2話 魔王と演説 (魔)
魔王ルシフェウスは勇者に滅ぼされる運命を悟り、魔導師グーシオンと共に魔族全てに声を届けることができる蛮声の角笛を使うため、司令塔へ向かう。
〜魔王城 司令塔〜
魔王ルシフェウスと魔導師グーシオンは、天井から吊り下げられた巨大な角笛の前にいた。
「グーシオンよ、''蛮声の角笛''を起動せよ。」
「かしこまりました、魔王様。」
グーシオンは角笛の前でを詠唱を唱え始めた。
すると、角笛が禍々しい紫の光に包まれた。
「起動しました。魔王様。どうぞ吹き口に向かってお話しくださいませ。」
「うむ、手をかけさせたなグーシオン。」
魔王ルシフェウスは角笛の前に立ち、一呼吸置いた後、静かに話し始めた。
「全世界の魔のものよ、余は魔王ルシフェウスである。
しばし、余の声に耳を傾けてほしい。」
魔王ルシフェウスの声は世界全土の魔族に響き渡る。
魔王を見た事がないもの、人間と戦っているもの、食事をしているもの、死にかけているもの、分け隔てなく全ての魔族がその声を聞いた。
「余に与えられた権能の一つ。超直感により、余が勇者に討たれる姿を見た。
同時に、予知水晶でも全く同じ姿が映し出された。
これが意味する事は…非常に言い難い事であるが、余の消滅。そして魔の王国の滅亡である。」
魔族はざわついていた。
世界の頂点に君臨する魔王自らが、自身の消滅を語ったのだ。
「嘘だろ!?魔王様が!?そんな…」
「落ち着け!もしかしたら勇者側の高度な情報操作かもしれん!」
「あぁ…おいたわしや…魔王様…」
魔王はまた一呼吸おいて話を続けた。
「今、余の発言でもって、混乱している者もいるだろう。だが、この結末は事実である。
余が討たれるまで残り十数年。我々魔族の寿命と比べれば実に短い時間である。
だがしかし、その短い間に余は!
同胞であるすべての魔のもの全てを救いたいと考えている!
今のまま戦い続ければ、いずれ人間族に淘汰されてしまうであろう。戦いに無関係な者も魔族であるという理由だけで殺されてしまう。
そこで…
余は考えたのだ。
今こそ人間族と和解すべきではないかと。」
聞いていたグーシオンは驚いて持っていた杖を落とした。
「魔王様!?何を…!」
「静かにせぬか、グーシオン。」
吹き口を指で塞ぎ、魔王ルシフェウスはグーシオンを見た。
「…申し訳ありません魔王様。しかし私は…」
「まぁ、心して最後まで聞くが良い。」
魔王ルシフェウスは吹き口から指を離し、再び口を開いた。
「人間族とは愚かな生き物だ。見た目だけで善悪を判断する見識の狭さ、集団で動かねば力も発揮できぬ非力さがある。魔族にとっては家畜と同類と呼んでも良い。
だが、
世界は、星は、人間に対して加護を与えるほど贔屓している。 人間を愛したのだ。
家畜と同類といえど世界を味方につけたとなれば、話は変わってくる。
そのような者達と戦っても、命を無駄に散らしていくだけだ。
そんな同胞の姿は…余は見たくないのだ…」
魔王ルシフェウスは少し悲しげな顔になった。
「不本意で憤る者もいるだろう。嘆き悲しむ者もいるだろう。だが、理解してほしい。これは魔族が生き延びる最後の手段なのだ。
余は、最後まで世界が選ばなかった者達に最後の一瞬まで愛を送りたい。
そこで余は考えた。
ただ人間族へ和解を求めても、疑念と疑心で覆われた奴らは聞く耳を持たぬだろう。
考えに考えた末に一つ。回答を得た。
それを諸君らに話す。
…」
魔王ルシフェウスは、自身の考えた人間と和解する為の方法を語った。
側で聞いていたグーシオンは泣き崩れた。
世界の全ての魔族も笑顔になる者は一人もいなかった。
「…以上である。
なに、安心するが良い。
罰は与えぬ。
そして志ある者は魔王城へ集うが良い。
さて、長く話過ぎたな。
これより後も、定期的に蛮声の角笛にて余の今後の話をしていくつもりである。
では、失礼する。
静聴感謝する。」
魔王は静かに、角笛の魔力を遮断した。
振り返ると、涙でグシャグシャな顔になったグーシオンが床に座り込んでいた。
「魔王様…なぜそのような事を…!!
他に方法があったはずです!
全てを抱え込む必要など無かったのに…!!」
グーシオンは泣きながら叫び続けた。
魔王ルシフェウスはグーシオンに近づき、膝をついて肩に手を当てた。
「グーシオン。
余は暴君であったが、そのように泣き嘆いてくれる者がいるだけで、誠に嬉しいのだ。
人間共は我々を力の強い獣か何かと勘違いしているようだが、我々にも心がある。
だからこそ、其方のような心ある者を救いたい。
この暴君の最期の悪政だ。
自らの命の使い道は、自らで決めさせてくれ。」
魔王はニコリと笑った。
「魔王様、私めに救いなど要りませぬ!
なので、今回は魔王様の我が儘は聞けませぬ!
私は最期の最期まで、魔王様に志を捧げる者としてお仕えいたします!」
グーシオンは鋭く強い目で魔王を見た。
魔王ルシフェウスは静かに頷いた。
「うむ、ならば余を助けよグーシオン。期待しているぞ?」
魔王ルシフェウスは立ち上がると、司令塔の扉へ歩きだした。
「魔王様、次はどちらへ?」
「余の…最も入りたくない部屋へ…
召喚塔へ行く。」
魔王ルシフェウスは扉を開けた。