二話目
「さあ、聞かせて。」
「わかった。あ、その前に僕は口が悪いから嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど許してね。」
「うん」
「昨日、あ、その前に僕の私情から・・・
僕は色々な物を合成して生計を立てている、市販では売られていない特別な回復薬、装備品を作って商人ギルドに売ると言うのが一連の作業。僕が売った物は冒険者ギルドなんかで売るの。僕達商人ギルドは、物を作るをメインにしている、だから技はあっても業がない、そういう所では商人ギルドはあまり好まれていないかもしれない。」
初春は少し悲しい顔をした。
やっぱり商人ギルドの一員だからだろうか、少し悩んでるらしい。
「今からが昨日の内容。僕は、薬草で回復役を作ることが多い、だから薬草がそこ尽きる時がたまにあって今日はその薬草”新月輪”って言うんだけどね。花弁は真っ黒だけど毒や麻痺の薬になるからとても重宝するの。だけど新月輪はこの近くではシドの森しか生えてなくて、さっきも言った通り私たちは弱いの、で冒険者ギルド言依頼したら君が申し出てくれたの。君の印象だけどはっきりいって口数が多くて正直うざかった、近所のおばちゃんでもここまでしゃべらないって思うくらい魔物を狩っている時もずーっとしゃべってたし。」
初春の話によると、何かの仕事をしていたのだと言う。
あと、よく話すってくらいだ。
「私は…今の私は?」
「え?いや、さっきより全然しゃべり方が違うから別人みたいって思うくらいかな。」
「そう…」
昔のこの人と私は全然、真逆の正確だ。
正直、この人は今の私よりはるかに強い。だけど剣の振り方なんて知らないし振った事もない。ここは森の中、いつ狙われてもおかしくない状況では危険すぎる。
彼女に、うち明けるべきか美咲は考えていたが先に話しかけてきたのは初春だった。
「何か色々混乱してるみたいだし、すぐそこに川があるから顔洗ってきたら?」
そういって彼女は川を指さした。
「うん、ありがとう。」
頭を冷やすには十分の事だった
顔を洗うためスタスタと川へ走っていった。
水をすくい顔を洗う。
流れる川の水はすごく冷たかった山から流れてるからかモヤモヤを一気に冷たさで飛ばした。
2,3回顔を洗って水面の自分を見る。
「え?」
そこには、昔の私とは比べ物にならない美しい女の歩との顔が映っていた。
ロングの髪と肌が、透き通るように白く
瞳は紅に染まり
鼻が高く
上品な口をしている。
まさに絶世の美女と言えた。
「これは、だれ?」
「いや、とてもきれいだと思いますよ。しゃべらなきゃね…あ、言い忘れてました、美咲さん『無駄美人』って言われてましたよ。」
初春がクスリと笑う。
無駄美人、容姿端麗であるが動いたりしゃべったりすると台無しな人のこと指す。
これが私・・・
そう思っていたときである。
「プギャーーオ!!」
声が聞こえた、
人ならざる者の声、いや叫びかもしれない
「み、美咲さん、ご、ゴブリンです!!ゴブリンですよ!!!!」
初春は、焦った声で美咲に呼びかけた。
数は一体、いつもなら私は、恐怖のあまり叫んでいるはずだが、
何故か、
間違ったように、
何かが、
何かの歯車がかみ合い高速回転し始めた。
躍動する鼓動
増していく集中力
血走る瞳
すりきれそうな緊張感
「殺る」
気がつくと私は、そんな事を言っていた。
脇に指していたレイピアを引き抜き、敵に向かって思いっきり突きを入れる。
元々レイピアは、切るじゃなく突き刺すというのが主流だ、首筋に狙いを定め貫通させる。
「グシャ」
レイピアを抜くと、ゴブリンからドクドクと赤い液が出てきて音を立てて倒れる。
「ふぅ」
集中を解き、レイピアについていた血糊を払い落し、鞘にしまっても、躍動していた鼓動は一向に静まらなかった。
「す、すごい」
初春は目を見開き愕然としていた。
「さっきも戦っていたんじゃなかったの?」
ふとした疑問を初春にしてみる。
「いや、さっきよりスピードも戦い方も全然違ったので驚きました。」
どういう戦い方してたんだろう?
