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十六話 村上さん

「あ、空閑くん」


「あれ? どうしたの村上さん」


 ゼクスと帰った、翌日の放課後。僕の席を訪ねて来たのは、村上さんだった。


「一緒に帰らない?」


 ああ、それで。そっか、付き合ってるんだから、一緒に帰ったりするもんだよね。多分。


 僕の知識も大半が二次元産なことに気付き、愕然とした。これじゃあゼクスにやいやい言う資格ないじゃないか。


「どうしたの?」


「あ、ううん。何でもない」


 こんなこと、村上さんに言ったところでしょうがない。それにゼクスと村上さん、仲悪いみたいだし。


「で、今日は一緒に帰れる?」


「ごめん。今日は部活があって……」


 幽霊部員のつもりだったのに、最近ではあの部室に行くのが楽しみなのだ。

 活動場所は図書室なのだが、この学校ライトノベルがすごく充実してる。図書室に行けば、ライトノベルを買う必要がほとんどなくなるくらいに。本当に面白くて繰り返し読みたいやつだけ買う事が出来るから、バイトも出来ないお小遣いで暮らしている中学生の身としては、すごくありがたいのだ。


 断った途端、村上さんが目に見えて肩を落としていた。


「そっかぁ。昨日は用事があるからって早く帰っちゃったから、今日こそはって思ってたのになぁ……」


「えーっと……」


 その用事ってのも本屋に行くと言うものなので、誘いを断ってる理由は全部本絡みってことになる。


 ……付き合いたての彼女よりも本のことを優先するって、傍から見れば僕ってかなりダメ男なんじゃ?


 冷静に考えればそうだ。普通逆でしょ僕。折角付き合うことになったんだし、今日くらいは一緒に帰ってもいいんじゃないか? というかいつでもいい用事だったら、どう考えても彼女を優先させるべきだよね僕。


 絵に描いたようにシューンとしてしまっている村上さんにやっぱり今日は一緒に帰ると伝えると、一気に顔をパァっと明るくさせた。


「じゃ、行こう!!」


 笑顔の村上さんに引っ張られる形で、学校を後にする。途中図書室に寄って、今日は部活に出られないと伝えてからだ。


 初めて、二人で歩く通学路。村上さんの家は僕の家よりも学校から少し遠いみたいだけど、道が一本違うだけらしい。これなら村上さんを家まで送った後でも、僕も家に着けるだろう。


「そうだ、村上さんって部活は?」


「あたしは手芸部。でもうちの部活あんまり活動してなくて、大体部長の気まぐれで決まるんだよね。あっても週一」


「そうなんだー」


「……」


「……」


 ……か、会話が途切れたぞっ!?


 どうしよう。これは想定外のパターンだ。女子ってずっと喋ってるイメージだったから、こんなに早く気まずい沈黙が訪れるだなんて、思ってもみなかった。むしろどうしたらしっかり話を聞いていると思われる相槌を打てるか、そんなことを悩んでいたくらいだったのに。


 なにこれ気まずっ!?


 前途多難にもほどがある。これがゼクスだったら、アニメの話とかずっと続けられるのに。


「む、村上さん本とか読む? ゲームとか」


「本嫌い。なんか文字がいっぱい書いてあるの見ると、眠くなるんだよね。絵とか図が付いてたらそんなことないんだけど。あんなの好き好んで読む人の気が知れないよ。特にホラーはない。わざわざ怖い思いする理由がわからないよね。ゲームはスマホのオンラインのやつか、乙女ゲーかなぁ」


「へ、へぇ」


 これどう返すのが正解なの? 僕としては、その気が知れない人間側なのでコメントしづらいんだけど。それに乙女ゲーと言われても、流石に僕はそのジャンルやったことないし……


 しかも、両親に買ってもらえたのはスマホじゃなくてガラケーだから、スマホゲーだって出来ない。うちにあるパソコンは父さんのやつだから、調べものなどの真面目な用事以外使用禁止だ。もしゲームなんてして履歴から調べられたら、本気で怒られる。


 な、何でもいい。何かこう、話題になりそうなのは……


「と、得意な科目とかは?」


「社会かな」


「そ、そうなんだー。僕苦手でさー。すごいね!」


「? あんなの教科書覚えれば出来る問題ばっかりだよ?」


「頭いいんだねぇ」


「その程度、誰でも出来るでしょ」


「……」


「……」


 また!?


 二度目の沈黙。


 どうしよう。本気で話題が思いつかない。

 村上さんと共通の話題なんて、何があるだろう。僕の趣味は読書とかそう言うオタク系だし、話してみる限り村上さんは一般人みたいだからこの話題は続きそうにない。得意な科目も訊いてみたけど、これもダメ。

 他には隣のクラスのこととか……? けど村上さん、ゼクスのこと苦手らしいからなぁ。そんなこと訊いたら膨れられそうだ。


 話題を探しているうちに、村上さんの家に到着してしまった。しまった、ではなく、やっと着いたか。あの重い沈黙に耐えるのは、かなり厳しかった。なんでもいいから喋ろうと思ったのだけど、マジで何も話題がなかったのである。


 村上さんも村上さんで、一度も話題を振って来ることはなかった。向こうも向こうで、話題が思いつかなかったんだろうなぁ……


 それでも別れ際、


「一緒に帰れて楽しかった!! また明日ね!!」

と笑顔で手を振っていた。


 うーん、あれか。一緒にいるだけで楽しいとか思ってくれてる感じなのかなぁ。だとしたら僕としてはすごく嬉しいんだけど、なんかすごく複雑だ。彼女とは言えそんなに仲良くない人と無言で歩き続けるって、精神的に来るのだ。なんか喋ってないと不安になる。


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