「第7幕」
人々は狂ったように武器を振り下ろしていた。
剣を、斧を、槍を、棍棒を、鎌を…
ありとあらゆる武器を、今までの恨みを晴らすかのように叩きつけていた。
その声は悲痛な叫びとも、喜びの叫びともとれない狂喜に満ちた声であった
「お前達のせいで…お前達のせいで!」あいつが…あんないい奴が!
「人間様を舐めるんじゃあねぇ!この魚野郎!」
「こいつ…こいつ…死ね…くたばっちまえ!」
その鋭い先端を「砂浜に組上げられたバナナの樹」に突き刺し、身動きが取れないまま、
無防備な姿を人々の前に晒していた。
そのままでもやがては呼吸が出来ず、無残な屍となってその巨体を浜辺に横たえる運命に
あったのであろうが人々はそれを許さず、自らの手で魔物を殺し続けた。
魔物は懲りることなく、幾たびも大挙して浜辺に押し寄せた。
彼らはそこが格好の餌場だと信じていたのかはわからない。だが、潮が引くたびにその巨体
は浜辺に骸となって横たわる運命にあった。
夕日よりも紅い血を浜辺に流し…
やがて、人々の憎しみは、嘲りへと変質していった。
何度も何度も同じように罠に掛かる、「間抜けな魔物」と「魔物」を恐れなくなっていた。
過去の忌まわしい記憶を塗り替えるように嘲り笑った。
「間抜け」の代名詞として使われることさえあった。
そして人々は潮が引くたびに「それ」を殺し、その肉を喰らった。
人々は既に「それ」を魔物とは呼ばず、魚としてその肉を喰らった。
もう誰も「それ」を「魔物」と呼ぶものはいなかった。
やがて、その巨大なカジキは浜辺の近辺では見かけることも無くなり、人々は仕方なく
再び漁に出始めたのであった。