逆転戦争
この世界――フィリアスの空には月が二つ浮かぶ。
魔法を主軸とし、いろんな世界との連結がある世界だからこそいろんな種族の住人がすむこの世界。
そういうこともあっるためか月は二つ浮かんでいる。
空はもう青暗くなりつつあり住宅街もしんと静まり始めていた。
その住宅街の大きな一軒の宿の屋根には総勢数十人規模の軍団が二人の男女を取り囲んでいる。
薄暗い空気がより鮮明に魔力の波動を上昇させる。
それはこの世界の住人のどういつ体系。
空気はより夜に近付くほどに月の魔力を受け騎士たちの魔力も上昇していた。
なにより、この場に登場した者たちの魔力はより威圧感が半端なく現れ、目立つ。二人、竜輝とユズハにも彼らの登場は冷汗をうかべ死を感じるほど。
「いつかは裏切るんじゃねえかと思ったぞ。リュウキ」
現在、中年エルフ――メスイ・メロウは王族直下の騎士の証たる腕章を腕もとにつけている。
長い金髪をくゆらせながら鋭いたかのような眼光を細めリュウキを眼力で威圧し殺さんばかりににらんだ。
メスイはこの世界の有数国家の王族直下の貴族である出生のもの。
現在はこのリュウキたちがいる住宅街も含めた土地を所有する国家、『アバランイト』という商業が盛んな土地国家の王族直下の騎士として所属していた。
それも団長である。
もともとはメスイは所属は侯爵であったが数年前の事件を機に騎士へと変わっていた。
傍らに立つゴウはその彼の息子である。彼の母親は数年前つまりはメスイが騎士になる原因ともなった理由で死んでいた。
そして、竜輝の師匠たる狼人間、ウェアウルフ族、俊敏性に優れた体力自慢の一族の男は竜輝の技の師匠であるイグサ・ムストルフ。
彼は王族の護衛騎士団総団長である。
そのためか、竜輝は王族のもつひとつの屋敷で居座っていた。
今日だっていつものような感じで生傷絶えない体を引きずってその大きな屋敷から出てきたはずであった。
けど、今の状況はその3人を敵に回す立場となっていた。
それもそうだった。
人間であるこの世界でつかまっていた彼女を先ほど守ってしまったのだ。
竜輝にはいずれ彼ら3人が動くだろうことは理解していてもよかったが記憶の奥底からその最悪の状況を考えたくなく消去していた。
「なあ、リュウキ。おまえはやはり人間の味方をするのか?」
師匠たるイグサのきつい視線が突き刺さる。
一瞬でも動けばイグサは瞬時に竜輝ののど元を食いちぎるだろうことは想像できた。
硬直してしまう。うまい具合に動くことはできない。
背後にいる、昨日の大会で初顔を合わせたばかりの彼女たるユズリハ。
彼女もイグサの存在がかなり危険だと十分に認識した表情がうかがえた。
冷汗をだらだらと垂れ流して奥歯を食いしばって悔しそうだった。
「まあ、それならいいさ。だが、それがどういう意味かわかるな? オレらはずっとお前を育ててきた。その主人に向かってお前ははむかうんだ。これは奴隷として死に反する。覚悟はいいな?」
「俺は‥‥」
「なんか、弁解があるのか? なら、聞くぞ。てめえがそいつの仲間じゃないというなら今すぐ渡せ。そうすりゃあ命は助ける」
イグサのその言葉は竜輝の心を揺さぶった。
けれど、どうしても竜輝はそうはできない。
彼女には聞きたいことが山のようにある。
自分を助けに来たといった彼女の言葉。そして、それがどういうことなのか。
なぜ、今になってか。
それ以前にこの状況は竜輝にとってある目的を成功させる切り札にでもなりうるのではないかという思惑もあった。
「おいおい、みりゃあ、わかんだろイグサ。騎士を二人殺してんだ! こいつは結局人間側だぜ。やっぱし、こいつは殺すべきだ。俺の妻はこいつのせいで‥‥」
「メスイ、落ち着け。まだわからん。判断を速めるな」
「おまえは昔からこの人間に甘いんだ! いいかげん、こいつを殺しちまわねえと手遅れになんぞ! 案の定人間側の兵士が一人送られてきてんだぞ!」
「むぅ‥‥」
竜輝にはまったくもって意味不明な会話が二人の中で交わされた。
竜輝と彼女のつながりを示す用途であろうことはなんとなく推察できた。
それによって彼らはまずい状況であろうことも。
「王子もきっと望んでるはずだぜ! あの人間の世界を侵略する作戦がはじまったときからだ!」
「わかっている。だが、ここで彼らを抹殺すればこの世界にいる共存同盟勢力が何かをし出かすやもしれん」
「何をだ! だったらもう仕掛けてるだろう! いいからやろう」
メスイとイグサの口論が長いこと続く。
それに痺れを切らした存在がいち早く竜輝たちに向って剣を構え斬りかかりにきた。
ゴウである。
「お母さまの仇っす!」
ひと振りのロングブレードが豪快にユズリハへ振り下ろされる。
だが、竜輝が間に入っていた。
「っ!」
「彼女に手を出させない。吹き飛べ」
右手に作った風の砲弾を至近距離でゴウの腹に着弾させた。
ゴウは宙を舞い数十メートル先に落下した。
まさに即死である勢いだった。
