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八話 辛辣過ぎる

「じゃあさっきの、シカトすんなってのは?」


「だって一瞬目が合ったでしょ。なのに何も言わず逃げるって酷くない?」


「すみませんごもっともです……」


 一応、と枕に付くとは言え、知り合いに会ってスルーしたらそりゃ酷いか。この場合ゼクスとの会い方が問題だっただけであり、知り合いに会ったら挨拶くらいするもんだ。もし僕が普通に『じゃあね』とでも声をかけていれば、それで済んだ話ってことか。


 あれ? ってことはこの状況って、僕の自業自得ってこと!?


 驚きの新事実だった。どうやら、僕はただの方向音痴じゃなく、人生も迷走するタイプのようだ。

 ……混乱して言っちゃったけど、別に上手くもないな。どんだけ混乱してるんだ僕。


 セルフツッコミを入れながらため息を吐くと、ゼクスが楽しそうに手にしたスマホを鞄に仕舞い込みながら逆の手で親指を立てた。


「よし、じゃあ行くわよ! 道案内なら任せなさい!!」


「あーうん、任した……」


 なんだろう。引っ越して来てからまともに町を見て回ってなかったとは言え、自分ちまで他人に道案内してもらわないと帰れない存在って……だって道とかややこしいじゃん往路と復路で景色違うじゃん……


 思いっきり言い訳を心の中だけで垂れ流しながら、ゼクスの案内で家まで歩き出す僕。傍から見なくても情けなくて泣けて来るよ……


 不幸中の幸いだったのは、放課後とは言え半端な時間だったせいで辺りに人がほぼいないことだ。帰宅部の人はもうとっくに帰っただろうし、部活がある人はまだ三十分はやっているだろう。この人が少ない過疎っている時間内に、とっとと家に帰り着こう。


 そこで、いつまでに帰れるかはゼクスのさじ加減で変わると言うことに気づく。僕を長々質問攻めにする気なら、わざと遠回りして家に着かないようにすることも可能なのだ。恐ろしい相手に頼ってしまったことに今更ながら理解が及び、またため息が出た。


 ため息吐くとどうなるんだっけ。不幸になるんだっけ。


 すでにだいぶ不幸な気がするが、不幸だからこそため息が出るので悪循環も甚だしい。どこかで歯止めをかけないと、永遠に不幸になりそうな気さえする。


「そもそも、ゼクスは僕んちの詳しい位置知ってるの?」


「知ってるわよ。うちの中学の学区内で最近引っ越して来たの、流くんちだけだもの」


 ゼクスはこの辺りの地位に詳しいらしく、簡単に言ってのけた。話によれば、よく散歩に出るので近所の地理には強いらしい。僕とは大違い過ぎる。


「それにしても、なんでここいらに引っ越して来たの? この辺何もないけど」


「何もってことは……」


「じゃあこの辺の名産品とか観光地は?」


「……僕、地理苦手」


 リアルな方角の地理だけじゃなくて、教科の地理も終わってるのだ。歴史ならいいんだけど、地球儀で日本見つけるのに五分以上かかったし……『ニューヨークの首都ってどこだっけ?』とか訊いて、友達に爆笑されたことあるし……


 黒歴史を思い出して落ち込む。ゼクスはそれに気づいているのかいないのか、地理の件にはコメントせずに話を続ける。


「しょうがないわよ、この辺本気で何もないから。私だって一個も思いつかないもの」


 フォロー、なのかな? ゼクスに空気を読むとか他人を気遣うとか、そんな高度なこと出来ないと思ってたんだけど。


 かなり失礼なことを思いつつ、とりあえず最初の質問に答えることにする。この話題を続けたところで、僕に利益はない。というか赤っ恥を晒すだけだ。


「別にこの辺がどうたらってわけじゃなくて、ただ父さんの仕事の都合。なんかよくわかんないけど、プロジェクトチームの責任者らしいんだよね。本当だったら別の人がやる予定だったのに、そっちの人は産休に入っちゃったんだって」


「プロジェクトねえ。そんな大それたこと出来るような立地だったかしらここ。別に取り立てて土地が安いわけでも広いわけでもないし、何かしら有用な資源が出るって話も聞かないのに」


「知らないよ。それに知ってたとしても守秘義務発生するような話だから言わないし」


「守秘義務課せられているのにあなたが知っていたら、その時点であなたのお父さんが守秘義務違反なんじゃない?」


「あ」


 そりゃそうだ。守秘義務って家族にも適用されたはず。誰にも言うなって話なんだから、家族とは言え知っていたらまずいだろう。


「だからプロジェクト云々に突っ込もうとは思わないわよ。私に関係あるとも思えないし」


「そりゃあね」


 父さんの会社、輸出がどうたらとか言ってたはずだ。病院とは関係ないだろう。


「にしても気の毒ね。わざわざこんな微妙なところに転校する羽目になって」


「それ地元民が言う?」


「私だっていたくているんじゃないもの。勝手にこんなところに家建てて、いきなりここに住むからとか言われたんだから」


「え? じゃあゼクスも転校して来たの?」


「転校したって言っても、小学生二年生の時よ? だからもう七年前になるわね」


 人生の半分も住んでいれば、地元民と言って差し支えないだろう。それに道にも詳しいし。僕なんか、元の地元に十四年以上いたけど知らないとこ結構あったのに。……僕が情けなさ過ぎるだけで、七年も住んでりゃ普通か。


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