メイドロボ、メイ
富岡町3丁目のニートと言えば、この俺――三村悠誠のことだ。
大学中退をして半年、わりと裕福な実家からの仕送りでなんとかアパート暮らしをしている。
正直、楽しい。
めちゃくちゃ楽しい。
働かずに食う飯って、それはもう美味い。
言うなれば、ネトゲだって労働だし疲れるからな。
ネットのみんなの役には立っているのだよ?
飯は3食インスタントラーメンだ。
通販で麺と乾燥ネギをまとめ買いして、それを適当に食べる。
腹が減ったらカロリーメ○ト。
個人的にはすごく健康的な食生活だと思う。
ほら、お腹だってそれほど膨れちゃいないだろ。
恋人は……いたことがないかな。
というか、女子と会話する機会すらほぼない。
ああ、いや、それなりにいい感じの子はいたんだよ?本当に!
た、たしか……小学生の時かな?
手とか繋いだし!
今でもたまにその感触を思い出しながら……って、これは忘れてくれ。
大学をやめた理由は、友達がいないとかじゃないくてだな。
そのなんというかあれだ。
日本の大学制度って海外と違ってヌルいっていうだろ?
それに嫌気が挿したんだ!
そう!
俺はもっと上に行くべき人間だからな!
今は、そう、今は充電期間、そうだ。
俺はこの生活をやめる気は断じてない!
「ざっと俺のプロフィールはこんなもんだ」
「クズですね」
玄関前に立つこの慈悲の欠片もない奴、自称メイドロボは、政府から送られてきた刺客だ。
労働人口の改善のための政策、その実験台になぜか俺が選ばれたらしい。
「では、これより1週間、あなたの生活を監視し、その後改善策の検討、実行に移ります」
「まてまて、聞いてたか?俺は働く気がないの」
「困ります」
「俺も困ってる」
「……困りました」
「こ、今夜は外せない用事があるんだ。また明日にしよう。じゃあな」
俺は強引に扉を閉めた。
これで平穏な生活は維持された。
ニート生活。
一度味わったら戻れない最高のドラッグ。
政府の施策だかなんだか知らないが、俺には無関係だ。
かじれるスネがあるならかじる!
それが人間の生き様さ!
「よし、ログインログイン――」
「では、本日よりお世話させて頂くメイドロボです。よろしくお願いします」
「なんでいるんだよぉ!!?」
目の前にいたのはあのメイドロボだった。
「窓の鍵が空いていたので、ちょちょいと」
「ちょちょいとするなっ!」
「これも全てあなたのためなのです、ユーセイ」
「お前には、心がないのか……」
ロボットだもんな。
いくら技術が発展したからと言って、機械に感情を宿らせるのは無理だろう。
「一応、感情プログラムはあります。私は先日出荷されたばかりでまだ把握できていませんが」
「なん……だと?」
すごいな日本の技術。
だが、もし、本当にこのロボットに感情があるというのなら。
――勝ち目はあるッ!
心から説得したら、許してもらえるかもしれない。
俺はこの生活を守るためなら土下座でもなんでもする。
「ちなみに」
「ちなみに?」
「あなたの両親の了承は得ています。もし賛同されない場合、仕送り止めるとも」
「わかりましたお願いします」
どうやら、俺の親にも心はないようだった。
「それで、君の名前は?」
「名前……ですか?」
「ああ、共同生活するんだ。知っておく必要があるだろ」
「私はメイドロボです。名前はありません」
「……じゃあ、メイで」
「メイ?」
「メイドロボだからメイ。少なくとも俺はそう呼ぶから、メイ」
「……」
これまで無表情だった彼女の顔が少しむっとする。
「気に入らなかったか?」
それなら悪いことをしまった。
「いえ、単純すぎで呆れたとか、初対面で偉そうとか、もう少し可愛い名前が良かったとかそんなことは全くこれっぽちも思っていませんんので安心して下さい」
「思ってるよね……」
「はぁ。まあ、いいです。まず部屋の片付けをするので、手伝って下さい」
なんで俺が、と思いつつ部屋の整理を始める。
そろそろ掃除しないとヤバイ汚さに達していたしな。
だが、俺は諦めたわけじゃない。
近いうちにこいつを説得して、絶対に帰ってもらう。
俺のニート力を舐めてもらっては困る。
「ぼーっとしてないで、新しいゴミ袋下さい」
ぽんっ、と頭を叩かれる。
負けない。
こんなメイドロボごときに俺は負けないぞー!