29話 奇数と偶数 (魔)
コンフリクトラインでの魔族の進行は続く。
〜 コンフリクトライン シーレ領付近 〜
「あん?おい、迷子がいるぞ!」
荒野の戦闘領域。
コンフリクトラインに相応しくない綺麗な白い服を着ており、金色の髪、翠の瞳の少年が立っていた。
鎧を着た戦士が膝をつき、少年の目線の高さに合わせた。
「ボウズ、どっから来たんだ?
ここはあぶねぇぞ?
怖い魔物がうじゃうじゃいるからな!」
鎧の戦士は少年に話しかけた。
「あのさ、僕はそのうじゃうじゃいる方から来たんだけどなぁ…
あとボウズっていうけど、君たちより僕は年上なんだよね〜」
少年は呆れたように話す。
それを聞いた戦士は勢いよく飛び下がり、剣を抜いた。
「こ…こいつ!魔族か!
クソ、人間みたいな格好しやがって!」
戦士は声を荒げて言った。
声を聞きつけ、周りからは続々と戦士たちが集まってきた。
「いやぁ…囲まれちゃった。
僕は野蛮な戦いは嫌いなんだよなぁ。
じゃあ、いいや。
''そこのおじさん!
僕と簡単なゲームをしようよ。''」
話しかけられた戦士に向かって少年は声をかける。
「誰が魔族の言う事なんぞ聞くものか!
これだけの人数でかかればお前なんか…
うぉッ!?」
戦士の胸に奇妙な刻印が浮かび上がる。
「残念ながら拒否権はないんだなぁ〜
賭ける人数は視認できる周りの人間全員ね。
僕は1人しかいないから、僕自身の命を賭けるよ。」
少年は綺麗な顔でニヤリと笑う。
「なんだこりゃ…!身体が動かねぇ…!」
「見えない何かで縛られているみてぇだ!」
周りの戦士たちが動けずに叫ぶ。
立ったままの状態で固まっていた。
「一体何が…」
勝負を挑まれた戦士が戸惑っている。
「助言をするなら、不用意な発言は慎むことだよ?
言霊や音声ってのは暴走すると収集がつかなくなるんだ。
''さて、勝負の前に自己紹介するね。
僕は天秤の魔将シーレ。''
よろしく!」
魔将シーレは戦士に対して挨拶した。
「不用意な発言…?
何を言ってるんだお前!
お前なんかすぐに捻り潰して…
!?
か…身体が…俺も身体が動かん…」
戦士が1歩踏みしめた途端、戦士は体の自由が効かなくなった。
「空気読みなよおじさん…
相手が自己紹介したら自分も自己紹介するもんでしょ?
ちゃんとしないと、ちゃんとするまでそのまま動けないよ?」
シーレは欠伸をしながら言った。
戦士は動けない身体で少し考えた。
(これは…すでに奴の術中という事か。
俺とした事がやらかしたぜ…
どうやら俺以外にも効果が及んでるようだ。
ならば、今は無駄に抵抗するよりは奴に従ったほうがいいか。)
「俺はヤンゼルだ。
…お、身体が動く。」
戦士ヤンゼルは周りの状況を考え自己紹介した。
ヤンゼルの固まっていた身体が動き出した。
「そうそう。それでいいんだよヤンゼルのおじさん。
さて、ルールは簡単。
''このダイスを交互に投げて奇数か偶数か当てあうゲームだ。
相手が投げて予想が当たれば、自分の勝ち。
外れれば、相手の勝ち。''
どうだい?シンプルで簡単だろ?」
シーレは黒色に白色の点で示された6面のダイスを見せた。
「まて、お前の用意したダイスでは公平性に欠けるだろ!
俺の持ってるダイスも使え!」
ヤンゼルは懐から白色に黒色の点で示されたダイスを取り出した。
「へぇ〜なんでダイス持ってんのか知らないけど面白そう!
合計で奇数か偶数か予想するわけね!
いいよ。やろう!
