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 地球。なんとか洋服ゲットに成功した夕はやけくそ状態でルナに服を投げつけた。すると、お礼を言われながら殴られた。お礼を言いながら殴るとは新しい。だがしかし、これでもルナは手加減したらしい。本人曰く、本気で殴ったら半径10キロ程吹っ飛ぶらしい。夕は信じていない。というか話を聞いていない。麻薬中毒者のようにぶつぶつと独り言だ、可哀想なことに、ルナと出会った数十分の間に病んでしまったらしい。それともお月見成分が足りないのだろうか。今も、ルナの我が侭でルナの食事を奢らされるために、減少しつつある。


「それで、どこの店行くんですか? 安いところね?」

「ふむ、理解している。貴様程度の人間の財布の衰弱具合など把握している」

「……」


 本当に可愛げがない。こんな変態電波般若少女が可愛かったら、自分の通う学校の全女子は女神だ。ぐうの音も出ないほどに。今日一日のみを見れば夕は間違いなく苦労人だ。他人がこういう目にあっていたら確実に同情する。だから同情してくれ。


「ではあそこにしようか?」

「……やはり電波か」


 夕の呟きに、ルナの右フックが入る。だが、しかし夕の言う事は間違ってはないのではないだろうか。それはそうだ。どこの誰が想像する? 仮に変態だろうと、電波だろうと、般若だろうと、一見ただの少女が、食事の場所に――


――ペットショップを選ぶとは


「……あの、本気ですか?」

「うむ」

「あそこどこかわかってます?」

「ペットショップ」


 駄目だこいつ。理解してるのかしてないのかの境界が曖昧すぎる。解析するにはスーパーコンピューターが必要だ。


「……何を食うつもりで?」

「食べ物に決まっているじゃないか」

「……ああ、そう」


 もういい、こいつは電波なんだ。突っ込みきれるわけがないじゃないか。と、諦めモードに入った夕は連れて行かれるがままに、ペットショップの中へ消えていく。


「あのさぁ、ここに人間が食べれるものは皆無だぞ?」

「いいんだよ。人間じゃないし」

「そうだな、電波だものな」


 また、殴られた。何故だ、事実なのに。夕の突っ込みは当然の如く無視したルナは、ペット食品コーナーをうろうろしている。

 もういい、宝物の『お月様アルバム』を眺めよう。こんなものを常備しているから夕は友達がいないのだ。担任に精神病科をおすすめされているとか。


「あー、癒される」


 端から見れば、変人――どころか変態の域の危険人物だ。今、この店には自分たち含め数人しかいない。みんな自分の買い物に集中している。ならば浮くことはないだろうという謎の自信を持ってのことだ。そもそも変態であることを自覚しているというのに驚きである。






 いくつもの小さな隕石が大気圏内に突入していく。その姿を正確に視認することは叶わないが、それでも、人型であることのみは理解できる。彼らは、身体が燃えているのも関わらず、なんてこともなく会話を続けている。


「ナロウ騎士団。地球突入。日本列島に上陸予定。これより、王女様を保護にかかる!」

「「「了解!」」」


 いくつもの、人型隕石は中心の男の声に従いの言葉を送ると、白い雲に包まれていった。

 隕石――彼ら、ナロウ騎士団は兎人族において最高位の実力を誇る、誇り高き騎士たちである。彼らの使用する鎧は大気圏突入程度では燃え尽きる事はない。


 地球。ルナは、食べたいだけの食糧……というか『兎の餌フード』なるものを手に持って戻ってきた。癒しモードから一瞬で現実へ戻ってきた夕は絶句。絶句以外することがわからない。


「えーと、変態……ルナさん? 何を買ってるんですか?」

「食べ物だ」


 何食わぬ顔で、言われると、困る。こいつの思考回路ほどではないが困る。


「え? あなたバカなんですか? それ兎の餌ですよ? 人間が食うものじゃないでしょ?」

「だから私は人間じゃないと言ってるでしょ?」

「それはもういいわ! こっちは無駄金払いたくないの! それ食べるのは兎なの! なに、お前が兎なの!?」

「半分正解で半分不正解」

「はい?」


 やれやれといった様子でため息を吐かれる。ため息をつきたいのは誰だと思っていやがる。と夕の怒りは膨れ上がるばかりだ。怒りをぶつけたら殴られるのでしないが。

 ルナは、人差し指を夕に突きつけて言う。


「私は月から来た兎人族の王女なのだ! 兎でもあり人間でもあると言ったところか?」

「何言ってるんだ、おま――――――」


 突然の振動。と、同時に鼓膜を劈くような爆発音が響く。さらには、店の窓ガラスが何かに突き破られる。振り向くと、目に入ったのは、瓦礫。爆発で壊れた建物、もしくは地面がここまで吹き飛んできたのだろう。

 当然、パニックに陥った他の客は外に逃げ出す。爆発音の位置に自ら突っ込む形になってしまっているが、それに気付き、止められるほど夕も冷静ではない。この状態で冷静にいられるものなどいるわけがない。


