駄メイドロボですが、何か?
そして、時は流れ――
・・・・・・
・・・
「ユーセイ、そろそろパソコン代わって下さい」
「悪い、今ゲリライベ中なんだ」
「困ります。『魔法少女ミミ&ハナ』の生放送があるのです」
「録画でいいだろ」
「駄目です!コメントでの一体感が大事なんですっ!」
「SNSで実況したらいいじゃんか……」
「ゆーせい、ゆーせいぃぃ……」
あのメイドロボは、すっかりニート生活に馴染んでいた。
メイドらしく掃除や家事は完璧にこなしてくれる。
飯は半分インスタントだが……
それはお互い『コスパ最強!』と理解し合っているので問題ない。
ただ、時たまこうしてパソコンの取り合いになるのが玉に瑕だ。
可愛らしく俺の腕を揺するメイを見ていると、急におかしくなって笑ってしまう。
「何笑ってるんですか。そもそも誰のお陰でこの生活ができてると思ってるんです?」
そうなのだ。
政府、そして俺の親からの刺客であるメイが、うまいこと処理してくれるおかげでこの生活が成り立っている。
親からの仕送りは止まらず、政府からメイへの「活動費」も支給され、むしろ生活水準は高まった。
「うぐっ……。わかったよ、終わったらすぐ代わってくれよ」
「やった! では、早速弾幕の準備をしなくては」
誰がここまでニート風吹かすメイドロボを想像しようか。
政府が知ったら、どうなることやら。
メイの様子を伺うと、彼女はのんきに生放送でコメントを打ち込んでいた。
「ミミちゃーん、今日も可愛いですぅー♪」
だめだこいつ。
駄メイドロボだ。
そういえば、メイがこうまでなったのはいつ頃だっけ……
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・・・
きっかけは、非常にあっけなかった。
「まだこんなもの食べてたんですね」
少し怒った様子でメイが取り出したのは、チ○ンラーメンだった。
食器入れの奥に隠していたはずなのに……
「い、いいだろうまいんだよ!」
「困ります」
呆れたメイは、それをゴミ箱に捨てようとする。
「ま、待った!一回メイも食べてみろ!気にいるはずだ」
「前にも言いましたが、私達メイドロボは食事をする必要が無いので」
電源駆動のメイドロボは、少しの水分補給で活動を維持できるらしい。
消化系も備えており食事もできるが、消化に使うエネルギーが大きく逆に疲れてしまうのだ。
「でも、味は分かるんだろ?」
「……それは、そうですが」
「食べ物は粗末にしちゃいけないっていうだろ? そんで俺が食べないならメイが食べなきゃ」
「はぁ。了解しました」
「よし! そいつはな、トッピングが命なんだ!」
俺は早速調理に取り掛かる。
メイが来てから、冷蔵庫も充実してきた。
もやし、たまご、キムチ、そして安定の乾燥ネギを取り出す。
そして、それらを山盛りに散らす。
「わ、私の食材が……」
呆気にとられているメイを無視して、給湯器のお湯を注ぐ。
あとは2分強待つだけだ。
「よし、できた」
最後に軽くブラックペッパーを振りかけ完成だ。
「やはり身体に悪そうな見た目ですね」
「いいから、いいから。もやしを絡めて食べるんだぞ」
「はぁ……」
メイはあからさまに嫌そうな顔をしながらラーメンに口をつける。
「ずるっ…ずるる……んぐんぐ」
「ど、どうだ?」
「……」
無言のメイ。
しかし、食べることはやめない。
野次を入れる間もなく、彼女はそれを完食した。
「まぁ、その、たまになら良いんじゃないですか……」
どうやら気に入ってくれたようだ。
悔しそうなその表情が少し可愛らしかった。
俺はその勢いに乗って、カロリーメイトやらコーラやらパソコン、ゲームなどを布教しまくった。
・・・・・・
・・・
「せい……ゆーせいっ」
「ん、すまん。考えごとをしてた」
「生放送終わったので、どうぞ」
「おう、さんきゅ」
「では、私はお風呂に入るので」
「んー」
パソコンを受け取って、ネトゲを再開する。
ちなみに、風呂を覗いたりはしない。
というのも、前に一度、寝ているメイのふとももを触ったら、物凄い迫力で鉄拳が飛んできたのだ。
幸い、とっさに交わすことができたが、当たっていたら即死だろう。
あの時は30分説教をされてしまった。
でも、きついんだよ?
ロボットとはいえ相当の美少女が同居してるって。
ウチに来た頃は立ち寝していたが、ニートに堕ちてからはベッドに潜り込んでくるし……
いつの間にか風呂から上がっていたメイがビールを1本よこしてくる。
「ユーセイ、飲みましょう」
ビールの味も覚えてしまっている。
やっぱりダメイドだ、こいつは。
付き合う俺も俺でダメ人間なのだが。
「うし、借りてたホラー映画見るぞ!」
「や、ややや、ホラーはいけません!」
そして今日も宴が始まるのだった。