''負けた方は賭けた命を失う。
ヤンゼルのおじさんは周りにいる人間の命を賭けながら僕に挑む。
僕は1人しかいないから、一回でも勝てば勝ちだよ。''」
シーレは楽しそうに答える。
「おいおいマジかよ…アイツが勝たないと1人づつ死ぬってことかよ…」
周りで動けない戦士達がざわつく。
しかし、ヤンゼルは全く臆していなかった
(これは何かの運命だな。
戦士になる前はイカサマのギャンブラーをやってたわけだが、お守りがわりに持ち歩いてた6の目が出やすく細工してあるダイスを使えるとは、ツいている。
これなら予想はしやすい。
しかし…こんな不利な条件であのガキが自信満々なのは気がかりだが…)
「随分自信満々だな魔物のガキ!
相手は数十人もいるんだぜ?
一回でも勝てばお前は死ぬんだぞ?
怖くないのか?」
ヤンゼルは様子を見るためにでシーレを煽った。
しかし、シーレはニマニマ笑っている。
「それはヤンゼルのおじさんも同じだよ。
知らない他人の命を消費しながら、いつまでまともな精神状態でいられるかな?
さて、じゃあ始めようか。
最初は僕が投げて、ヤンゼルのおじさんが当てる順番で良い?」
シーレはヤンゼルに確認した。
ヤンゼルは静かに頷く。
「さぁ、ヤンゼルのおじさん!
奇数か!、偶数か!」
シーレは楽しそうに問いかけた。
「偶数だ!」
シーレは天高く白と黒のダイスを投げた。
ダイスは地面に落ち、コロコロと転がる。
(最初はあのガキのダイスに細工がしてあるか、確認を兼ねたテストだ。
周りの戦士達には悪いがな。)
ヤンゼルはシーレの出した黒いダイスを注意深く見ていた。
「白が6、黒が3。
合計が9で奇数!
僕の勝ちだね。」
その瞬間ヤンゼルの後ろで呻き声がした。
「グガァッ!!ぐるじぃぃッ!!」
戦士の1人が白眼をむいて倒れた。
周りの戦士達が青ざめる。
「おいおい、マジかよ!!
死んじまったぞ!!」
「ヤンゼル!!絶対外すなよ!!俺はまだ死にたくねぇ!!」
戦士達は動けない中をざわめく。
ヤンゼルの顔には汗が滴っていた。
「さぁ、続けよう。
ダイスを投げてよ。
ヤンゼルのおじさん。」
ヤンゼルは手に持ったダイスをマジマジと見つめていた。
(この黒いダイス。
不自然なところはなかった。
何か超魔術的な事もしていない。
俺の白いダイスは想定通り6を出した。
次の奴の出かたを伺うしかない…)
「奇数か!偶数か!」
ヤンゼルが勢いよくシーレに聞く。
「偶数。」
ダイスが宙を舞う。
カラカラと音を立てて、転がる。
「白が6、黒も6。
僕の勝ちだね。」
「ガアァッ!!」
再び、叫び声と共に戦士の1人が絶命する。
ヤンゼルの手は震えていた。
(全くわからない…なんなのだ!
黒いダイスに何かされているのだろうが、さっぱりわからん!)
ヤンゼルはあまりに自然な流れにイカサマを見抜く事が出来ない。
そもそもイカサマをしているのかすらも分からなかった。
「さぁ、早いとこ当てないと仲間が次々と倒れてくよー
どんどんいこう。
奇数か!偶数か!」
シーレは楽しそうに聞いた。
「偶数だ!!」
ヤンゼルは焦った様子で答える。
ダイスは地面を不規則に転がる。
「白が6、黒が1で奇数。
またまた僕の勝ちだね。」
ヤンゼルはとてつもない強運のシーレに敗れ続けた。
後方で倒れていく戦士の断末魔を聴きながら、自分の番が近づいてくる焦りが襲っていた。
「どうもおかしいぞ!!
なんでお前だけそんなに当たる!!
その黒いダイス!
何か細工してるんじゃないのか!?」
ヤンゼルは顔中汗だらけになっていた。
後方の戦士は残り3人。
全員戦意を喪失している。
「へぇ〜まだ精神崩壊してないんだ。
なかなかの、ひとでなしだねぇ。
僕からしたらその白いダイスは6ばかりが出てるようだけど、まぁいいや。
じゃあルールを変えよう。
''黒いダイスはヤンゼルのおじさんが壊していいよ。
ついでに、ヤンゼルのおじさんが持ってきた白いダイスを使って、全部ヤンゼルのおじさんが投げるといいよ。''」
「な…なんだとッ!?」
ヤンゼルは狼狽えた。
(何故だ…?
