初の魔道実技講習
午前授業は1年合同の魔道実技演習。
竜輝はその授業場所となる魔道実技演習場なる、東京ドーム2個分はあろうかという広大な土地の中心で1年生全員を前に講義の前振り用のプリントを学生一人一人に手渡していた。
この広大な土地も魔法を使用しここまで高度なほどに広くしてるという。魔法を使う場所は魔法で建築する。まさに、フィリアス環境ならではの仕様を考えている。
「えー、プリントが行きわたったかな?」
フィリアス人も人間も混じるこの施設。竜輝の初授業はこの1年たちをあいてに各種族の学生たちにうまく物事を教えられるかということ。
今まで竜輝が培ってきた知識を出せばいいだけだが人に教えるという行為はやったことはない。
この授業が始まる前提で昨日のうちに軽く書籍は読んではいた。
「はい、教官。全員配布完了しました」
「こちらもです」
各自1年クラスの委員長から応答が上がり、竜輝はよしっとうなづくと生徒面々を立ち上がらせた。
「まず、俺はまだ新任で君たちがどの程度魔法というものに関して適応ができているのかわからない。だから、魔力の浸透を行って見せてくれ。それができないものはおれに言ってくれればいい。教えてやるっすから」
生徒たちは高等部1年時であり、この施設は初等部もあるのでそこから繰り上がり後頭部になった学生が過半数を占めていると聞く。
なので、高等部の女子たちは基本的に全員が基礎的な魔力を放出することはできると九条責任者からの渡されたデータ資料で確認済み。
前方でいろんな色の魔力が虹のように空へ向かい方向腺を作っていく。
実にきれいなラインだ。
「ん?」
その中ではやはり、うまくできていない生徒も少々あった。
1学年児の人数は合わせて125人程度。そのうちの確認できるのでも20人弱の子が魔力の放出がいまだに不慣れな様子。
「よし、やめていいよ。まず、その放出ができる子から足元に転がっている石があるだろう。それを手にとって魔力を流し込み動作を起こして見せろ。熱であぶるのでもいい。水でぬらすのでもいい。砕いて見せてもいい。動作ができたら教官のところまで見せに来てくれ。教官は今から各自生徒の周りを見ていく」
特に人間の生徒たちは訝しみながら小首をかしげてとにかく石を拾い始める。
フィリアス人の生徒は魔法によって余裕綽々とした感じだ。
馬鹿にしてんのとでも言いたげ。
「さてと」
生徒に気づかれないように先ほど方向腺が見えていない位置まで歩き、魔力放出をできていない生徒に当たることにする。
この世界で魔力を扱えないことはもう厳しい時代だと聞く。
そういう子には何でもちゃんとした政府が配布する疑似魔力電動装置なる腕輪型の端末機を渡されるらしい。
この施設では生徒にはその装置は着用不可にしていることで全員持ってはいない。
今この授業においてもだ。
「君、ちょっといいかな」
まず一人目の小柄な女子生徒と相対した。
見た目から実にか弱そうな印象があり、こちらをみるなりびくついてまるで壊れそうな人形だ。
「ちょっと手を見せてくれるかな」
「へ?」
「いいから。大丈夫安心して」
極力怖がらせないように笑顔を心がける。過去な生活においてその手の表情は忘れてしまったがこの時ばかりは必死で形作る。
おずおずとその生徒は手を差し出して見せてくれる。
魔力光がわずかにちらつく右手。
「なるほど。君はたぶん、偏りがあるんだね。必死で両手で出そうと考えなくていい。まずは片手だけに魔力を出して見せてくれるかな?」
竜輝も昔にやった失敗をその時思い浮かべた。
竜輝の場合はたいてい自分で解決するしかなかった。魔力の放出も最初のころは全然できずにイグサにさんざん殴られまくった。なぜ、できないと叱りつけられ右手を折られた経験もあった。その折られたことがあってか片腕からの魔力放出からならできるようになったのであるのが竜輝のもつ初めての魔力放出の過去にある記憶。
「でも、それだと魔力をうまく維持できない可能性があるんじゃ?」
「ああ、それね」
そう。魔力というのは実際に暴れん坊すぎる力で誰もが最初から両手で包みこむように魔力を浸透させろと言われる。
そう、魔力は奔流のような波。
本流を抑えるには両側から押さえこまねば静寂にはならない。
