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回復サブの失敗 その1

以降、勇者様目線で進みます。

何故俺なのか分からないが勇者というものに選ばれてしまった。神託なので政治的な決定ではないし、だからこそ断ることはできない。そもそも第五王子なんていいような捨て駒、もしくはただの穀潰しに産まれた俺に今までだって拒否権などなかった。

王太子の・・・今や国王の次に政治の実権を握る2番目の兄の部屋を訪ねる。許しを得て入った部屋には年の離れた第二王子が窓の外を見ていた。

「明日、お前は行くのだな」

「はい。この身が役に立つのであればこれ程嬉しい事はございません。兄上に育てていただいた御恩、忘れません」

「そうか、お前が立派な男に育ってくれて私も鼻が高い。励むのだぞ」

権力争いに巻き込まれた俺の母が死んでから、この兄が俺を育てた。多少、大きくなったら兄について仕事をするようになった。兄の名代になれれば兄の仕事がはかどり、そのぶん権力が強くなった。また、兄を守る為に剣技や魔法を習った。俺は兄上の刃で、盾で、母方の権力を取り込むための鎖だった。使える穀潰し。それ以外の何があるっていうんだ。

ただ、耳を済ますと兄上の心が聴こえる。

『すまない弟よ。私はお前を守ってやれない情けない兄だったな。ずっと祈っているから・・どうか無事に帰ってきておくれ』

勇者の業なのか俺は人の心を聴くことができた。口ではどんなに優しくとも、心は吐き気がするほど憎悪にまみれた人もいる。とくに王城などヒトの形をした道魍魎の住処だ。けれど、兄上は俺を慈しんでくれた。愛してくれていたーーーーーーでも俺はそんな兄上が、恵まれた場所から俺を憐れんでいる気がして。・・ずっと、ずっと憎かった。



約束の地。神のお告げを受け、世界各地から集められた勇者パーティーが集った。

勇者の私が1番最初に挨拶をする事になった。

「初めまして、フリートと申します。勇者として選ばれましたがまだ未熟者です。どうか皆さんのお力をお貸しください」

そこからは我先にと私に挨拶しようとパーティーの面々が殺到する。

「まぁ、勇者様!お初にお目にかかります。私はーーー」

『あらまぁ、化物の様にお強いというからむさ苦しい男かと思ったら。いいわ気に入りました!私のにして差し上げますわ』

女性陣はこんな感じで、俺を最初から高物件の手に入れるべき男として扱った。客観的に見ればそうなのだろう。これで世界を救ったら、俺の価値は跳ね上がるのだから。どの国だって、どの団体だって手に入れれたいだろう。

「勇者様、俺は平民ですが世界を救うため尽力する事をここに誓います!」

『おー。王子様だって?ハッ、こんな薄汚ぇ俺なんかが一緒で悪かったな。ま、勇者様の邪魔しないように精々頑張るからよ』

男性陣は俺にやっかみ気味だった。俺の王族という立場が恵まれているように見えるのだろう。兄上が居なければ奴隷の様に扱われていたかもしれないなどしらないのだから。けれど、それを言ったところで彼らには素直に理解はできない。憐れまれて自分を卑下したのだと思われるだけだろう。俺が彼らの立場ならそう思う。

嵐のような挨拶合戦が少し面倒だと思った頃、やっと全員終わったらしい。

いや、1人だけ残っていた。1番後ろに並んでいた人物は急いだ様子もなく私の前に出る。二十代中ほどの女性。彼女は毒々しい淡い紫の髪を顎で切り揃え、男の様に背が高く、体は他の女性陣に比べすらりとしている。チョコレートの様な茶色い肌、少し尖った耳が彼女が他の種族との混じり者であると示していた。人間以外の他の種族が全て魔王の配下というわけではないが、他種族を受け入れる人の国は半分ほどだ。帝国の王女など明らさまに嫌そうな顔をしている。逆に言えば種族意識の高い他種族はヒト以上に混血種を嫌う。だから理解ある国ならともかく、混血児といえば荒くれ供の代名詞でもあった。それでも誰も警戒しないのは彼女が神官服を着ているからだ。神官になれるのは神に認められた清く慈愛に満ちた者だけなのだから。彼女が神に認められ、ここに居るのは明らかだった。

彼女は細い目を糸の様に細くし、人好きのする明るい笑顔で礼をとる。

「教会より参りましたエルデリーテと申します。よろしくお願いしますね」

完璧な神官の所作である。

しかし、俺には聴こえていた。

『あーマジ救世の旅とか面倒くせぇ。エルたん帰って昼寝したいですぅー』


・・・・・神の存在を本気で疑った。いや、あの神託は本物だった・・・神は居る、はず・・・・・だと思う。

先ほどまでの有象無象な挨拶合戦など吹き飛ぶほどの衝撃だった。俺は思ったのだ。

ーーーおそらく彼女が一番面倒くさいーーー




【失敗その1】初対面が地味に衝撃的

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