移行する作戦
不穏な空気を立ち込めた体育技館には教官たちが残って清掃および調査を行っていた。
警察などを呼ぶことはせず自分らで調査を行っているのである。
なぜなら、この教育施設そのものは政府管轄の軍事施設であり、怪我や事件の対処には慣れてるプロがいるからであることが大きな要因だ。
そのプロがもちろん元軍事経験のある教官たちや警察機関に所属していたという人間の教官までいるのであるからこの事件は公にはせずない内的処理にとどめる形となる。
そもそも事件全体を公にしてしまえば施設自体の経営も危ぶまれる一方で共存の計画そのものがご破算する可能性ですらあった。
物静かさが残る空気を破るかのように教官の一人、工藤善次郎。もと警察官である無精ひげを生やした50過ぎの人間である男は壇上の見識を終えたのか首を横に振って壇上下にいる九条責任者に伝えた。
「申し訳ありませんがわいでもわからんです。どうやって、あの場で鏑木教官を叫び声あげさせずに瞬時に殺し移動させたのか。鏑木教官は優秀な魔術講座の教官でしたし軍事経験もあった彼女は実力もあったと思うのにその彼女をいともたやすくここまで暗殺して運びこむ方法の痕跡が何一つ見当たりませんな」
犯罪者に感服するような発言をしながら工藤教官は壇上から降りてくる。
清掃を施したが未だに血の跡がべっとりとこべり付く壇上席。
「まったく、この騒ぎのせいで新学期のオリエンテーションが先延ばしになってしまいましたね」
本来、午後からはオリエンテーリングを各学年で予定していたが結果として鏑木教官殺人事件が起きてしまったことで生徒全員を緊急的に帰宅させ学校を一時閉鎖し明日にオリエンテーリングは先のばされた。
「運勢先生、魔力的要因を感じれますか?」
「はい、見た限りこれはサイレントミミックという相手の五感を封じる魔法の一種を仕掛けられ行われた殺害だとおもうぜ‥‥です」
ほかのフィリアス人の教官たちも竜輝の発言に同意を示して、五感を封じてしまう魔法の一種「サイレントミミック」の類であることを提唱した。
「ほかに何かわかりますか? 長い間フィリアスで生活してきた人間の視点や若い人の視点からで」
「んー」
悩みながら壇上を見渡してる時だった。体育技館の出入り口が開かれて3名の生徒が入ってくる。
出入り口で見張り番をしていた教官がその3人の生徒を追いかけ必死で止めようとしてる。
でも、九条責任者が言いとめた。
「その3人は入室してかまいません。林道教官。彼女たちはワタクシが呼びましたのでぇ」
「は、はぁ?」
意味のわからないような感じで林道教官、フィリアス人でウルフ属の武道を教える教官が委縮し元の門番の位置に戻っていった。
「九条責任者、共存同盟軍にこのたびの件はお知らせしました。それにおいて私たちの活動は速やかにフェーズ2へ移行させていただきます」
立場は美香が上であるのか九条責任者へ容赦のない口調で久遠時楓から通達された内容を言伝していた。
フェーズ2という言葉に竜輝も眉間にしわを寄せて口を開いた。
「フェーズ2ってなんだよ。俺はそんなの聞いてねえぞ。美香姉さん」
「あなたは黙ってなさいよ。運勢教官」
竜輝はそう言われて黙ってはいられるわけがない。
伝えられてはいない内容を伝えられてはこちらも任務を継続できはしない。
久遠時責任者自身は知ってるようなそぶりで目を伏せってる。
「フェーズ2ってどういう意味です、九条責任者?」
「そうですぞ、彼らはいったい何者かね?」
「今、同盟軍というふうに聞こえましたが?」
その場にいる教官たちから九条責任者に質問の雨が浴びせられていく。
九条責任者は渋面を作って頭を下げた。
「申し訳ありません。このたび、我が施設の教官の人数不足を補うために現在の同盟軍に支援を申し出て教官を配属させていただいたのです」
