僕とへたれとある夏の日
この世界には『スライム』という未知の生き物がいる。
ぷにぷにと弾力があり、色も青やオレンジ、黄、黒など様々な色素を持っている摩訶不思議な生き物だ。
このスライムなるものを愛好するスライムマニアというものが巷では流行っている。
そしてこの僕もまた、そんなスライムマニアの一人なのだ。
近くの森でどういうことか衰弱していた『スライム』を拾ってきて、「へたれ」というこれ以上ないくらい素晴らしい名前を付けて同居を始めたのがつい数か月前のことだ。簡略な経緯だがぶっちゃけそのままなのである。
そしてへたれが我が家に来て以来、あんなことやそんなことで毎日がすこぶる充実していた。
しかし今、これまでにない出来事への対処に悩んでいる。
「ふむ。どうしたものかな?」
思わず腕を組んで溜息一つ。
目の前でへたれが溶けてしまっている。文字通り、どろどろの粘っこい液状になっている。
この連日の猛暑の中、窓を閉め切っていて冷房もろくにないこの部屋の室温がとんでもないことになっているのはわかっていた。わかっていたが、まさかへたれが溶けるとは思いもよらなかった。たった半日様子を見なかっただけなのに。
ためしにつんつん突いてみたが反応がない。もしかして死んだ? と思ったが、よーく見てみるとかすかにぴくぴくしているのがわかった。
・・・一応生きているのか。
とりあえず安堵はしたが、それにしてもスライムが溶けるとは。これはおそらく新発見であるが、この後どうしようか。へたれは床で溶け広がってしまっているため、うまくまとめることができない。手ですくい上げてみると粘ついたうえに生温かかった。ねちょっとするこの感覚は独特すぎる。
だがしかし、これもまたへたれの魅力。色々と試してみたいことがたくさんある。
なんとかトレイに乗せることができたので、とりあえず冷凍庫で冷やしてみることにした。固まれば元に戻るかもしれないのでとりあえず冷凍庫だ。
☆ ☆ 数時間後 ☆ ☆
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」
なんか叫び声が聞こえた。
「うるさいぞ兄貴。昼間から大声をださないでくれたまえ」
絶叫を上げたのは僕の兄貴だった。まぁこの家には僕と兄貴とへたれしか住んでいないから他に誰もいないわけだが。
「何なんだこれは!!」
そういって指さす先にあるのはいびつな形で凍り付いている未知の物体、と思いきや冷凍されたへたれだった。
カチンコチンに固まっているその姿は、トレイの上でいびつなオブジェクトのように、言葉で表現するにはあまりにも奇怪すぎていた。
「何かと問われれば、間違いなくへたれだ」
「これスライムかよ! なんで冷凍庫に入っているんだ!?」
「溶けたからだ。兄貴よ、僕の愛しいへたれを溶けたままにするなんて許されることではないだろう」
「スライムって溶けるのか!? じゃなくて冷凍庫に入れるな! ガッチガチに凍ってるだろうが!」
むぅ。確かに冷凍庫はまずかったかもしれない。じわじわと冷たくしたほうがへたれのためになっただろう。
「次からは冷蔵庫にする」
「そういう問題じゃない!」
怒鳴られっぱなしだ。不本意だ。
このまま兄貴の相手をしていても仕方がないのでへたれの乗ったトレイを冷凍庫から取り出し、机の上に置いてみた。やはりオーブンで温めるよりは自然解凍のほうがいいだろう。この暑さだ。きっとすぐ溶ける。
兄貴はまだ何か言いたそうだったが、「もういい、寝る」と言って長い溜息とともに自室へと戻っていった。冷凍庫に何かを求めていたのにいいのだろうか。
そこでふと思いついた。思いついたので実行してみることにした。
うぅ、と暑さにうなされながら寝ている兄貴は、やはり汗だくだった。予想通り冷凍庫には氷を求めていたようだ。
優しい僕はまだ全く解けていないへたれを兄貴の額に乗せてみた。ひんやりして気持ちがいいだろう。
うんうん、と僕は満足して自室へと戻った。明日の朝には兄貴から感謝されるに違いない。
たまには兄貴の機嫌を取るのも悪くはないと思い、僕も就寝することにした。
翌朝、なぜか僕は兄貴からしこたま怒られた。兄貴の顔は溶けたへたれでぐっちょぐちょになっていた。
おかしい、不本意だ。
短いですが、いかがでしたでしょうか?
初投稿なので、いろいろアドバイスいただければ幸いです!




