俺が異世界で水戸黄門?
「小説家になろう」サイトの作品傾向について、アンケート調査結果や投稿データの分析に基づいた考察を読むと、やはり「なろう」は異世界系テンプレの戦場だなと思わされます。私も異世界ものは好きですが、数が多すぎる上に評価が超上位に集中していて、どれを読めばいいか迷うのですよね。
ところで先日、「俺が異世界でチートで最強」のテンプレについて友人と話している内に、要するにこれは時代劇における水戸黄門のようなものではないかと思い当たりました。細かい設定を覚える必要がなく、大筋も分かっているので辛い展開でも安心して読める。通勤・通学中にスマホでさっと読むには良いのかもしれません。
しかし現在のように書き手が水戸黄門に殺到すると、当然ながら作品が埋もれやすくなります。そして同ジャンルの中で飛び抜けた作品だけが評価され、読者を全部持っていく。挑戦者には何か独特で強烈なネタがないと、「それ以外」から抜け出せないというわけです。
テンプレがあれば楽に書けるわけではありませんし、冒頭から読み手を引き込めるほど魅力的な水戸黄門を書くのは難しいことです。その代わりに、「同じ水戸黄門なのに、この人が書くと面白い」と思ってもらえたら勝ちです。その魅力の源泉は「その人ならではの個性」ということになると思います。
では何が個性なのか。単純なところでは、ネタのチョイスと組み合わせ方だと思います。敵がスライムやゴブリンではありきたりだと思うなら、巨大昆虫だらけの世界で戦い抜いたり、ミクロ化して病原菌と戦うなどの変化球も考えられます。これなら世界観も独自のものになります。自分が好きで詳しいものを敵として登場させれば、意外と新境地が拓けるかもしれません。
一方、ストーリー展開やキャラ立てには、ある程度ウケるパターンがあるようです。ハリウッド映画の多くは似たようなストーリーなのに売れていますよね。そこはたくさん読んだり観たりして、研究するのが良さそうです。基礎となるパターンがあれば、意図的に崩すこともできるでしょう。その取捨選択も個性の内です。
ただ、上述したように「冒頭から読み手を引き込むような水戸黄門」を書くのは至難の業です。どうやらプロ作家の方々でも、最初にクライマックスを持ってくると、その先のプロット構築にひどく悩むらしいです。このあたりはひたすら書いて、悩むしかないのでしょう。
最近「なろう」出身のプロ作家さん数人にお話をうかがう機会があったのですが、異世界ものについては「とりあえず書いてみては?」で意見が一致していました。ある程度の枠の中で自分らしさを出すのも実力であり、一作ヒットさせてから好きなものを書く手もあるとのことです。
「なろう」で成り上がり、やがてはプロに…という人には、この考察が何かのお役に立つかもしれません。私は異世界転移ものより先に書きたい物語があるので、ニッチ路線を歩いていますが。ここまで読んで下さった方、「だんじょん村の止まり木亭」もよろしくお願いしますね!