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デウス・エクス・マキナの円卓のなかで
シリウスという少女がいる。
黒くうつくしい長い髪に、サファイアブルーの瞳。
ラヴェンダーアイスのワンピースを着た少女は、一週間ぶりのライヴハウスに立つ。
そうして、細い喉から絞り出すようにうたう。
煙草の煙や、アルコールの臭いが充満した小さなライブハウス。
若い男女、中年の男女。さまざまな年齢の人間が、集まる。
毎週日曜日。
19時に、シリウスは歌う。
白いカンバスに色を塗りたくるような声で。
雪解けの水のように、透明なトーンで。
少女のような、変声期が過ぎていない少年のような声で。
喧噪があふれるライヴハウスのなか、シリウスが歌う瞬間だけ、ここは楽園になる。
アダムとイヴが禁断の果実を食べる前の、あるいはパンドラが匣を開ける前の楽園に。
赤い靴を履いた少女は、残酷なほどに美しいメロディを口ずさむ。
煙の灰色も、アイリスの色をしたアルコールも、彼女には見えていない。
ただ、白く輝く月だけが彼女の目に映っている。