三話目
窓から朝日が入る、それに合わせ街も眠りから覚ます。
今日が始まる
「んっ」
小さな吐息を漏らす、泣いていたらどうやら寝てしまったようだ。
一晩泣いたらすっきりしていた。
さっぱりした頭に、ドアを叩くノックの音が聞こえた。
「お客さん、朝食が出来たよ。」
この店の店主だ、わざわざお越しに来てくれた。
「ありがとうおばさん、すぐ行くから」
『あいよ』っと返事が返ってきた。
ベットから、起きて支度をした。
窓から入ってくる日は、部屋を明るく照らしていた。
いい事がありそう
彼女はそう静かに思った。
泣いていた部屋を飛び出し、朝ごはんがある一階に降りた。
「おはようおばちゃん」
元気がいいねっとおばちゃんは言った。
飯台に用意されていた朝ごはんを食べる。
食べてる途中言わなければいけない事を思い出した
「あ、おばちゃん」
「なんだい?」
「ベットすっごく濡れちゃったからシーツの交換お願いできる」
おばちゃんが手を止めて驚いた顔でこちらを向いた
「男はいるのかい?」
「いるわけないじゃん、じゃあ、よろしく」
おばちゃんはさびしい人を見るような顔で空返事をした。
彼女は、誤解されるような事を言った自覚がなかったようだ。
朝ごはんを食べ終わった美咲は、宿を出た。
場所は変わり冒険者ギルド、昨日のように冷やかしがあったが気にしなかった。
クエストは、掲示板に貼られているらしく、受けるクエストの紙を取って受ける感じになっている。
「すみません、これお願いします。」
受付に出したのは、コボルトと言う人型の犬みたいなモンスターを退治しに行くのだ。
ある村で、頻繁にコボルトが出現するらしく、それらを殺る仕事である。
案外、値段が高く、報酬が一万円だと言う事だ。
値段の言い方は同じだけど、宿一泊200円で価値が全然違う。
「わかりました、では行ってらしゃいませ」
送り出されるまま、美咲は、ギルドを後にした
街を歩く、出店が並ぶ商店街だ。
当り前のように多くのにぎわいを見せている。
人と人との間をすり抜けながら歩いている。
抜け出すだけでも一苦労だった。これでは当分屋台の物を買えそうにない。
『初春がいた時は、普通にとおれたんだけどな?』
門番にあいさつをして(また、顔を赤かったけど熱下がってないのかな)目的の村へと足を運んだ。
「こんにちは」
街から村までそんなに時間はかからなかった。
この村は、約十個ほどの家が集まっていて、一つの集落のような村だった。
美咲は、村長の家を訪ねていた。
「どちらさんかね?」
片手に刀を持ったよぼよぼのおじいさんが家から出てきた。
「コボルト討伐に来ました、美咲と言います。」
美咲が名乗ると、べっぴんさんじゃがのうと言って舌打ちをした。
あまり好まれては無いらしい
「あんた、ランクは?」
「え?ランク?」
唐突に言われたお爺さんの一言にどう答えればいいかわからなかった。
「なんじゃ、ランクを知らぬのか?冒険者になってまだ月日が浅いのう。どれギルドカードを見せなはれ」
ギルドカード?
「あ、これですね。」
「そう、これじゃ。このカードはその持ち主の力量が書いてあるAからCまで大きなランクがあり、その大きなランクの中にまたa,b,cと別れておる。ギルドの方で聞いとらんのかい?」
「いや・・・ちょっと記憶があいまいで」
「ふむ、じゃあ見てみるとするかの…えーっと大きなランクがAェ!!しかもbじゃと!!」
お爺さんは、今にも入れ歯が抜けそうな状態だった。そのくらい驚愕しているのだろう。
「すまんのう、見くびってしまって、じゃあ頼むとするか」
「はい、ありがとうございます。」
そういうとお爺さんはひとりでにしゃべり始めた。
「この村には、もっと人がいたんじゃ、しかし昨日コボルトが大勢押し押せてきて村のほとんどの者をさらって言ってしもうたんじゃ。じゃからコボルトのすみかに助けに行ってくれんかの?場所は目の前のそこの洞窟じゃ、こんなことを頼んだんじゃなかったが、出来るかのう?」
村長は申し訳なさそうにこうべを垂れていた。
「わかりました。じゃあ、早速行ってきます。」
目的は800mくらい離れている洞窟
カチッ!!