「大丈夫。確かにそうなんだけど、人によっては特に潜在的に魔力を抑え込む技術にたけてる子がいるんだ。そういう子はたいてい片手からの魔力放出ができる子が多い。特にプロの魔道士は全員が片手での魔法を得意としている。これは魔力量を抑える要因でもあるんだ。この片手放出はどちらにしてものちに教えることをするから君は一段飛ばしで始めるってだけだ」
「よくわからないんですが‥‥」
「あはは」
やはり、説明というのは苦手であり竜輝には教官など向いてはいないのかと思った。
だけど――
「教官が言うならやってみます」
そう言って彼女は片手だけで放出を試みる。
魔力放出は心を落ち着かせ、自然と一体感になる気持ちを持つ。
人はもともとこの魔力をもつ存在なのだ。魂の奥底に眠る潜在的な力。
昔の人がよく言っていた気というものである。それの現出した存在が魔力。
「ねぇ、ちょっと、あの子」
「うわっ、何あの魔力」
周りの生徒たちがその人間の生徒に視線を集め出した。
物おじしてしまう彼女は気恥しげに一気に放出を落として辞めてしまった。
「教官、これは?」
「潜在的に魔力量を君は多く持っているんだ。だからこそ、うまく両手での魔力浸透ができないし放出させれば押さえこめなかったんだろう?」
「そ、そうです」
「片手にすることでそれは体内の一部の魔力放出に限られるからな。さあ、今の話を聞いてたな。たぶん、今先ほど魔力放出をできていなかった生徒はたいていそうだ。片手で放出を試みてくれ」
がやがやと騒がしくなる。
このやり方はフィリアス人はしない。あいつらはたいていそんな奴はいないからこそ。いても大抵が英才教育として無理やりにでも両手でその波を抑え込む努力をさせられるのだ。体のつくりが違うからかそれが幼いころからできてしまう
子はたいてい後に偉大な魔力疾患をおこしたり、はたまたいい意味では偉大な魔道士になることがあるが人間は体のつくりは弱い。
そこが違うところだ。
前任の教官も人間だろうがフィリアス人だろうが両手の放出を試みさせたことだろう。
全生徒が魔力放出をできた歓喜の喜びの声が上がり始める。莫大な魔力量の光が空へ向かってラインを作る。
まさに虹の出来上がり。
「教官、見てください」
っと、早速先ほど出した課題の結果を見せに来た生徒が一名現れる。手にした石は難も変哲のないように見える。だが、生徒はもう一個の手から石の切れ端を取り出した。
「砕いてみました」
「なるほど、地の魔力を流し込んだってかんじっすか」
だけど、そういう風に見せてるだけだ。
「不合格。やり直しだよ。できないからって焦ってはだめだ」
「なっ、なにが不合格なんですか」
「これあきらかな不正を働いてるでしょ。二つの手ごろな石をあたかも砕いて見せたかのように演出してるよね」
「そんなことありません」
「じゃあ、ここでやってみせてくれないかな?」
彼女の表情はさぁー青ざめていく。
こんだけの人数の前でオープンに話てしまいやはり、彼女には気の毒なことをしいてしまうか。
でも、教官である以上この辺はきちんとせねば示しもつかないということもある。
「よし、全員注目! 見ていろ」
その不正を働いた生徒から石をもらいうけ、早速魔力を流す。
まずは風。石を浮遊させ、空中ジャグリング。
「人間であんなことできんの?」
「うそっ」
生徒から感嘆の声が上がる。この地球の魔法文明の遅性が現れてる発言だ。
「これは風の魔力で浮遊させることをしている。風を流せばこのようなことができるが、各々得意な魔力があるだろう。それを使うことの証明がこの課題だ。教官は生徒ひとりひとりちゃんと評価する。不正は認めないぞ。不正にしてもいいが、やり方はもう少しうまくやれ。それだけだ」
ちょっと、威圧的な態度をふるまったところで浮遊させた石を熱し赤く変色したところで氷の魔力を流し砕ける石。
破片は飛び散らないように風が渦を巻いて一か所に圧縮していく。
そのまま、消滅する。
「アンビリーバーボー」
「ナンデスカあれ?」
フィリアス人も驚く魔法のちょっとした宴会芸を披露したところで手をたたき――
「さあ、課題再開だ。フィリアス人の子も遠慮なくもうできてれば来てくれ。君たちは熟達者だからって周りに遠慮してこないなんてことしなくていい。そして、教官も厳しく不合格だとか言わない。ちゃんと厳正なチェックをしっかりつけるから安心して見せに来てくれよ」
これが竜輝最初の魔道実技講習となった。