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三話 ニックネーム

「で、空閑くん」


 真剣な顔で何かを訊こうとしているところ悪いのだが、僕としては先に訊きたいことがあった。


「それよりも、君名前は?」


 名乗っていないし誰かに結局誰にも訊いていなかったので、未だに名前が不明なのだ。この子、とか少女、とかって呼びづらい。


 出鼻を挫かれる形になった少女は、キョトンとした表情を浮かべていた。


「言ってなかったっけ?」


「うん。こっちは訊かれたけど」


 しかも、超突然。


 少女はどうしてだか悩む素振りを見せていたが、深々と嫌そうにため息を吐いて教えてくれた。


原六(はらりく)よ。原っぱは原に、漢数字の六。『倖三(こうぞう)』と『三絵子(みえこ)』の子供だから、足して六って名前にしよう、ってことでつけられた極めて適当な名前ね。もっと他にあったでしょ花を付けて『六花(りっか)』とかいくらでも!!

 と言うか三と三足して六って名前になるなら、もし『五郎』とかそんな名前だったら、私の名前漢数字一文字でハチとかになってたってことよねあり得ないくない!? 私は犬かってのよ!! ……まあそんなわけで、この名前嫌いだから出来れば呼ばないで欲しいんだけど」


「そんなこと言われても……じゃあなんて呼べばいいの?」


 名乗ったはいいけど名前で呼ぶなって、とても困る注文だ。名前じゃなければなんて呼べばいいんだろう。ずっと二人称って呼びづらいんだけど。


「名前以外……と言うか、名前が関係なければなんでもいいわ、この際。勝手に読み仮名変えてゲンロクって呼ばれるのが、個人的にいっちばん腹立つのよ。なんか他の、カッコいい感じの呼び方にして」


 原六。字面を思い浮かべてみると、確かにゲンロクと読める。苗字と名前合わせて漢字二文字って滅多にいないだろうし、下の名前だと勘違いされるのかもしれない。だからって女子に向かってゲンロクはないけど。


 けど、名前以外って結構無茶な注文だよなぁ。しかもカッコいい感じって、指示が曖昧だし。と言うか、かっこ良ければ本当になんでもいいんだろうか。


「じゃあスタイリッシュ」


「喧嘩売ってるの?」


 だってカッコいい感じじゃん、スタイリッシュ。他のカッコいい感じって言うと……


「んーと、真田源次郎幸村?」


「長いし何でフルネームなの!? と言うかよく真ん中の名前出て来たわね!?」


 この前ゲームやってた時に、そう名乗っていたのだ。漢字がうろ覚えだけど。というか、注文多いなこの子。

 そもそも、名前関係ない呼び名で呼べってのが難易度高すぎるのだ。僕じゃなくったって困るぞ、これ。しかも、性格とか知らないから本名完全に無視すると、呼ぶこっちとしてもしっくり来ないだろうし。

 要約するとあれだろ、名前が好きじゃないから原型が無くなればいいってことだ。じゃあもう、名前から適当に捻ってつければ……


「じゃあゼクス、ってのは?」


「どこから出て来たのそれ?」


 聞き覚えのない言葉らしく、首を傾げている。そりゃそうだよな。僕だって、つい最近読んだ本がきっかけで調べたから知ってるんだし。


「ゼクスってのは、ドイツ語で六って意味。原型ないなら名前関係あってもいいかなぁ、って思ったんだけど……」


 これでダメなら、もう本人に自力で決めてもらうしかない。


「ゼクス、ゼクスかぁ……」


 何度か口の中でその単語を呟いていた少女は、うんうんと頷くとぱあっと笑顔になった。


「いいわね、ゼクス!! とっても気に入ったわ!! なんだ空閑くん、ちゃんとした呼び名も考えられるんじゃない!!」


 嬉しそうに言って笑う姿に、うっかり僕は見惚れてしまう。ずっと気難しい顔と言うか、怒った顔ばかりしていたからあれだったけど、笑うとただの可愛い女の子だ。……ただの、じゃなくて、すごく、かな。すごく、可愛い女の子だ。


 少女改めゼクスは、あだ名が気に入ったせいかだいぶテンションが高かった。


「というわけでみーくん、私はあなたに訊きたいこととか言いたいことがたくさんあるのよ!!」


「ごめんそれ僕のセリフなんだけど」


 謎の呼び方されるわそもそも呼び出される理由が不明だわで、もうツッコミどころしかない。一体この子何がしたいの? と言うかなぜ僕の名前からみーくんになった。


 どこから出て来たかわからない呼び方について訊いてみると、ケロッとした顔で答えられた。


「休み時間に調べたけど、あなたの名前って流れ星の流星でしょ? なら英語でミーティアだから、みーくん。ミッティとかのがよかった?」


「語源はわかったけど、なんで突然。普通に名字で呼んでくれれば、僕はいいんだけど」


 というかみーくんはやめて欲しい。


「だって私だけあだ名で呼ばれるって、バランス悪くない?」


「そっちが勝手に名前で呼ばれるの嫌がったんじゃん……」


 なんだろうこの子。会話するのがすごく疲れるんだけど……


 まだまともに話が始まってもいないのに、この徒労感はやばい。なんかもう、話しかけられた時点で積みみたいな、厄介な中ボスにでも遭った気分だ。根本的に遭遇を避けるルートはなかったのかな……


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