十四話 二次元好きすぎでしょ
「私、ときどきあるのよね。今自分が死んだら、どうなるんだろうなーって思うこと」
「それについては、僕も覚えがないわけじゃないけど……」
厨二病……とは違うか。なんていうか、ふと考えてしまう時があるのだ。もしも今自分が死んだら、その後はどうなるのだろう、みんなは悲しむんだろうか、みたいなことを考える時が。
思春期だから、かなぁ……
「あとは、無意味に死ぬ方法を探してみたり、過去にあった完全犯罪調べたり。それからトラックに轢かれたら異世界に転生やら召喚された人の話をよく読むけど、死んでても身体が同じ場合って召喚なのか転生なのかどっちなんだよって考えたりとか」
「それ、死んだらどうこう関係なく、漫画とかに対する単なるいちゃもんだよね?」
そういうのは多分、作者に訊かないとわかんないんじゃないかな……僕個人としては、肉体が地球準拠なら死んでいようがいまいが召喚だと思ってるけど。正しい基準は知らない。
「いやもうホント話聞くたびに思うんだけど、ゼクスってラノベとか漫画とか、超好きだよね」
「だって三次元よりも、よっぽど面白いじゃない」
「……否定はしないけど」
そりゃまあこの世界と違って、二次元には創造主、神様みたいな人が絶対にいるのだから、こんな自由度0みたいな世界よりかは面白いだろう。だって、どんなことであろうと、なんでも簡単に出来るし。
ただこの話題で、ちょっと気になっていたことがあったのを思い出した。
「そう言えばさ。最初見た時からずっと思ってたんだけど、そのツインテールって邪魔じゃないの?」
「邪魔ね。とてつもなく」
「じゃあ切るか、髪型変えなよ……」
そこまでして貫く髪型なのこれ? そんなに気に入ってるなら、僕としては何も言う気ないけど……
呆れる僕に、更にゼクスが言い募る。
「だって、二次元っぽいじゃないこの髪型」
「あー……」
なんかもう、すごく強引に納得させられてしまう。ゼクスじゃそんな理由で髪伸ばすし、そんな髪型にするよね。邪魔がどうとかじゃなくて、見た目の方を重視するよね。
ため息を吐きたくなる僕に向かって、ゼクスはツインテールの片方を指でくるくるもてあそびながら言った。
「本当はいっそバッサリ、ショートカットにしようかなーって思った時もあったんだけど。ほら、ツインテールってすっごく便利じゃない?」
「いや僕、便利とか不便で髪型決めたことないんだけど?」
髪型決める時の基準って、絶対にもっと大事なものがあるでしょ。見た目とか、手入れのしやすさとか。
「えー、髪型決める時って、けっこう便利さは大事じゃない?」
「なんで。と言うか、ツインテールのどこら辺が便利なのさ?」
「そうね、例えば……いざって時に編んで縄にしたり、薪代わりにも使えるし。短いと髪の毛を掴まれたら終わるけど、長ければトカゲのしっぽみたいに切って逃げられるじゃない? そう考えるとすごく便利でしょ」
「ツインテールをリアルにしっぽ扱いする子、初めて見たよ……」
というか、どんな想定だよそれ。そんな『いざ』、一生来ないし僕としては来て欲しくすらないよ。絶対ピンチだもん。
どう見ても本気で言っているのがゼクスのすごいところだ。冗談以外でこんな解答出来る子なんて、世界中探してもこの子以外にいないんじゃないだろうか。
呆れる、感心、を更に通り越しもはや尊敬の念すら湧いて来る。この子がもし本当に異世界に召喚されたりしたら、この世界の知識を駆使して無双するタイプだ。俺TUEEEEって奴だ。
けどそんなことは天地がひっくり返りでもしない限りあり得ないので、宝の持ち腐れである。
「ついでに訊くけど、他に異世界行くための努力とかしてるの?」
ついつい興味本位でそんなことを訊いてしまってから、後悔した。露骨に目を輝かせたゼクスが、ずいっとこちらに身を乗り出して来たのだ。
「してるに決まってるじゃない!! 足音と気配を殺すスキルは修得済みだし、声マネだって出来るわよ!! ついでに言えば爆弾やちょっとした銃なら作れるし、ピッキングだってお茶の子さいさいよ!! マヨネーズの作り方だって完全に暗記済み、つまり異世界で無双するのだって簡単!! あーあと、二次元っぽいことをよく探しにいくわ!! 春休みに吸血鬼を探したりゴールデンウィークに猫を探したり、後は長期の休みの度に色々行くわね!! 北海道行ってファミレス巡ってみたり、池袋行って首なしライダーとか自販機飛んでないか探したり、後は月が蒸発したりしないか天体望遠鏡で一晩中眺めていたこともあったわ!! コミケついでにアキバにも行ったけど、やっぱり何も起こらなかったのよねぇ。その前の渋谷も、後の種子島もダメだったし。今年は吉祥寺に行く予定なの。あ、去年の夏休みはイギリスのキングスクロス駅にも行ったわよ!! 入口見つからなかったけどね。それから――」
「ごめんもういいお腹いっぱい!!」
放っておくと延々話し続けそうだったので、話を打ち切らせてもらった。




