作戦 前篇
2027年3月13日。
春の陽気が芽吹き出した病室の窓から春の風が吹きすさび入ってくる。
竜輝は朝起きるとすぐに端末から呼び出しがかかって起こされる形となった。
昨日買った私服を身にまとい、迎えにきた柚葉とともに例の軍事顧問室に来訪した。
「お連れいたしました」
いつもの感じの口調ではなく礼儀のこもった対応のある言葉で軍事顧問室の扉を ノックしてあけた柚葉。
中には久遠時楓、この組織の日本支部の責任者である彼女が当たり前の如く椅子に座っていた。
「柚葉は戻っていいですわ」
「了解しました」
柚葉はその指示に従い部屋から出て行き、この部屋には彼女と二人だけとなる。
微妙な緊張感のある空気が流れだして彼女は微笑んだ。
「昨日は共存のあり方を理解できました?」
「‥‥この世界がうまく共存文明をしていこうという努力は見て取れた。でも、ただ、それだけだ。中にはあまりよく思っていない連中もいた」
実は昨日の外出時には竜輝はある面もみていた。
口に出したりはせずいたが人間の中にはフィリアス人に竜輝と同じく嫌悪した表情を浮かべてるものも少なからずいた。
でも、この世界の現状の空気を壊さないように必死で努力して接してるようだった。
「まあ、そういうところもありますわ。でも、結果としてはこの世界は順調に共存文明を図ろうとしていますわ」
「‥‥‥‥さっさと、本題に入ったらどうだ? 昨日俺は話を聞いた。俺を救出した理由。結局は「おれを利用したかった」だけだって」
「やはり、怒っていますわよね」
楓は竜輝のむっとした表情を覗って、ため息をついた。
「理由はありますわ。政府にも無駄な資金というのを使いたくはないということや同盟というのは実に難しいということですわ。実際、救出に関してもかなりリスキーなことでしたわ。だからこそ、ただ助けるという手だてはなしという案が可決されてましたわ。日本政府には一市民に多額の金を使う余裕がありませんから」
楓も望んでした行いではなかった。
そう、あくまで上からの命令であり彼をある作戦を行う一貫で救出しようという案をもって救出作戦が決行された。
「あなたの安否については10年前から同盟を結ぼうというフィリアス人から聞かされていましたわ。けど、政府は何の理由もなしに彼を救出するk所とに抵抗を感じていましたわ。リスクを伴い資金の面で多額が伴うことですわ」
「結局はおれを見捨てていたのはあんたらもだったんだってのはわかってたさ。でも、どうして早く助けにきてくれなかったのかは論争問題でもなくただの政治のためってわけか。俺なんて一般市民にすぎないから見捨てたってどうってことねえってか」
「‥‥でも、しっかりと手は打っていましたわ。あなたを殺されないようにフィリアスにいる同盟関係者に援助を申し出、あなたになにかあれば救出してくれるようにと」
「ハッ。なんも救ってはくれなかったけどな。俺が苦しんでた時ですら。誰も!」
「‥‥‥‥申し訳ありませんわ」
「‥‥謝罪なんか求めちゃいねえ、おれを救出した理由が政治に利用するためだとか納得いかねえしてめぇらの管理不行き届きのせいで俺はあっちの世界に拉致されたんだぞ! そんなうえでさらに何かをさせようという魂胆はどうなんだ? 」
そう、国を守る機関たる国防総省があの異世界人来訪事件の際に注意をしていなかったがための被害があの10年前の事件を招いた。
そのせいで竜輝は拉致され10年もの間あの世界で悲惨な生活をしてきていた。
「俺はなぁ、今すぐにでもあんたを殺したっていいんだ」
そう言いながら右手を掲げた。
だが、おかしい――
「魔法を扱おうとしても無駄ですわ。ここに連れてきた際にあなたには魔力の抑止薬を打っていますわ。早々に魔法を扱うことはできませんわ」
「っ! だったら!」
そのまま駈け出した竜輝は楓の寝首を取りに向かう。
机の上にあるペンを素早く手にとって狙うは頸動脈。
だが――
「甘いですわ」
竜輝を襲う衝撃。
机にあっけなくたたき伏せられ竜輝は悔しさに牙をむいた。
「離しやがれクソ!」
「私たちの行ったことに対して怒りを向けてもございません。でも、私たちも理由があってあなたにこの任務を行わせてもいるんですわ」
「理由? ふざけんなよ。そんなもん――」
「あなたを拉致するように命じた者たちのボスが地球にいますわ」
「な‥‥に‥‥」
竜輝は言葉を失い、彼女の瞳を見据えた。
そして、彼女は言った。
「その件が今回あなたに学校の教師をやってもらいたい理由になりますわ」