金属が、噛み合うように錯覚した。
また、
ドクン
殺す
鼓動が激しく踊り始める。
激しく、それでいてなめらかに速度を上げる。
集中が絶頂を迎える。
前回と同様、紅の目は血走っている。
野生本能、まさしくそのものだった
足に十分に負担をかける。
瞬間、高速の域にまで達した速度は、800mをぐんぐんと短くしていく。
風と景色が一気に飛ぶ。
数十秒で付いた洞窟にはコボルトが群がっていた。
百、いや百五十いるだろう。
その中心に大人と子供、あわせて八十人がいた。
それを群れで囲むコボルトは総勢百匹いるだろうか。
何にしても危険な事は確かだった。
「ウワーン!!」
つかまった村人の子供が、恐怖心から大声で泣き始めた。
母親が必死に、泣きやまそうとする。しかし、泣きやむどころか、周りの子供も泣き始めた。
泣き声が酷い合唱のように混じり合う。
「ダマレ、コドモ、オマエラ、コロスゾ」
図太い声は、子供たちの耳の奥に響き渡った。
コボルトの長である。
長や知能の高い魔物は脳を持つそれに比例して力も強い、どこで覚えたかは全く見当がつかないが、人の言葉をしゃべれるという事は、相当強いと言えるだろう。
「ガウ!!」
一匹の、コボルトが何かに気付いたようで、全部のコボルトに聴こえるように吠えた。
そう、美咲だ
「ナンダ、テキカ、コロセ、オマエラ」
片言で、聞き取りにくかったが、コボルト達は聴こえた様で五十匹がダッシュで敵に向かって行った。
「見えた!!」
美咲が数秒走っていると、敵がこちらに走ってくるのが見えた。
一匹ではなく、五十匹ほどだ。
五秒
それが彼女とコボルト達が交わる間の時間だった。
美咲はすぐさま、レイピアを抜く
あの数だ、レイピア一つじゃ無理だ。そう思うと、ポーチの中に自然と手が行った。
「あった」
手に取ったのは、何かわからないボール
それを、コボルトの群れの真ん中に投げる。
”ボンッ”音が鳴ったあと、その中から煙がもくもくと四方八方に飛び散った。
コボルト達は、煙で視界を奪われている。
条件はこちらも同じだが、コボルト達のいる場所は大体把握していた。
コボルトは、ゴブリンと同じ位の力量だ。しかし、コボルトは集団で動く事が多い。だからクエストではランクが上に位置する。
しかし、百単位はあまり聞かない、しかも人を人質に取っている、十分異常事態だった。
一匹、二匹と喉を貫いて確実に殺していく。
煙が晴れたころには二十匹も残っていなかった。
その二十匹も簡単にせん滅した。
かかった時間は三十秒、驚異の早さだった。
また、洞窟に向かって走っていく。
「ゼンメツ、ダト、アリエナイ」
知能のあるコボルトは絶句をしていた。
戦略もそうだが、ある意味どんな攻撃でも五十匹もいれば必ず殺せると確信していたからだ。
「マチブセ、スルゾ」
五十でもやられたのだから以下では無理だ、かといって五十匹のコボルトを行かせると村人にやられる危険性があった。
そのコボルトは、防戦を余儀なく押し入られた。
スピードが上がる。強烈な速さで美咲は洞窟へ向かった。実際、何も魔法は掛けていない実力でこの速さだった。
目的地には、すぐ着いた
村人たちは、コボルト達に拘束されてる。身動き一つ取れない状態だった。
村人たちの前に立つようにコボルトが出てくる。
それでも、彼女には敵うはずもなくグサグサと喉を突かれ倒れていく。
一匹、また一匹数を減らしていく
最後の三匹になった。
長らしきコボルトが苦肉の策か村人を一人連れてきて首に牙を当てた。
その間に、美咲は二体のコボルトを始末していた
「オマエ、ケン、ステル、シナイト、オンナ、コロス」
「た、助けて!!」
連れてこられた女性は、首に牙を当てられ青い顔をしていた。
死にたくない、その言葉が顔にくっついているように見えた。
殺したくない。
でもそれじゃあみんな死ぬ。
でも
(嫌だ!!)
美咲の心では剣を捨てることを選んでいた。
しかし
「ブースト」
知らぬ間にそんな事を呟いていた
(ダメ!)
(ダメだよ!!)
女の人が死んじゃう。
足が、熱くなる
「一瞬で殺す」
それは彼女じゃなく別の何かが言った。
それと同時に、音速にも近い速さで、コボルトの喉を突き刺した。
瞬殺、そう思った
「ザンネン、ダッタナ」
コボルトは不敵な微笑みを浮かべ人質の首を噛みっ切っていた。
遠くで、叫び声が聞こえたが意識が消えていった。
消えていく瞬間、
「私は誰?」
静かな疑問が脳に響き渡った。