顔を洗っている時、危険だと思っていた。なのに遭遇してみると、殺したくなった、むしろ生かせなかった。
殺したゴブリンは大量の血を流しているのに、
何も感じなかった。
私が、私の何かが違う。
「何やってんですか?いきますよ。」
気付くと初春が森に入ろうとしていた。
「あ、まって」
そのあと、少し初春の採取に付き合い、町に戻る事になった。
その途中、ゴブリンが2匹出たがさっきと同じように、殺しても何も感じなかった。
森を抜けると目の前に大きな砦が見えた。あれが街らしい。
道にそっていくと門がある所に着いた。門には二人、男の門番がいた。
「み、身分証明証を提出してください。」
少し声が震えていた。
頬も少し赤い。
初春はすぐにわかったが、美咲はそうでもなかった。
「熱でもあるの?」
美咲は、日本にいた頃はもてる要素がひとつもなかったため恋愛や好きという感情には疎くなっていた。
「み、身分証を、お、お願いします。」
初春が、門番に出しているのを見て、美咲も持っていたポーチの中から同じものを探して、門番に渡した。
「あ、ありがとうございます。で、では、どうぞ。」
身分証を見た門番は、美咲たちにすぐに身分証を手渡し、門を開けた。
開いた門の中は、御城を中心に城下町を形成していた。
中世ヨーロッパを思わせる作りの街は、あちらこちらからにぎわいの声が聞こえてくる。
「ようこそ、ミルの街へ」
とことこと、歩く初春を追いかける。
彼女によると冒険者ギルドに向かっていると言う。
歩いていると街に展開している出店から出る匂いにつられる。
「ちょっと、美咲!!」
「ちょっとだけ、ね、ね、いいでしょ?」
何とか初春に粘ってみたが冒険者ギルドに行ったらどうぞお好きにと言われた。
5分くらい人ごみにまぎれながら着いたのが冒険者ギルド、周りの家の2倍くらいある施設だった。
「はいるよ」
初春は、扉を開けると受付に向かって行った。
そのあとから、私も入った。
「美咲ちゃん登場だー」
「いつもかわいいね」
そんな声が聞こえてくる。
冷やかしだろうか?と思いながらそれを無視して初春の後を追った。
「ようこそ、ご用件は?」
受付の彼女は、初春に訪ねた。
「A-175 完了です、依頼者は初春です。」
「わかりました、A-175ですね承りました。」
「つぎ、いいよ美咲」
不意に振られた言葉
「うん」
何となくやってみる
「さっきの、お願い」
「A-175ですね。」
「はい」
「お名前は?」
「美咲です。」
「承りました。達成報酬5000円です。」
「ありがとうございます。」
そんな取引をした後、ギルドを出た私と初春は解散した。
「・・・私はどうしたらいいんだろう?」
ギルドの前に棒のようにつったている私を通行人が哀れか蔑みか知らないが舐めまわすように見ていく。
昔も感じた視線、嘲笑い、失笑のもと、私は帰っていた。
(だが実際は、失笑などではなく。彼女の美しさに見とれていただけなのだが・・・)
だがそんな事は、どうでもよかった、元々友達を作るタイプじゃないのはわかっていた。
いなくても、さみしさは感じなかった。
何故、昔の事を思い出すんだろう。
ギラギラと輝く太陽を恨めしそうに見つめ美咲はその場を立ち去った。
「疲れたぁー」
荷物を置き、ベットにダイブする。
ふかふか…まではいかないが心地のいいベットだった。
あの後、さすがに寝どこは確保しておかなければと思い宿を取った。
中学生だったと言っても宿くらいは取れる。
静かに、壁時計が時を刻む。
ベットに丸まった私は、その音を聞きながらまた、思い出す。
「痛い!!」
髪を掴まれた少女は、痛いと言う感覚を、言葉と力に変え必死に抵抗する。
それですら彼女の力は非力だった。
「ウゼエんだよブス!!」
「そうだ、ブスはブスらしくぶすぶすしていろ!!」
「おい!触んなよ、けがれるぞ!!」
人も通らぬ路地裏、誰か助けに来るはずもなく暴力をふるわれる毎日
蹴られ
殴られ
なぶられて
傷が深まっていく。
体の至る所に痣、打撲がある。
母はいない
父はいない
親戚は、殴っている子の母親。
親戚の母親も、痣は見えていたはず
しかし、何もなかったようにふるまう。
毎日、毎日・・・続いた・・・
そして、審判の時が来た。
「なあ、こいつ殺そうぜ」
「おっ、こんな所にナイフが・・・」
少年は、ランドセルからナイフを取り出した
「うっそくせ――」
「だな」
ある一人がそういうと、三人とも笑いはじめた。
「よしっ、やろう」
一人が軽く言った。
体は動かない、前もかすんで見える。
三人は、ゲラゲラと品のない笑い声を上げている。
ナイフが降りあげられた、
その瞬間だった
「何をしてるんだ!!!!」
路地の角に三十くらいのおっさんが大きな声で叫んだ。
「やべ」
その声を聞いた少年たちは虫が悪そうに走り去った。
「大丈夫かね?」
少女に駆け寄ったおっさんは声かけた。
「何故?」
少女の答えたのは、答えではなく質問だった。
おっさんは、キョトンとしていた。
少女は息を吸って十分にためて大声で言った。
「何故、私を助けたんですか!!!!」
少女の目には怒りがあった。
「最後の痛みだったのに!!これで最後だったのに!!なんで、なんで助けたんですか!!!!」
彼女の瞳から大きな滴がボロボロと流れ落ちた。
「もう、お、終わりだったのに・・・」
「バカヤロウ!!」
パチン!!
小さな頬に、大きく手の形がくっきりと残った
おっさんは、叫んだ
「人生をなめんな!!」
何故、おっさんがそういったか少女にはわからなかった
殺されそうになった後だからか?
怒るではなく、叱ってくれたからか?
何故かその言葉で安心した。
そこで、彼女は意識を失った。
あとから聞いてみると、そのあとおっさんが訴えたりしたおかげで、少年三人は報道、親は少女の親権のはく奪、親権は、おっさんが受け持った。
少女は、その日からおっさんの事を
『お父さん』
と呼び始めた。
私は何故こんなこと思い出したのだろう。
窓辺から、月明かりが入ってくる。
もう、夜だしかし眠れなかった。
心臓を鷲掴みにされている感覚があった。それをやめさせようと胸に手を押し当てる。
それでも痛い、痛みで涙が出てきていた。
「父さん」
無意識にその言葉が出た、気付いたらバケツをひっくり返した様に布団のシーツは濡れていた。