駄メイドロボの嫉妬
新パソコンを購入して数日が経過した。
以前のようにメイとドロシーがパソコンを奪い合って喧嘩することもなくなり、非常にまったりとしたニートライフが送れている。
「ユーセイ、コーラ下さい」
「はいよ」
メイのコップにコーラを注ぐ。
「悠誠、肩が凝ったわ」
「はいよ」
乙女ゲームのし過ぎて疲れているのだろう。
ドロシーの肩を揉んでほぐしてやる。
「ユーセイ、晩御飯のチ○ンラーメンの準備は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、メイ」
「悠誠、手の動き止めないで」
「ごめんよ、ドロシー」
「……」
「じゃねぇぇぇ!働けよ!なんでメイドロボために俺が動いてんのぉ!?」
あの買い物の後から、簡単な料理や家事は俺がすることになってしまった。
気づいたらこうなっていた。
なぜだかは分からない。
「えっ……悠誠って書いて【めしつかい】って読むんでしょ?」
「読まんわ」
この間の"デート"で、ちょっとでも可愛いとか思ってしまった自分が情けない。
このメイドはただの畜生だ。
「メイ、お前なら、分かってくれるよな、俺の気持ち」
「あぁぁ、相変わらずハナちゃんは可愛いですねぇー」
「聞けよ」
どうしてこうなったんだ。
パソコンという文明の利器は、人を堕落させてしまうのだろうか。
この数日パソコンに触れていない俺は、なんだか元気になっているし。
バイトくらいならしても良いんじゃないかとも考え始めた。
気が狂ったのか、気が戻ったのか。
やはり分からない。
しかし、いい機会じゃないか?
「俺、働くわ」
……
空気が凍った。
UMAでも現れたかのような驚いた表情を見せるメイとドロシー。
「正気ですか?怖い夢でも見たのですか?しっかりして下さい、ユーセイ」
「あなたが働いたら、この生活出来なくなるじゃない!考え直して!」
ダメだ、こいつら。
まあ、知ってたけど。
・・・・・・
・・・
「正直、あたしはまだましだと思うの」
そう言うのはドロシー。
メイに視線を送りながら、ため息をつく。
「今だって、あたしは一応書類の作成してたのよ?」
ほら、とパソコンの画面を見せてくる。
「ごめん、またゲームしてるのかと」
「そんな時に肩揉ませないわよ」
「意外と真面目だな」
「意外は余計よ」
ドロシーはそっぽを向いてスネて見せる。
謝りながら、彼女の頭を撫でる。
「こうしたら許して貰えると思ってない?」
「違うのか?」
「……まあ、悪くはないけど」
小さく呟く声が聞こえた。
「あの子への貸しもたまってるし、メイにも何かしてもらわないとねぇ……」
「貸し?」
「うん、あの子の分の報告書も作ってるからね」
「マジか……」
「マジよ」
動画サイトをサーフィンしながらぐーたらしているメイを見る。
かつての頼もしさは完全に消え果ててしまっていた。
「でも、ああしてる時が一番幸せそうなんだよな」
「甘やかし過ぎなのよ、悠誠は」
今のメイはさすがにだらけ過ぎだとは思うが、具体的な対策も思いつかない。
俺自身がニートだからわかる。
あの状態で無理やり矯正しようとすれば、間違いなく問題が起こる。
徐々に直していくしかないだろう。
「メイ、ちょっと外に出ないか?」
「……」
返事がない。
「おーい、メイ」
「ドロシーと2人でいけばいいじゃないですか?」
「え?」
これって。
ひょっとして嫉妬というやつか。
あのデートが原因で?
ドロシーの方を振り返る。
「ひゅーひゅーひゅひゅー」
「口笛吹けてないから」
「♪~♪♪~♪~~~♪」
ドロシーの腕から音楽がなり始めた。
「なんだその無駄機能」
「と、とりあえず、あたしは関係ない……わよ?」
「煽ったのドロシーだからね!」
「うぅっ……」
「ほら、一緒に作戦考えるぞ」
「はぁ……わかったわよ」