「っ! でも、なぜ――」
一人の教官がもっともな疑問を口にした。
けど、これに素直に答えを返せる状況ではこちらもない。
竜輝たちは潜入してる体である。実際こんな事件が起きなければこうして招待をばれるような発言をこの教官たちの前でするはずはなかったのだろう美香らも。
美香はどうこたえるのかと竜輝はひやひやしながら見つめた。
「今回私たち同盟軍は未来ある若者たちを検分する意味合いもありこうしてこの施設の申し出を援助いたしました。本当に現在の若者たちが同盟に協力的であるかということの調査です。ですが、今回のような事件が起きてしまったので政府は施設の廃止を考えなくてはいけないかもなりません」
すこし、恐怖をあおるような発言をし、教官たちの様子をうかがう美香。
それも端末に記載があったマニュアル通りだった。
不祥事が起こった際にまず容疑者となる者たちに動揺を与えさせ表情をチェックし犯罪者を探れ。
順当な手順に乗っ取たための言葉である。
教官たちは一瞬にして唖然となりどうすればいいんだと頭を抱える者もいれば腰を落としてへたり込む者もいた。
それはそうである職を失ってしまう可能性があるのだから。
「ですが、今回の犯人が見つかれば別です。犯人が見つかればこの施設の検討の仕方も変わります。ですので、みなさんには協力をしていただきたいのです。そのためのもし不祥事が起こったときの対処それがフェーズ2の監視システム導入です」
「監視カメラを施設内の各箇所に設置しましたなのです。こちらをわれわれが24時間体制で端末でデータをチェック監視するなのです」
美香の言葉に引き継ぎを行うように愛華が監視システムの要点を簡易的に述べた。
フェーズ2――つまり、監視することで怪しい動きをするものを要チェックする。
いつでも生徒を見てるということか。
「トイレ内にも監視カメラはつけさせてもらいました。全個所に取り付けがされてます」
「トイレまでって‥‥ちょっと、それって犯罪じゃないのですか!」
一人の女性教官がやはり、これに対しては異論を唱えた。
男でもそりゃあ所んべンしてるところは見られたくないものである。
「これも犯罪者撲滅のためです。協力を願います」
「っ!」
美香の眼力に圧迫されたように彼女は縮みこんでたたらを踏む。
反論すれば容赦なくなにかをしそうな勢いである。
「わかりました。ワタクシたち教官側は明日にでも生徒らに監視の件を――」
「いいえ、伝えなくて結構です。逆にそれを伝えてしまえば生徒たちが暴動を起こしかねません。それ以前に生徒の中に犯罪者がいる可能性が高くありますので」
「なぜです?」
「あの状況下では教官に犯人がいれば私たちの誰かが見ています。生徒の列に並んでいた私たちの誰かが」
「なるほど。でも、それは生徒も――」
「いえ、生徒側だとあれだけの人数ですので擬態魔法や透明になる魔法を扱える者がいればその異変をすぐ察知することは難しいです。死角も多いです」
美香の説明はすべて正論である。
間違いなく、教官側に今回の事件の犯人はいないだろう。
美香の言うとおりに教官が犯人だとしたら特に最前列にいた生徒である柚葉がみてるはずだ。いくら暗くても。それに竜輝もすぐ近くにいるので教官たちであれば椅子のガタンという音がして犯人が教官側にいると気づく。
だが、そんな音は一つもあの闇の中ではしていない。
「わかりました。生徒には黙っています。今回の事件はでもどう生徒に話せばいいでしょぉ?」
「そのまま、犯人が施設内にいるというように呼びかけ注意を伝えてください。未来ある軍の戦闘訓練を積んでる若者たちですから対処は各できるはずです」
「わかりました」
という形となって事件の解決はひとまず見越すこととなりその日はそれにて教官も解散と相成った――