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中節 更衣室

 更衣室は普通と変わらない。

 いくつものロッカールームが空間を占領してる部屋だ。

 隣り合わせの二つのロッカーを使用しながら竜輝と愛華は着替えをしていた。

 愛華の衣服を脱ぐ音をすぐ隣で聞きながら自分も気恥しげにうまく衣服を脱ぐ。

 上着だけはつながれた状態ではどうにもできないので重ね着する。

愛華のかわいらしいピンクのレース下着が見え、瞬時に目線をそらす。

(こいつ、俺と着替えて何とも思ってないのか?)

平然とした表情で彼女は下着姿になってスカートを着用する姿が目に焼きついていく。

 竜輝の目には毒である。

 理性をたも立たせるのに必死であった。フィリアスの生活が長いとはいえ男女の関係性や性知識も十分にもってる竜輝である。それなりの恥じらいはあった。

「ん? 竜輝くんは着替え終わったなの?」

「ああ、この服でいいんだよな?」

 着替え途中の彼女の姿を気恥しげに直視できず目線だけそっとはずしながらうわごとのように尋ねた。

 竜輝の服装はシンプルなカジュアルスタイルな服装だった。

 焦げ茶色のチノパンに病衣のような衣服の上に重ね着したパーカー。

「うん、上出来なの」

 何が上出来かさっぱりわからない彼女の返答。竜輝はまあOKなんだなという自分なりの解釈で認識して彼女の着替えを待つ。

 そうしたときに更衣室の扉が開かれる。

「え」

 竜輝は硬直した。

 入ってきたのは柚葉雪と義姉の運勢美香であった。

「りゅうちゃん?」

「な、なにしてんのよ!」

 二人の動揺に対して愛華は何食わぬ顔できょとんとしながら「何怒鳴ってんの?」と受け答えをした。

 さすがにこれには二人も驚いたようにして竜輝と愛華を交互に見比べるようにしてなにかの自分なりの判断をしようと模索している様子である。

「愛華ちゃん、いくら幼馴染でも二人でお着替えは年齢的にもまずいですよ」

 愛華は美香にそういわれたことでやっと自分の認識の甘さに納得いったように赤面し始めた。

(遅すぎるぞその恥じらい!)

 竜輝は心底どっと疲れがおし寄せた。

「竜輝くんごめん、どうにも久しぶりに会ったから昔のような感覚になってしまったの。もうお互いそれなりの年齢なのに‥‥私ぃ‥‥」

「わかってくれたんならいいからささっさと服を着てくれねえとはずい」

 彼女はスットキングを脱いだままの状態でいてスカートが若干だらしなく目くれてることにより下着も未だに見えていた。

 まさに卑猥な恰好。

「きゃぁあああ!」

 今になってその悲鳴もどうかと思う。

 でも、そう感じられた直後に体が強引に下に引っ張られた。

 それも彼女が下半身を隠すようにしゃがみこんだからだ。つながれた状態であるための衝撃の動作である。

 おもわぬ動作に耐え切れず転倒してしまった。

 それが災いを呼び込む。つながれたことによる転倒はつながれた相手も巻き込むことにもなり、竜輝はそのまま愛華のほうに倒れた。

 愛華も竜輝のその転倒に気づかない。

 衝撃音が響く。

「んっ‥‥」

 竜輝の視界は暗転していた。

 ここはどこだろうと手をまさぐって明かりを探す。

 ふと、マシュマロのような柔らかい感触を手に感じてもみしだく。

 さらに先ほどから呼吸がやけに苦しいので顔を突き出すと――

「あぁん!」

 悩ましげな愛華の声が聞こえて何事かと思った時だった。

「なにやってんのよ変態!」

 ぐいっと首元を引っ張られ視界に光が戻った。

 頭を何者かにつかまれて急激な痛みが襲う。

「あだだだだだだ」

「ちょっと、雪おちついてください! 今のは事故なんですから」

「事故とはいえこいつ愛華ちゃんの体を!」

「へ?」

 目線を前に向けると顔をうつむかせ耳元を真っ赤に下腹部を抑え恥じらう愛華の純情な乙女の姿がそこにはあった。

 すぐに自分の行った状態を察した。

 さきほど触ってしまったのは愛華の大腿部だった。

「ごめん、愛華。おれそんなつもりじゃ――」

 すぐ近くにある愛華の顔。

 愛華が照れながらすっと手錠に手を伸ばしかちゃりと解除する音が響く。

 そう、手錠は外された。

 そのまま愛華は逃げるように更衣室から飛び出して行った。

「あ、愛華!」

 そう、後を追いかけようとしたが首根っこを柚葉につかまれる。

「変態! なに追いかけようとしてんの! あんたはここで私たちが着替えるまでまつ!」

 そういわれつつあるものを渡された。

 眼隠しと耳腺である。

「それをつけながらここにいなさいよ!逃げたら容赦しないんだから! 逃げでもしたら変態の汚名を世界中に流してやるわよ」

「りゅうちゃん、おとなしく待っててください」

 柚葉は怒り心頭に対して義姉たる美香は苦笑いで申し訳なさげにはにかみつつそう言葉を投げかけた。

 竜輝は苦渋の表情をしながらそのまま耳腺と眼隠しを行い大仰にため息をついた。

 彼女ならやりかねないという思いとともに。

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