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奇跡の代償  作者: ぽむぼん
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0、プロローグ

初めまして。ぽむぼんと申します。

拙い文章ではございますが、精一杯頑張らせていただきますのでどうかよろしくお願い致します。


週に一度の更新予定となっております。

/1


朝日の眩しさで意識が戻る。

爽やかな朝だ。汗もかいてないし、手に感触がある布団はふかふかだ。

何せ昨日は乾したばかりの布団を使ったのだ。真新しいわけじゃないけれど、お日様にあてた布団はなんだか新品のようで嬉しかった。


夢を見た記憶はないけれど、人は覚えていなくても夢を見るらしい。お父さんがそんな事を言っていた。気分が悪くない事を考えると、悪夢じゃなかったみたいだ。きっと良い夢だったのだろう。覚えていない事に少しだけ、ガッカリする。覚えていても、すぐに忘れてしまうから夢というのは勿体無い。


チュンチュンと、小鳥の囀りが聞こえる。


“さぁ、朝だ。寝坊してしまっては仕事が出来ないぞ。”


朝の来訪を告げるのが彼ら、もしかすると彼女らかもしれないが、とにかく彼らの仕事だ。

何処へ羽ばたいていくのだろう。風と共に生きる彼らは、僕達が決してたどり着けない高みを見ている。

この世界を見下ろして、何処へだって行く。

でも、羨ましくはない。何処へだって行けるが、鳥は一つの場所で生活する事はできないから。

僕はこの村が好きだし、この村から出るつもりもない。


目がまだ開かなくて、何度も瞬きをする。“しょぼしょぼする”、というのだろうか。

そういう時はあくびをして目に涙を溜める。すると、目の“しょぼしょぼ”は瞬く間に消えてしまう。


もう少しだけ布団の感触を楽しんだら、ゆっくりと体を起こして、同じ部屋で寝ている妹に声をかけよう。


妹は僕よりも寝ぼすけだ。まだ七歳だし、仕方が無い事だけれど。でも、もう八時なのだから起きないといけない。

僕だって、父さんだって。お爺さんだって七つの頃には起きて、農作業を手伝った。

お爺さんは僕が生まれた頃にはもう死んでしまっていたから会った事はないけれど、そうだったらしい。


妹は農作業を手伝うわけじゃない。だって、女の子なんだから。力仕事は僕達男の仕事。

女の子はお母さんのお手伝いをする。お母さんだってもう起きて僕達のご飯を作ってくれているはずだ。


僕が起きる頃には、いつもお母さんお手製のスープの臭いが漂ってくる。

ここ最近は、毎日夜まで農作業をしているからいつもお腹が空いている僕だ。実は、朝日で目が覚めたのか、お腹の空き具合で目が覚めたのか分からない。

ほら、働くとお腹が空くから。力仕事をする前に力を蓄えておかないと。僕は自分にそう言い訳をする。


その日はどんなスープなのか、当てるのが僕の密かな楽しみだ。


『おはよう。今日はジャガイモのスープだね?』


『あら、おはよう。でも残念、惜しいわ。ジャガイモと、トウモロコシのスープよ』


昨日は当てられなかった。半分だけ当てれたけれど、もう半分は当てられなかった。

今日は当てたい。より深く息を吐き出して、静かに鼻から臭いを取り入れる。


クンクン、ではない。スーーーーー・・・・・・という、鼻だけでなく体全体で正解を見つけてやるつもりだ。


“おかしいな。何の臭いもしない”


もしかしたら、お母さんはまだ寝ているんだろうか。昨日は遅くまで起きていたのかもしれない。

なら、今日は僕がスープを作ってお母さんに当ててもらう、そういうクイズにしようかな。


うん。それがいい!

僕はお母さんが驚く姿を頭に思いながら、ニヤニヤと笑う。


ゆっくりと体を起こすつもりだったけど、こうなったら早く起きよう。いてもたってもいられない!

僕は急いで体を起こし、目を擦りながら妹に声をかける。


「フローレ、起きろ!もう朝だ!小鳥が鳴いたのを聞いてないの・・・・・・」


隣のベッドには僕の妹、フローレの姿が無かった。


「フローレ?もしかして僕より早く起きたのか?」


驚きだ。まさか、妹が僕より早く起きるなんて。念の為、フローレがベッドの下に転がっていないかを確かめる。

前は一緒のベッドで寝ていたのだけれど、別々のベッドで寝るようになったのには理由がある。

朝起きる度に僕の顔に痣をつけるのだ。寝相が悪く、一度だって真っ直ぐに寝ていた事がない。もっと小さかった時だって、いつのまにか上下逆さまに寝ていた。枕をお尻に敷いて寝ている事だってあった。


「いないな・・・・・・本当に僕より早く起きたのか」


お兄ちゃんとしてはちょっと悲しかった。妹が自分で起きられるようになったのは嬉しかったけれど、僕を起こしてくれればよかったのに。僕はフローレを起こさなかった事なんて一度も無い。

でも、祝福してあげよう。初めて僕より早く起きられたのだから。


寝巻きのまま扉のノブに手をかける。


『おはよう。でも、着替えてきなさい』


きっと、お母さんから叱られるだろう。でも、僕は叱られてでもいいから一番先に妹を褒めてやりたい気持ちがあった。

妹にとって、初めて僕より先に起きたって事はきっと、初めて兄に勝ったという事なんだから。なら、服を着替えるのは叱られた後でいい。褒めるのが、一番だ。


もしかしたら、妹が早く起きたからお母さんは妹を褒めていてスープを作っていないのかもしれない。

となると、僕が一番の寝ぼすけか。


苦笑いを浮かべてノブを回す。


ガチャ、


小気味良い音と共に扉が開かれる。


目の前には満面の笑みを浮かべた妹がいるだろう。それを見て微笑んでいるお父さんとお母さんがいる。

そして、僕は叱られて部屋に戻り、服を着替えて朝食を食べる。その後は昨日と同じように、畑へ行って農作業をする。今日はちょっとした出来事があったけど、いつもと変わらない、何でもない幸せな一日になるだろう、きっと。







この日、僕――イライオ・シュガーバインという一人の男は死んだ。

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