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九話 残念ながら期間限定

「別にこの辺りが嫌いってわけじゃないけど、不便であることは間違いないわね。ラノベの早売りしている本屋、隣町まで行かないとないもの。そっち系の専門店もないし。と言うか本屋自体、この辺三軒しかないのよ? うち二軒が古本屋って、新刊はどこで買えばいいのかって話よね」


「三軒って、それはまたなんとも微妙な……」


 一軒もないわけじゃないし、本自体は普通に手に入る。ただ発売日ピッタリじゃないと入荷しなかったり、古本屋の方が多かったりするだけで。これで一軒しかないなら少ないなーと同調も出来るけど、三軒って本気で微妙だ。


 微妙ではあるけれど、割と役に立つ情報だ。僕もラノベとか漫画は好きでよく買うから、本屋がどこにあるかとか早売りはどこでしてるとかわかればかなり嬉しい。まあ、教えてもらったところで、一人で辿り着けるかどうかは別なんだけどね……


「まあそんな微妙な地にようこそ、ってとこかしら。住めば都って言うし、石の上に三年とも言うわね。心配しなくても、きっとそのうち慣れるわよ」


「いや僕、この辺には今年度いっぱいしかいないし」

「え!? そうなの!?」


 振り返ってものすごい顔で固まるほど、驚かれてしまった。そこまで驚くようなことかなぁ。……あ、そっか。折角起きたイベントが期間限定だったから、残念がっているのか。


「さっきも言ったけど、僕んちは父さんの仕事の都合で引っ越したんだよ。

 父さんの仕事で産休入ったって言った人だけど、もう子供は生まれてるんだって。保育園とかの空きが来年じゃないとないから、まだ休んで面倒みなくちゃいけないらしいよ。だから来年保育園入るまで父さんが責任者で、戻って来たらまた元の役職なんだってさ。どっかの課長とか言ってたような」


 これもやっぱり、詳しくは知らない。僕としては、父親の仕事を根掘り葉掘り訊く子供の方が稀だと思う。そりゃ僕はちょっと無関心過ぎる気もするけど、知ったところで何が変わるわけでもないし、なりたい職業なわけでもない。

 なりたいのは、まあ一応漫画家だけど、叶うとまでは思ってないし。多分ごくごく平凡でありふれたサラリーマンになって、特に起伏の無い平坦な人生を送るんじゃないかと思ってる。


 こちらを驚きのせいで引きつった顔で見上げていたゼクスは、不意にまた前を向いた。そのせいで、今どんな表情をしているのかは見えない。


「……そうなの。じゃあ、高校は元いたところに行くのね」


 再び歩き出してはいるけれど、その足取りはなんとなく重いうえに声なんかわかりやすくフラットになった。どうやら、残念がってくれているらしい。それがどう言う理由なのかまでは、斜め後ろを歩く僕からはわからないけど。あと、わからない方がいい気もする。


「今のところ、その予定だよ」


「……それにしても、変ね。そういう遠くに行くような時って、大抵単身赴任するもんだと思ってたけど。しかも、一年だけならなおさら」


 これまでの空気を断ち切るかのように、ゼクスの声が若干明るくなる。ただし話題が完全に切れていないので、成功しているとは言えなかった。


 特に答えない理由はないので、正直に答えた。


「僕の父さんってば、一人じゃ何も出来ない人でさ。靴下がしまってある場所は知らないし、料理も出来ないし。そのうえ寂しがり屋だから、『単身赴任なんて絶対しないぞー!!』ってダダ捏ねて、一年だけの約束でみんな引っ越して来たんだよ。もし何かの理由で一年じゃ済まなかったら、今度こそ単身赴任するって約束でね。

 僕としても、一年くらいならいいかなって思ったし」


 それに、ちょっぴりワクワクしていたのは内緒だ。ゼクスのこと、とやかく言えなくなる。


 だって転校なんてイベント、僕の平凡人生には縁がないと思っていたんだから。一年限定で元の場所に戻れるというのなら、転校するのも悪くはない。ただタイミング悪いというか、転校するのが三年生ってのは何とも言えない気分になったけど。

 修学旅行は去年京都奈良まで行ったから、そこはよかったけどさ。三年生で起こるイベントだったら、大して仲良くもないよく知りもしない人達と二泊三日もしなくちゃいけないという、苦行じみたことになるところだった。


 僕の話に納得したのか、ゼクスは感想もそこそこに話題を今度こそ変えた。


「大変ね。まあ頑張って。そう言えば流くん、もうすぐゴールデンウィークね」


「ああ、だね」


 今年のゴールデンウィークは土曜日からなので、一日短い。すごく損した気分だ。それを言うなら二月の建国記念日も潰れているので、実際本気で損している。

 今年は土曜日に祝日来過ぎだと思う。学生としては貴重な休みが減ってしまうので、大変遺憾な事態だ。今は週休二日制のところが多いから、土曜日が祝日なら金曜日休みにすればいいのに。


 今年のカレンダーに対してのその文句は、口には出さなかった。ゼクスに言ったところでしょうがないし。言うとしたら、相手誰になるんだろう? 総理大臣かな?


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