された。
ラストルの発動した閃光の魔法は巨大な光の線となって、巨人タイタンに向かっていく。
「!?」
閃光は巨人の頭の、斜め上を走った。
狙った場所がズレていた。
「クソッ!狙いをはずしている!!」
デューダは悔しそうに叫んだ。
「いやッ!!まだだぁぁッ!!」
ラストルの腹部がまばゆい光を放つ。
「こんのぉぉぉ!!!」
ラストルは、サイリルの木片から放っている閃光をゆっくり斜めに振り下ろす。
巨人の頭の上を走っている閃光は軌道を変え、巨人の頭に直撃した。
「グオォォォォォォォッ!!!」
巨人は咆哮を放ち、
頭部が消し飛んだ。
胴体だけの巨体は轟音と共に膝をつき、残った学院の建物を潰しながら倒れた。
ふたたび、粉塵が巻き上がり見えなくなった。
「ハァ…ハァ…や、やった…」
ラストルも顔から倒れ込んだ。
デューダは駆け寄り抱き抱える。
「凄いぞ!ラストル!よくやった!!
あの巨人タイタンを倒したんだぞ!!」
デューダは興奮したようすで、嬉しそうに笑っている。
ラストルは、魔力を限界まで使い息切れが収まっていなかった。
かわりに親指をぐっと立てた。
「スゲェよ、まさかあの状況で閃光の魔法の軌道を変えるとは…
ありゃ、もう光の剣だな!」
デューダの言葉が遠くに聞こえる。
ラストルは心身の疲労から、ゆっくり目を閉じて気を失った。