始まり
私は、王坂高校理数科三年 後鳥羽美咲 クラス一の有名人・・・
「うわ…ニキボだ…」
「場所変えましょう。」
あ、いい忘れてた・・・悪い意味で・・・
私の家は貧乏で、母さんは私を生んですぐ死んでしまった、父さんは自分の会社がつぶれて借金取りに追われる日々を送っている、抱えた借金は約2億を越えると話を聞いた。
いや聞いたじゃなかった、見たんだった。父さんのつくえに請求書が置いてあってそれ見たんだ。とても払える額じゃない。
私と父さんは家を取り押さえられ今は古びた館を新居にしている。
風呂に入る事すらままならない状況。おかげでこんな顔になっている。
クラスメイトの話を盗み聞きしてみたら・・・
『ニキボ、マジ臭い』
『ねぇ、ニキボって何?』
『え?しらんの?』
『よくしらん』
『ニキビボッチの略』
『あ、超受ける』
『ww』
『ww』
・・・好きで風呂入ってなに訳しゃないんだけどな~
そういうわけでクラスで私は忌み嫌われている。
まあ、なに言われても構わないと思ってる。私は私だ!
父さんも借金抱えているけど悪い人ではないし私に謝ってもくれた。だから家計の事で文句を言うつもりは微塵もない。
でも私は、友達はほしかった。
信頼のできる友達が・・・
友達は昔確かにいた。
でも
離れていった。
理由は・・・想像通り、この顔でみんな離れていった。
悲しいほどあっさりと
離れていった。
学校で、一人でご飯を食べる。ご飯を
孤独さがさらに増すいっそ死にたいといくら望んだか・・・
さらに孤独さが増す黄昏時、しかし私は友達と遊んでいるような気分になっていた。
「ニャ~」
愛らしく、かわいい動物を見るためだけにここ(街角のゴミ捨て場)に来ている。帰り道の途中でもあって丁度いい。この娘と遊んでいると今の自分を忘れられる家も学校も身体の事も・・・
数十分いやもっと長くいたのだろう、もう月が昇りかけている、時計なんて持ってない。早く帰らないと父さんに叱られてしまう。
美咲は、小走りで家へと帰った。
「ただいま」
割れた窓から部屋に入る、玄関が昔のカギ穴でカギでしか開かないようになっているため割れた窓ガラスから入るしか方法がなかった。
何もすることがないので寝た。
夕食は、ある時はあるがほとんどがない、家計の事情でしょうがないだろう、朝も同じ。
体力温存、生きるために私は寝る。
コケコッコ~
私に起きろと言うように鶏が鳴く。捕まえて焼き鳥にしようと思って探してみたがいない朝綺麗に起きれるし放っておくかと父さんと決めた、父さんも探していたらしい。
鶏の声でいつも朝気持ちよく起きるのに・・・
なぜだろう?体がすごくだるい、頭が痛い、目の前が・・・
「とう…さん・・・」
バタッ
「何だ~美咲、ッ!!美咲しっかりしろ…み き・・・」
かすれる声が鼓膜を叩く。
父さんが気づいてくれたようだ。
父さんの声が遠くなっていく。
視界が狭くなっていく昔のカメラのシャッターのように周りから真ん中に向かって暗く浸食している。
ああ、暗い、私・・・死ぬの?
そんな思いが頭をよぎった。
体温が削られる。
まるで深海へ深海へ潜っているように体温が低くなってきている。
これが・・・死ナノ…
彼女がそう思ったのは心臓が止まった時だった。
さわさわさわ
目を閉じていてもわかる・・・木が揺れている。
ちょろろちょろろ
川が流れている。
「・・・ん!!、美咲さん!!」
誰かが私の名前を呼んだ。
私、生きてる!!
「はぁ!!はぁはぁ」
目を開けると想像通りの景色が視界に入ってきた
澄んだ空、森、川
現代日本じゃあまり考えられないような景色が広がってきた。
「ふぅ、良かった。美咲さん大丈夫ですか?」
心配そうに顔を覗き込んでいるのは癖っ毛の目立つピンク色の髪に柔らかい瞳、整った顔立ちまさに美少女。その美少女は何故かローブを着て杖を携えている。歳は14くらいで僕っ娘かな?
「はい、大丈夫です。・・・あなたは?」
「美咲さん?僕ですよ僕、初春ですよ。昨日お会いした。」
「・・・」
「美咲さん、本当に覚えてらっしゃらないんですか?」
全く身に覚えのない昨日会ったのは・・・
「ネコ」
「違いますぅ!!誰が猫ですか!!!誰が!!身長135でもネコと間違われた事ありません!!」
彼女は身長にコンプレックスがあるみたい。
「初春さん」
「はい」
「ここはどこ?」
「美咲さん、とぼけるのはやめてください。ここはシドの森ですよ」
「シドの・・・森?」
「私が依頼したじゃないですか~シドの森で”新月輪”採取の用心棒を、さっきもゴブリンなんてアージャコージャ言いながら倒したじゃないですか?その剣で」
初春が指差した自分の腰を見てみると白いレイピアがついていた。
「レイピア・・・」
「そうですよ。あなたの大好きなレイピアじゃないですか?」
「大好き?」
「ええ、シドの町じゃ少し名が売れてますよ。残忍不動のレイピア使いって。ほとんどソロをやってるって事も聞きました」
「初春さん」
「初春だけでいいですよ。」
「初春」
「はいはい。」
「この世界は何ていうの?」
どうやら私は、
「決まってるじゃないですか。」
天国でも
「・・・?」
地獄でもない
「センルーンですよ。」
異世界に来てしまったようだ
小説やテレビなどで少しは見た事があった
しかし、それはすべてフィクションだ
自分が行くなんて思ってもみなかった
美咲の肩がプルプルと小刻みに揺れている。
私は、怖がっているのか?
「初春」
「はいはいはい」
「昨日から今日にかけて僕と貴女の事を事細かに教えて。」
「はぁ~わかりましたけど、さっきから一体どうしたんですか。眉間にしわを寄せてせっかくの顔が台無しですよ。」
「?…聞かせてもらえる?」
初春の言葉に顔を傾かせながらも話を聞くことにした。
(私の聞き間違いかなぁ)
ニキボと言われていた私である、たぶん聞き間違いだろう