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十五話 黙っていればなぁ……

 ていうか、別に異世界に行かなくてもアニメっぽいことと言うか、現実では起こりえないような事が起これば何でもいいんだ……勝手に起こって欲しいのはファンタジーっぽい系統のことだけかと思っていたのに。どうやら、違っていたらしい。


 ジャンルはやたらと幅広いし、ちょいちょい元ネタ不明なものが混ざっていたが、なんかすごいことが起こればいいなと思ってることだけはビンビンに伝わって来た。とにかくこの世界が嫌で、科学で証明出来ないようなこととか、不思議なことが起こればなんだって満足なのだ。


 そう言えば、異世界がどうこう関係なく、幼馴染がいるかとかを訊かれたっけ。要するに、現実離れしていればラブコメとかでもいいってわけだ。


 ゼクスが心の底から望んでいるのは、ここじゃないもっと楽しいところへ行きたい、ということなんだろう。


 相当喋ったのにまだ喋り足りないのか、ゼクスは大いに不満そうだ。けどゼクスが満足するまで二次元の話に付き合っていたら、今日どころか世界が終わるまで永遠にかかりそうだし、ここいらで止めるしかないじゃないか。


「あ、そうだゼクス!! 訊きたいことあったんだ!!」


 どうにか話題を逸らすために苦肉の策で質問を絞り出すと、ものすっごく露骨に嫌そうな顔をされた。


「いくつ訊くのよ。もうちょっとまとめてから訊いてくれると、答える方としてはありがたいんだけど」


「な、なんかごめん……」


 さっきから、僕が質問してばかりなのは事実だ。

 だってそれ以外で、どう話題を繋いだらいいかわかんないんだもん。それにどうも女子と二人っきりの会話って慣れないから、こうして不自然な感じになっちゃうんだよね。しかも、中身はともかく見た目はとびっきりの美少女なのだからなおさらだ。


 学校から本屋に行くまでも、また歩き始めた今も、すれ違う人が大抵振り向いてゼクスのことをじっと見ているのだ。男女問わず。ゼクスの悪評が広まってるのかと思いきや、漏れ聞こえて話によれば可愛すぎて目立っているからみたいだし。


 ゼクスって、黙っていれば色々完璧なんじゃないだろうか。可愛いし勉強出来るし、運動神経も悪くはないみたいだし。ホント、黙ってさえいれば。


 質問ばかりする僕を面倒そうに見やるゼクスだったが、思っていたよりも律儀なようで、ちゃんと質問は聞いてくれた。


「で、なに。今度は毎日髪飾りが変わってる理由でも訊きたいの?」


「それ、今初めて知ったよ」


 言われてツインテールを結ぶゴムを見て見ると、根元の方にちょこんとくっつく赤いリボンが見えた。髪留めに何か飾りがついていること自体、この瞬間に気付いたほどだ。


「ゼクス、髪の量多いから髪留めの飾り小さくて埋もれてるんだよ。もっと大きいのつければいいんじゃないの? 意味ないでしょそれじゃ」


「大きくして目立っちゃうと、先生に没収されちゃうじゃないの。派手な髪飾りって、校則違反なのよ?」


「校則違反は気にするのに、校庭に魔法陣は描いちゃうんだ……」


「生徒手帳読んだことないの? そんなこと、どっこにも書いてないじゃない。『校庭に魔法陣を描くべからず』って文言、どこかにあった?」


「そりゃ学校は、そんなアホなことする生徒の存在を想定してないからね……」


 ホント、わけのわからない子である。校則だけじゃなくて、もっと他人の目を気にするべきじゃないだろうか。


 ともかく。訊きたいのはそんなことじゃない。


「僕が訊きたいのは、僕のことを病院まで運んでくれた恩人の子のことだよ。あ、病院まで運んでくれたって言うか、通報して救急車呼んでくれた子なんだけどね。多分、小学生くらいの男の子なんだけど……」


「小学生くらいの男の子なんて、私は知らないわよ」


 とても不機嫌そうに眉根を寄せて、ゼクスは僕のことを睨みつけていた。元がかわいいから視線で人が殺せるってレベルじゃないけど、呪いくらいならかけられそうな鋭さだ。


 やっぱり質問ばっかりしてしまったから、面倒になったのだろう。しかも訊いたのが、院長の娘とは言え知るのは難しいことだし。知っているとしたら救急隊員の人くらいだろうけど、訊くにはハードルが高すぎる。あと、個人情報がどうとかで教えてくれなさそうだし。


 これ以上このことを訊いても情報は得られそうにないので、その後は特別面白いわけでもない他愛のない話をした。最後の方にはなんとか機嫌を直してくれたので、普通にバイバイと手を振って別れることが出来たのは、ホントよかったと思う。


「やれやれ……」


 これで次にまた話をする時に、やたらと刺々しい態度を取られたりなんかはしないだろう。そんなゼクスの機嫌を取るなんて、考えただけでげんなりする。


 どうして僕が、ゼクスの機嫌を取る必要があるのか。別に、無理して話す必要だってないのだ。機嫌が悪ければ、話しかけるのをやめればいいだけのことである。


 そんな疑問が浮かぶことすらなく、僕はどこかホッとしながら自宅の玄関の戸を開けたのだった。


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