3話 応酬と召喚 (魔)
司令塔にて蛮声の角笛を使用し、全魔族に自らの運命を告白する魔王ルシフェウス。
魔族を救う手段として人間との和解を提案する。
その和解の方法を説明、泣き崩れるグーシオン。
世界の混乱を感じながら魔王ルシフェウスは演説を終える。
魔王ルシフェウスと魔導師グーシオンが司令塔の扉を開けて出たところに、銀髪の褐色肌の女性が立っていた。
「魔王様…先程のお話は…勇者に討たれるという話は本当なのですか!!」
露出の多い黒の鎧を着た褐色の女性は、泣きそうな顔をしながら問いかけた。
「これこれルーナよ。
気持ちは分かるが、いきなり現れて魔王様に質問するのは無礼じゃぞ?」
グーシオンは杖を振りながら、褐色の女性ルーナをたしなめる。
「良い。
先程余は罰は与えぬ言っているだろう、グーシオン。大目に見てやるがよい。
さて、ルーナよ。
質問の答えだが、話は誠である。
余は程なくして、勇者に討たれ滅ぶ。
そして、太古から魔王の血族のみに与えられる、統治の権能を用いて国を納めなければ、魔の王国は滅びる。」
「そんな…」
ルーナは悲しそうに肩を落とす。
「案ずるな。すでに話した通りだが、滅びの運命に其方らを巻き込むつもりはない。救いを求める者は全員救うつもりである。」
「違うのです…私は魔王様が居なくなってしまうのが悲しいのです…
私は魔王様に拾っていただき、住む場所も、戦う力もいただきました。
しかしまだ…私は魔王様の恩義に何一つ応える働きをしておりません…
それが果たせぬまま、魔王様がいなくなるのは悲しいのです…」
ルーナの声は震えていた。
何かきっかけを与えれば、すぐに泣き崩れてしまう弱々しさだった。
ルシフェウスはルーナの頭に手を置き、優しく語りかける。
「すまぬな、ルーナよ。
だが、これは天命。避けられぬ運命なのだ。
お前は余に何も応える働きをしてないと言ったな?
ならば泣くな。滅びゆく定めのものを悲観するな。命の限り滅びから抗い、そして生きよ。
それが余の期待する、お前の応酬よ。」
ルーナは泣きそうな顔をぐっとこらえ、ルシフェウスを見た。
「…わかりました!魔王様。
私は仰せのままに、最後まで生き延びることを誓います!」
そばで見ていたグーシオンは静かに微笑みながら、満足したように首を縦に振っていた。
「うむ。
それではルーナよ。ついでにもう一つ、余の頼みに応えてくれぬか?
余とグーシオンでは少々手に余る相手と会わねばならない。」
「はい…?」
不思議そうな顔をするルーナを横目に、ルシフェウスは廻廊を進んでいく。
「ほれ、何をボーっとしておる。召喚塔へゆくぞ!」
小さなグーシオンは、杖でルーナの尻を叩きながら急かした。
ルーナは恥ずかしそうにお尻を抑えながらルシフェウスの後を追った。
〜召喚塔 天上階召喚室〜
扉を開けると、円卓に席が10席均等に並んでいる。
少し歩いたところで立ち止まったルシフェウスの足元には、魔方陣が彫られれている。
「ねぇグーシオン様?
いつも思ってたんですが、どうして召喚室なのに椅子や円卓があるんです?
魔獣や精霊とか、強力な召喚獣を呼び出すにしては狭いし、綺麗すぎる気がするのですが…」
ルーナはしゃがんで、ヒソヒソ話すようにグーシオンに聞いた。
「ここは、特別な場所なのだ。
召喚獣は戦場で呼び出すものだ。
ここは、もっと恐ろしく、さらに強大なものを呼び出す場所…静かに見ておれ。」
グーシオンはルーナに諭した。
後ろでのやり取りを聴きながら、ルシフェウスは腰につけていた黒い剣を引き抜き、自分の手のひらを軽く切った。
「魔王様何をッ…!?」
「シーッ!!静かにせぬか!!」
驚くルーナの口を自分の着ている布で塞ぐグーシオン。
ルシフェウスは詠唱を唱え始める。
「魔王ルシフェウスの名の下に。
我が魂に刻まれし、歴代の王よ。
我が血を以って呼びかけに応えよ。
禁忌召喚魔法!具現眷王!」
ルシフェウスの手から滴り落ちる血が地面に刻印された魔方陣に触れ、赤く光り出した。
魔法陣から巻き上がるように風が発生し、ルシフェウスを包む。
「グーシオン様!禁忌って…!?」
風と光で目が開けないルーナは、グーシオンに尋ねる。
「世界に存在する要素を戦闘用に精霊や魔獣として召喚するのとは違って、過去に死んだものを召喚する場合は魔力の他にも代償を支払う必要があるのじゃ。
代償が伴う魔法を禁忌魔法と呼ぶ。通常の魔法との違いは運命に干渉するか否か。
死んだ者が生き返れば、それまで起こるはずの無かった出来事が起こる為、運命が多少変わる。
それを阻止するために世界が作った防衛機構が代償じゃ。
命を生き返えらせるには、術者本人の他に数体の命が必要。
時間停止にはさらに命が必要。
時間移動にはさらに命が必要…という具合でやる事の大きさによって代償が変わる。
今回の具現眷王という魔法は、単純に霊体のまま短い間呼び出すだけなので、魔王様の血の代償で充分ということじゃ。
わかったか?ルーナ」
「よくわかりません!!
死んだ人をちょっと呼び出すだけだから代償は血を流すだけで良いっとことですか!?」
風圧に声を消されながらルーナは大声でまとめた。
「まぁ…それでいいわぃ…」
グーシオンはため息をついた。
いつの間にか円卓の席はルシフェウスの席と1席を残し、全て埋まっていた。
「お久しぶりでございます。歴代王よ。」
ルシフェウスは深々と頭を下げた。