圧倒的に不利な条件のはずなのに、なぜそこまで強気でいられるんだ!?
いやいや、落ち着け。
戦士は俺を含めて残り3人…
正直、他の奴が死のうが生きようがどうでもいい。
問題は俺が生きるか死ぬかだ!
ダイスは8割の確率で6を出している。
あのガキの順番を差し引いてもあと2回。
絶対に6は出るはずだ!
これなら勝てる!)
ヤンゼルは汗だくになりながら、希望を見出したように少し笑った。
「よ…よし。
ならこの黒いダイスは壊すぞ!」
ヤンゼルは持っていた剣でダイスを破壊した。
なんの変哲も無いダイスが砕け散った。
「そして、俺はこの白いダイスが偶数が出ると予想するぜ!」
ヤンゼルはシーレにダイスを見せつけた。
「さぁ、うまく出るかな?」
シーレは余裕の表情で笑っている。
ダイスが投げられた。
地面を転がりながら、数字の目が出る。
「…1…だと…!?」
背後の戦士が声も立てずに倒れた。
「もぅ…おしまいだ…勝てっこねぇよ。」
残った1人の戦士が頭を抱える。
ヤンゼルは唇をかんだ。
「じゃあ、次は僕が予想するよ。
ん〜奇数かな?」
シーレは少し悩んで宣言した。
(そうだ。あのガキがミスる事も考えなくては!
このダイスは偶数になりやすい。
ガキが奇数を選択するのは愚策。
まだ勝負はわからない!)
ヤンゼルは白いダイスを投げた。
ダイスが地面に落ちる。
「4だね!偶数で僕の勝ち〜」
シーレは無邪気に喜ぶ。
「ヒィッ!!グェッ!!」
最後の戦士が悲鳴をあげて倒れた。
ヤンゼルの背後には綺麗な屍が並ぶ。
「くッそう!!なんでだ!!
なんで負け続けてんだ!!
こんなのおかしいじゃねぇか!」
ヤンゼルは声を荒げて叫ぶ。
シーレはニヤニヤしながらその様子を見ている。
「ヤンゼルのおじさん。
とうとう1人になっちゃったね。
あまりも可愛そうだから、僕が次に出る目を予想してあげるよ。
次は偶数が出る。
それでおじさんは勝てるはずだ。」
シーレは笑いながらヤンゼルに出る目を教えた。
ヤンゼルは震えながら自分の手の中にあるダイスを見た。
(舐めやがって…!
俺の反応を見て楽しんでやがるな。
だが、全敗の俺に対してあのガキは全勝。
先読みの力があるのか…?
いや、それにしては俺が負け続ける理由がわかんねぇ…
なんなのかはわからねぇが、信用していいのか…?
ダメだ!
正解を当てりゃあのガキが死ぬんだ!
絶対に自分が死ぬ回答を言うわけがねぇ!
だったら…俺が予想するのは…)
「いや、奇数だ!!
お前の言う事が正解なら、お前は死ぬ。
わざわざ自分が死ぬことを絶対するわけがねぇ!
だから奇数だ。」
ヤンゼルは手を握りながら宣言した。
「ふぅ〜ん。残念。
じゃあ、投げなよヤンゼルのおじさん。」
シーレは心底残念そうに言った。
ヤンゼルは今まで以上に高くダイスを投げた。
ダイスは地に落ちて。突出した石に当たり、クルクルと回転する。
「奇数!奇数だ!絶対に!」
ヤンゼルは自分に言い聞かせるように回転するダイスを真剣に見た。
ダイスはゆっくりと回転数を落とし、1つの目を導き出した。
「…6…だと…」
白いダイスは偶数を示していた。
ヤンゼルの視界が霞んでいく。
「あーあだから言ったのに。
最後まで自分のダイスを信じないと。
その6の目が出やすいダイスをね。」
シーレは吐き捨てるようにヤンゼルに言った。
「…チクショウめ…」
ヤンゼルは倒れた。
白のダイスが寂しげに地に転がっていた。




