駄メイドロボはつけてくる
ヌタバで席を確保した俺たちは、今日の予定について話し合うことにした。
購入するのは高スペックなノートパソコン、洋服、消耗品だ。
パソコンは重いから後回しにするとして、洋服などはどこで買うのがいいだろうか。
「まずは、映画ね!」
「は?」
「この前買った漫画が映画化してるらしくって。いい機会だし見に行きましょ」
「いや、俺興味ないんだが」
「見たら興味出るわよ。そしたら漫画も貸してあげるわ」
「滅茶苦茶だ……」
その後もドロシーは自分のやりたいことを列挙していく。
こんなことなら家でぐーたらしてたい。
「と、こんなところかな……って、本当に嫌なら言ってね。あたし自分の用事で出掛けることってないから、好き放題言ってるけど」
「そうなのか?」
「そりゃあ、メイドロボですから。あなたの所が色々おかしいのよ」
「悪かったな、おかしくて」
「でも、こんな楽しいのはじめて。感謝してるわ」
つい忘れがちになってしまうが、この子もメイドロボ。
政府の命で俺のところにやってきたんだよな。
見た目がとても幼いし、メイのこともあって人間と同じように扱ってしまう。
コミュ障の俺が接せる数少ない相手である。
人間に従事するために作られたであろうAIだが、楽しみたいという気持ちは間違いなく存在するのだろう。
彼女には今後も世話になるだろうし、協力できることは強力しないとな。
「んじゃ、映画に行くか」
「え、良いの?」
ぽかんとこちらを見るドロシー。
「行きたいんだろ。その代わり面白くなかったら、罰ゲームな」
「うん、ありがと」
「よし、そうと決まれば出るか」
まだ13時前だ。
これから映画を見ても、夜までには帰れるだろう。
メイは待たせてしまうことになるが、お土産でも買って帰れば大丈夫だ。
……念のため、少し良いものを買うことにしよう。
そう決めた俺は席を立った。
・・・・・・
・・・
気まずい。
少女漫画に濡れ場はつきものだ。
しかし、実写映画で1分以上のアダルトなシーンはどう反応すればいいのだろう。
ふと、隣に目をやると、真剣な眼差しで映画に見入るドロシーの姿があった。
何が気まずいかって、一見中学生くらいに見える女の子と一緒に見ていることだ。
周囲には若者のカップルばかり。
暗くて分かりにくいとは言え、裏で変態ロリコン野郎と思われているかもしれない。
1人の客もいるが、ロリ連れよりましだろう。
そんな心配もよそに無事濡れ場も終わり、場面はクライマックスに移る。
後半にもなると、ドロシーの表情もめくるめく変わっていく。
表情豊かなロボットである。
そんな彼女の顔を見ているだけでもおかしくて、映画の内容は頭半分ほどにしか理解できなかった。
そして、イケメンのヒーローが主人公にキスするシーン。
ドロシーは興奮したのか、「うぉぉ」と小さくつぶやく。
たしかに今のシーンには、俺でもドキっとした。
俺もイケメンならニートなんかになってなかったんだろうな。
わずかにこみ上げる情けない思いを抑えながら、エンドロールを見ていた。
・・・・・・
・・・
映画館を出た俺とドロシーは、適当にウインドウショッピングをしつつ、必要なものを買い揃えた。
散々歩いたせいで足の裏が痛むが、後は帰るだけだ。
「あ、メイのお土産忘れてた」
下手をすると一番重要なものをまだ買っていなかった。
「お土産?」
「そうそう、メイには留守番させてしまったしな」
「んー、なら直接買ってあげれば?」
どういうことだ、っと尋ねるより早くドロシーが物陰の方へ手を振った。
しばらくドロシーがそうしていると、さっと人影が現れる。
「メイ?」
「あの子、ずっと付いて来てたわよ」
とぼとぼ歩いてくるメイは目を合わせようとしなかった。
いたのなら言ってくれればいいのに……まあ、家を出る前のあの状況じゃ無理か。
「き、奇遇ですね!」
「お前らしくない嘘だな」
「うっ、申し訳ないです」
どういう意図があったのかは分からないが、それはひとまずおいておこう。
土産を買う手間も省けたことだし……
「どうせだから、これから夕ご飯食べて帰るか」
それがいい。
美味しいものを食べれば、メイも元に戻るだろう。
「今日は特別奢ってやるよ」
「それご両親のお金ですよね?」
「それご両親のお金だよね?」
2人につっこまれた。