そのメイドロボ、優秀につき
その日の朝は早かった。
太陽はまだ昇り始めたばかり。
そんな早い朝、インターホンの鳴る音に目覚めた俺は、玄関の覗き穴に張り付くメイに気が付いた。
「何してるんだ?」
「忘れたのですか。今日は例のメイドロボが来ます。というか、もう来ています」
その一言で眠気から覚めた。
そうだ。
俺達の生活を怪しんだ政府が、新手の刺客を送り込んで来るのだ。
今日に備えて、昨晩は色々と準備をしたではないか。
「ど、どんなやつだ?」
怖そうな人なら嫌だな。
奥手で、おしとやかなメイドロボなら嬉しい。
すぐ追い返せそうだ。うん。
「ん……見た目は普通のメイドロボですが、私たちが反応しないことにソワソワしています。短気な性格ですね。メイドロボ失格です」
メイは、玄関の戸にぴたりと密着しながら答えた。
その姿もメイドロボとしてどうなんだ、というのは黙っておこう。
怒らせると後が恐ろしい。
俺たちが様子を伺っていると、再度インターホンが鳴る。
メイと俺はお互いに頷く。
一息ついた俺は取っ手に手を掛けた。
「はい、どちらさまでしょう」
「あなたが三村悠誠ね!」
目の前に現れたのは、ロリだった。
ブロンドに輝く髪が美しくウェーブを描いている。
メイに負けず劣らずの美少女だった。
「あ、お母さんを探してるのかなー?警察はあっちだよー」
「そうなんです……。ママって歩くの早くって。警察はあっちですね、ありがとう、お兄ちゃん♪」
「って違うわよ!危うく乗せられるところだったわ」
「チッ…」
どうやら馬鹿ではないようだ。
「『チッ…』じゃないわよ。んま、いいわ。部屋に通してもらうわよ」
返事も聞かずに部屋へとズカズカ入り込んでくるロリ。
何かを探るように部屋を見回した後、彼女はデスクの椅子に腰を掛けた。
「あなたも大変ね、6873番。こんな男の担当になるなんて」
「たしかに、大変なことも多いですね」
「クフフ。それもあたしが来たからにはもう大丈夫よ!」
6873番ってなんだ。
どうやらメイに対して言っているようだが。
(私たちメイドロボの製造番号です)
疑問に思っていると、メイが耳元で囁いた。
6000以上もメイドが存在するなんて、今まで想像だにしなかった。
いつの間にそんな超技術が生まれていたのだろうか。
(ちなみに、この金髪のメイドロボは7777番ですね)
(どうりで偉そうなわけだ……)
(ええ。教育施設でも、常に成績トップ。プライドは非常に高いと思われます)
(じゃあ、メイみたいに餌には釣られなさそうだな)
(そうですね。彼女はこの仕事においてエースと言える存在ですから)
(お前はどうだったんだ。成績)
(最低限の労力で「良」判定を維持する努力をしていましたよ)
(メイらしいな……)
(あんたたち、なにこそこそしてんのよ。あたしも混ぜなさい)
(メイ、なんか混ざってきたぞ)
(こう見えて、とても人付き合いがいい子なんです)
(そうよ。誰とでも気兼ねなく話せるのがあたしの長所なの)
「ってそうじゃなぁーい!」
「急に叫んでどうしたんだ」
「あなたたちのせいでしょ!」
金髪ロリは顔を赤くして、頬を膨らませる。
その様子は、見た目と合わせて、とても可愛らしく思えた。
そんな彼女に謝りつつ、頭を撫でてやる。
「んん、こ、こんなので許したりしないから!」
そう言いながらも、少女は手をどけようとはしない。
そんな彼女の頭を撫で続ける。
「お、口では嫌がってても、身体は正直だぜ?」
「いや、それは引くわ」
パシンと腕を弾かれる。
「ユーセイ、流石の私も今のは少し……」
言ってみたかったんだよ!ごめんね!
「はぁ、それで話を戻すけど、あなたたちの今日の行動を監査することになったわ」
「具体的には何を見るんだ?」
「あなたがちゃんと、社会復帰に向けて行動しているかどうか、よ」
昨日メイが予想していた通りだろうか。
そうであれば、昨日のリハーサルと同じように振る舞えば、乗り切れるはずだ。
今日一日、本気を出せば、また平和な日常が手に入れられる。
気合を入れていかねばならない。
「ユーセイ、今日はハローワークに行く日でしたよね?」
「ああ、そうだ。準備しないとな」
元々そんな予定はなかったが、急なことでこれくらいしか思いつかなかった。
仕方ないことだ。
俺は早速、スーツに着替え始める。
「あ、あれ。ネクタイってどう締めるんだっけ……」
「ジー……」
金髪さんが訝しげな顔をして、こちらを凝視する。
今日一日が憂鬱だ。