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「第3幕」

子供の泣く声が聞こえる。



この紅に染まった世界の中で子供の影が二つあった。



一つは大きな声で泣き喚き、もう一つは淡々と同じ作業を続けていた。



真っ赤な波が押し寄せ、引いては返す。



ざざぁぁん・・・ざざぁぁぁん…



その度に波打ち際で壊れた人形が転がる。



影はその人形の顔を覗き見ては、「違う…」と呟き次の人形へと歩いていく。



「兄ちゃん…兄ちゃん…兄ちゃん…うわぁぁぁぁぁぁぁん」



と人形の前で泣き叫ぶ影。人形の前で膝をつき、兄の名を呼び、ただひたすらに泣き続ける。



彼はそんな弟の…自分の弟の声に苛立っていた。



 うるさい…ウルサイ…煩い…五月蝿い…静かにしないと聞こえないじゃないか…



 そうでなくても波の音がうるさいのに…黙れ…黙れ…黙れ…黙れ…黙ってくれ…



そんな感情に囚われながらも淡々と作業を続けていく。



「違う…これも違う……くそぉ…違う…違う…違う違う違う!!!」



肩で息をしながらも長い砂浜を歩き、壊れた人形を一体一体確かめていく。



一体一体の顔を見て…そしてまた「違う」と呟く。



なんでこんなに見難みにくいんだ…何でこんなに醜いんだ…なんでこんなに真っ赤



なんだ…なんでこんなに…こんなに…こんなに…こんなに…



人形が転がっているんだ…



その影の遥か後方…沈みかけた夕日の中、同じ人形の前で泣いている弟。



彼は一度だけそんな弟の様子を一瞥し、再び真っ赤な…黒と赤の混じり始めた世界の中で



一人作業に戻った。



 そう…あれが兄ちゃんであっていいはずが無い…兄ちゃんがあんな姿になるはずがな



 い。あれは違う…違う…そう…探さなきゃ…早く探さないと…兄ちゃんが



 …本物の兄ちゃんが…



兄は虚ろな瞳のまま淡々と作業を続けた。



浜辺には鳴き声と真っ赤に染まった大量の人形ひとがたを弄ぶ波の音だけが聞こえ



る…

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