第四話
拝啓 極寒の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、犬養さんが倒れた件ですが、大事に至ることはありませんでした。彼女が倒れた理由は寝不足によるものです。彼女の睡眠不足は鬼不足により引き起こされたものではなく、睡眠時間を削って恋愛漫画を読み込んだ結果だそうです。余暇活動は人生を楽しくさせるものではありますが、現を抜かすのは良くありません。皆さんも気を付けてください。
初春といえども時折雪が降り寒さ厳しい季節、くれぐれもご自愛ください。
敬具
形式的な文章で壁を感じる。なぜそんなことをしたのか気になりますか。私の語彙力がないからですよ。
「先輩、頭が痛いです。」
当然ですよ。床に激突したのですから。
「そのおかげで目が覚めましたし、よかったのでは。」
「よくないです。とても痛いんですよ。」
二日酔いの私を追い詰めたあなたが良く言えましたね。
「可愛い後輩への気遣いが足りません。私への愛が足りません。」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。」
「何言ってるんですか。私には後輩はいませんよ。」
もういいです。
「楽屋につきましたよ。」
「先輩、今回の楽屋狭くないですか。」
「気にしたら駄目です。」
あの人のせいですから。
「着替えと化粧ぐらいしか使わないのでいいのですが…」
そうなりますよね。犬養さんの気持ちがよくわかります。はっきり言って納得できません。主人公、その他の役はそれなりの楽屋を使っています。しかし、鬼役には狭い部屋。あの人は配分を間違えているのです。
実際は、鬼、その他の役が現在主人公とヒロインが利用している大部屋で、主人公、ヒロイン等、1人しかいない役が小部屋を利用するのです。といいますか、その前提でこの花咲ホールは設計されています。
それをあの人は故意に割り振っているのです。本当に質の悪い人ですよね。極悪人です。
あの人じゃわからないから教えろ、ですか。メガネですよ、メガネ。メガネ監督です。自身の思い通りにならないと機嫌が悪くなる人です。
監督は良くも悪くも役者上がり。しかも主人公役で、輝いた人です。本人談なので事実か知りませんが。なので、鬼のつらさがわかっていません。しかし、主人公役のつらさを知っています。
1つしかない主人公の枠に入ろうと日々努力し、高い競争率の中で勝ち取ってきた役者。それに対し、需要に対して供給が全くなく、手を上げれば採用される鬼の役者。
文面を見ればどちらの役者が高い演技力があるかわかりますよね。だからメガネ監督は主人公の役者に対して過剰にサービスをするのです。需要に見合った供給がない鬼は休みがないことに気付かずに。
それはそれ、これはこれです。公演を見に来たお客様に非はありません。楽しみに来ているのです。監督は苦手ですが、お客様のために頑張ります。