「ゴウ! 息子までお前ら人間はぁあああああああああ!」
メスイが血走った眼で剣を神々しく光らせる。
魔力を浸透させた、増加の魔法。
武器の精度を格段に上げる魔法である。
「ハッ!」
上段に振り下ろすと風圧による斬撃が猛吹雪のように襲いかかった。
屋根の瓦を吹き飛ばしあらゆる塵を巻き込んだ風撃の斬が二人を襲う。
「聖なる加護を持って光よ守りたまえ!」
ユズハが魔法の詠唱のようなものを叫ぶと一筋の光が天空から舞い降りて二人の周りを円形のドームのようなものが覆う。
まるで二人を守るようにした物体ドーム。
「防壁かっ!」
メスイはそうと見るや接近して近接打撃を連続で仕掛ける。
剣と体にはやはり魔力効果が上乗せ済み。
激しくドームが振動しヒビがクモの巣状態に走る。
「まずい! 聖なる光よ弾けろリフレクトブレイク!」
ドームが激しく爆発するが二人には爆風は来なかった。
これは相手の攻撃の威力を防壁に蓄積した分を爆撃として返すカウンターの魔法である。
爆撃によって吹き飛ばされたメスイは地上へ落下していった。
残りの騎士団はおびえ切った表情で後退していく。
形勢逆転だ。
「でも、高難易度の魔法をなんで‥‥」
竜輝が思ったのは相手の騎士団体も思っていたようだった。
そう、人間は本来魔法を使えないはずである。
それは竜輝が知る2017年までの記憶の中での人間は。
「やはり、あちらの世界へいった共存を望むオレらの世界「フィルム」の住人が人間に魔法を教え始めてるのか」
悟ったような口ぶりでイグサが語りだした言葉にユズハはほくそ笑んだ。
「ええ、そうよ。でも、私の魔法は独学。母から教わったものよ」
「なに?」
「おしゃべりはここまで」
次の瞬間、ユズハは接近する。
イグサの懐へうまく入り込み剣を振りかざす――
「まだやられてねえんだ!」
しかし、頭上から落下したはずのメスイが飛びけりをかましユズリハを取り押さえた。
「へへっ、手こずらせやがって」
額からは血がよどみなくあふれこぼれおちている。
そろそろ出血多量で死んでもおかしくない。
「あなた生きてたなんて‥‥」
「あんなんで、やられてたまっかてんだ。もうわかっただろう! イグサ。あの小僧も殺せ!」
イグサは目を伏せてから顔をあげ、右手に握った剣をもって近づいてくる。
「さぁて、女。お前も死にな」
「くっ‥‥ここまで‥‥」
竜輝はずっと、あっけにとられ傍観していたかったがそうもいかなくなった状況。
次第に腕がしびれ出す。
いや、無意識化で魔法を放出しているのであった。
昔に記憶が鮮明に蘇る。
目の前で姉と幼馴染を殺された記憶。
幼馴染はエルフにとらわれ殺された。
もう――
(あんな思いはごめんだ!)
復讐の時は――
「今」
「え」
イグサは目の前の光景に目を疑った。
数秒前までそこにいたはずの彼がおらずなぜか、自分の視界がしだいにずれ始める。
背後ではメスイの叫びが聞こえた。
「イグサ、あんたには感謝してる。でも、あんたもおれの仇なんだ。悪く思うな」
「ばか‥‥な‥‥いつ‥‥ここまで‥‥つよ‥‥く」
数秒前までの竜輝とは別段に違い、まるで別人のような威力によってイグサの首は切られ死んでいった。
そう、このフィリアスという世界で数十年も生きた竜輝もまたフィリアスの体質変化になり変っていた。その結果、竜輝もまたこの闇と月の影響を受け威力が上がっている魔力。
「おまえええええ!」
メスイが行く前に次々と騎士が向うもリュウキが放つ風や火の列風に煽られ吹き飛ばされていく。
そして――
「最後はお前だ」
「ぐっ」
メスイはユズハをひったたせ竜輝と間合いを取っていく。
「こっちには人質がいるんだ。そうやすやすとお前も手が出せねえはずだ」
「‥‥」
「それにもうじき王も気づく。いや、もうご到着みたいだな」
遠方をみつめるメスイにつられ竜輝も見た。
南の方角に屋根の上を飛んでくる数十の軍団を連れた戦闘の人物。
日焼けした肌のように黒い肌をもったしなやかな体とすずしげな容姿を持ついわゆるビジュアル風イケメンな感じの白いマントと黒の甲冑を置きこんだトナカイのようなツノを生やした男がこちらへ向かっていた。
「王子はお前は絶対殺すぞ。いずれ――」
その時だった。
王子軍のほうが爆発を起こした。
「え」
メスイは間を疑ったように口をあんぐりと開けて混乱し始めた。
「い、いったい何が起こった!」
「援軍はそっちがけじゃないのよ」
ユズリハのセリフの意図が次の瞬間判明した上空に突如として現れた大きな気球型の戦闘艦隊。
空中戦闘艦である。
全体図としてはホワイトベースにちかい造形をしている。
「こちらは共存同盟国家だ。ただちに彼女らを解放し撤退せよ。撤退せよ」
空中戦闘艦からのアナウンスによって住民たちも家の窓から顔を出して空をうかがい恐怖に顔をひきつらせる。
「さあ、私を解放しないとあなたは死ぬわよ」
まさに本当の本当に形勢逆転らしかった。




