コロッセオ
襲撃からの数十年後フィリアスでは大きな催しが開催されていた。
「さあ! この武闘大会もいよいよ決勝戦だぁああああ!」
ある大きな中世のコロッセオを思わせるような景観をした舞台では多くの観客が集まっていた。
コロッセオ中心では一人の雑巾のようなローブを身にまとい黒のプロテクターを装着した根暗のようにどんよりとした目鼻立ちをした男と奇麗であったろうスーツをぼろ雑巾のように汚くしてしまった感がある服装をしワンテールに結わえた金髪を風になびかせる妖艶美女の姿。
二人の男女が手に握るのは剣。
そう、コロッセオで行われてるのは闘技試合。
中に浮かんだ実況者が白熱しながら二人の紹介を行う。
「――――いまや現代では知らぬ者はいない大会の覇者! リュウキィイイイイイイイイイ!」
観客も一同に盛り上がる。
「ここまで、やはり覇者とだけあり無傷であります! そして、彼は大会で初出場の一戦で負けて以降は一切無敗! まさに、最強の王者だぁああ!」
青年はむくれっつらで天蓋の観覧席を凝視してから目の前へ視線を向き替えた。
「続きましては、昨晩国の国境騎士を負傷させたとあり逮捕された異世界人の女、ユズハユキぃいいい!」
これには観客らのブーイングとリュウキに対して「やっちまえ!」「殺せぇ!」という声が浴びせかけられた。
「初出場ながらたぐいまれなる戦闘スタイルを持ち味にしてここまで順当に勝ち進んできた彼女ですがさすがの私も驚きを隠せません」
実況の説明はあまりにもずさんで適当なものになりを変え始めたころ、ついに戦闘のコールが鳴る。
まず、先手を切ったのは女のほうであった。
剣を横に構え突貫してくる。
リュウキと呼ばれた男は剣を構え防衛に煎じた。
剣と剣が激しくぶつかりあい火花を散らす。
観客も大盛り上がり。だが、二人は必至のせめぎ合いで命の奪い合いあである。
この大会は奴隷を戦わせる国王の遊具。
数多くの囚人や貴族や官僚や王族に買われてる奴隷を戦わせ金儲けをする試合である。
男もまた王族の直下貴族に買われてるも身の上であったために負ければひどい仕打ちが待っていた。
「くっ! あなたもともとは人間でしょ! どうしてこんな奴らのいいなりになってんのよ! アホでしょ!」
「っ!」
相手の久方ぶりに聞く日本語に激しく青年は動揺をした。
「おっとぉ、なにやら、二人の手が止まったぁあ!」
実況者が話す言語は青年にはしっかりと何と言ってるのかはわかっている。
この世界で長いこと暮らすことによりこの世界の言語も青年の教養言語となっていた。
「あなたはもともとはこちらの人間でしょ! なのになんでこんな奴に従ってんだかねっ!」
「お前にはおれの気持ちなど知らないのに勝手なことを補佐zくな」
彼女の発言をこれ以上聞きたくないあまりに牙をむき出しにして女に攻撃を再開させる。
「あなたそれでも人間?」
彼女のどぎつい視線を浴びながらも青年の行動は揺るがない。
一心不乱に剣をふるい彼女のどのもとへめがけ突きを放った。
だが――
「っ! ま‥‥ほう‥‥?」
半透明の膜が彼女ののど元を防護していて剣が届かなかった。
「私が人間だからって魔法が使えないとでも思ったの? 馬鹿ね残念。魔法はフィリアス人の専売特許じゃないのよ!」
彼女の痛烈な襲撃がりゅうきののど元をとらえカエルのような泣き声をあげながら吹き飛んだ。
「あぐぅ‥‥がぁ‥‥‥ぅ‥‥」
「さあ、もう終わりかしら?」
「ぐがぁああああ!」
心の奥底から煮えたぎる怒りの雨。
それが体中の血を燃えたぎらせリュウキの体から赤いオーラが漏れ出しているのを女――ユズハは見た。
「そういうこと‥‥‥‥あなたは結局この世界で散々な目にあっていたのね」
ユズハの悲しげな瞳など気にも留めずリュウキは最後の力を振り絞る一撃を浴びせにかかった。
剣にまで赤いオーラが浸透しそして、リュウキの斬撃がユズハを襲う。
しかし、剣が彼女に接触したとたんに折れた。
まるで、見えざる鋼鉄の壁にでも当たったかのように。
「っ!」
リュウキは目を丸くし間合いを取ろうとしたが遅い。
彼女が後を追い、右手に光の収束が見えた。
「あとで、迎えに行くわ。それまで眠ってなさい」
その最後の言葉と同時にリュウキは光の海に飲み込まれ視界は白色に飲み込まれていった。
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目覚めれば木質の天井が映り込み自分の状態をすぐに悟った。
物置小屋のような小さな間取りの部屋。
そうここは自室。
自室のベットでリュウキは試合直後に運ばれ寝かされていた様子であるのがわかる。
実はここは物置小屋であり天井裏の部屋。ねずみなどが平然と居座ってる場所。
「おい、目ぇ覚めたか? とっと起きて仕事しやがれ屑」
部屋の入口のはしごを伝ってウェアウルフ族の男が顔を出した。
オオカミのような顔立ちと体、いやまさに狼人間の男。
ジーパンに茶色のワイシャツを着た彼がリュウキに向かって洗いたての衣服とも言えない布きれを投げ渡した。
「すぐに仕事に取り掛かれ。昨日の負けた取り分をしっかり取り戻さねえと殺すぞ」
そのまま、彼は階下へ降りて行った。
「‥‥‥そうか‥‥負けたか‥‥っ!」
リュウキは壁を殴りつけて窓を開ける。
むせかえるような埃が窓から排出される。
体を伸ばし骨が鳴る。
手当などされた形跡はなくあちこち生傷だらけが痛々しく浮き出ていた。
「おい! さっさとこい!」
下から主人の一人でありリュウキを拉致した男の一人が呼び掛けているので急ぎおり出す。
彼にはいまだに勝てない。
リュウキの技や魔法の師匠たる彼をいつかは殺そうと考えてるが今はまだその時ではないと心に闇を抱えながら精一杯従った。
「よし、来たな」
降りて早々彼に渡されたのは一枚のメモ用紙。
「買い出しに行ってこい。武具一式と飯だ。そのあとは掃除と洗濯。あとはいつもどおり帰ってきたら修行をする。いいな!」
「はい、マスターイグサ」
リュウキは言われるままに外へ出ていくと広場のような外庭で一人の長い耳を持つ種族、エルフの青年剣士中年剣士がこちらを見た。
「おい、買い出しか? なら、これをもってけよ」
そう言って青年エルフが手渡したのは腐ったモンスターの死骸。
単なるいつもの嫌がらせであった。
「ぎゃははは!」
子供みたいに笑う彼を一瞥したとき中年エルフがリュウキをけり飛ばす。
「さっさと、買い出しに行け! てめぇが目の前にいるだけで虫唾が走るぜ」
「わかりました」
リュウキはうざったくも思いながら歯を食いしばり買い出しに向かった。
そう、こうやって我慢していればいずれ復讐の機会は来る。
いずれ――