 ただ一人を除いて。


 爆発音を聞くと同時に、ルナは動き出していた。多少割れた窓ガラスを飛び蹴りで完全にぶち破り、外に飛び出した。外に飛び出し着地。と同時に既に次の跳躍。ぴょんぴょんと跳ねる姿は兎そのものではないか。


「あー……、やっぱあんた? アカ」


 ルナは爆発で生じた煙の中で立ち尽くす鎧の男に呆れたように、言った。アカと呼ばれた鎧の男は、直立不動を崩さず、ルナに言った。


「当然です。ナロウ騎士団団長であり、ルナ姫親衛隊隊長の私が来ないと思いですか?」

「来ないでほしかった」


 さすがのルナも、このレベルの変態には引くようで、口元を引くつかせる。なんだこの変態は、煙が晴れ、姿が見えれば、映るは、高めの背に、ルナ同様真っ白な髪、赤い目。幾多の困難を乗り越えてきたであろう精悍な顔立ち。腰に取り付けた剣。まさに一流の戦士という雰囲気を醸し出している。

 だが、変態である。アカは一見すると年齢は30代前半。ルナは10代である。その年齢差で、そんな発言をすれば、地球では鉄のわっかを両手に付けられてしまうだろう。こんなのが騎士である。世も末という地球の言葉の意味をルナは実感する。


「な、なんだこいつ!?」


 と、やっと店から出てきた夕は叫ぶ。叫ぶ夕が言いたいのは、また変なのが!? という面倒事を避けたい一心の叫びだ。

 一度、ルナを見ているからか、多少、夕は冷静だ。あくまで多少ではあるが。いや、それよりも驚くべきところがある。


「(隕石……。変態電波般若少女の言う事は本当だった……?)」


 信じられるわけがない。だが、現実だ。

 驚愕に飲み込まれている夕と離れたところで、ルナとアカは一対一で向かい合っている。


「それでさ、何? 私を連れ戻しに来たの? あんな変態惑星に」

「当然です。月にはルナ姫が必要なのです」


 はぁ、とルナはストレスで髪を掻き毟る。思い出すだけで吐き気がする場所だった。親父はプライドがなかった。慕ってくれる人は、奴隷と変わらなかった。誰も、姫や王女というものを与えるばかりで、自分ルナというものを与えてはくれなかった。

 だからルナの答えは一つだった。


「絶対嫌だ!」


 と、子供っぽい言い草で、地を蹴る。たった一歩の跳躍で、距離を詰めたルナは力いっぱい拳を振るった。そのスピードには圧巻の一言。思考力が低下してるとはいえ、夕には、瞬間移動でもしたとしか考えられなかったほどにしか視認できなかった。

 だが、しかし、相手は騎士。戦のプロだ。

 ガキィンと響く、金属音。アカは素早く、腰の剣を引き抜き、ルナの拳を刃で受け止めたのだ。


「チッ!」

「お見事。しかし、詰めが甘いですよ」

「うるっ……さい!」


 ルナは今度は、左拳を振るった。しかし、これも通用しない。何のことはない、単なるバックステップで、回避しただけだ。空を切った拳はただルナを前に引っ張るだけだ。


「私の使命はあくまで、姫様の保護なのです。抵抗などしないでください」

「嫌に決まってんだろォ!」


 ルナは、無理矢理拳を地面へと向ける。殴りの勢いが消えていない今では、ただ重心を余計に崩すだけである。

 だが、しかし、ルナにはそんなのは関係なかった。地に吸い込まれる拳を開き、手のひらを地面に叩きつける。同時に地を蹴る。足の代わりに手で身体を支え、一瞬で逆立ち状態だ。そしてその状態から、空を指す足をアカの頭に叩きつける。今度の攻撃は予期できなかったのか命中する。

 アカの鼻からはポタポタと、赤い液体が零れ落ちる。


「うっしゃー!」


 再び地面に付けた足で跳躍し、距離を取る。確かな手ごたえを感じたルナの顔には笑みが零れる。


「見たかぁ! こちとら騎士との喧嘩は慣れてるんだバーカ!」

「いけませんねぇ……」

「あん?」


 やけに、冷たいアカの声にルナは怪訝そうな顔をする。

 と、そんな余裕もないことにすぐに思い知らされる。アカは既に動いていた。見るからに重量を感じさせる鎧姿からは想像できないスピードでルナとの距離を詰めていた。アカに気付いた時には、彼の太い手はルナの首を締め上げていた。


「月の姫が、そんな言葉遣いで、民に蹴りをいれるなど」

「……! ……!?」


 舐めてた。いや、驕ってた。たかが一発の蹴りで、月の最高騎士団トップを屈服できるなど。考えるほうがおかしい。それにしてもなんて力なのだろう。バカみたいに頑丈な自分でなければ、一瞬で意識を持っていかれる。

 助け、を求めるのはおかしな話だ。自分勝手の限りを尽くした自分では。自然と視線は、さっき出会った名前も知らない少年に向かった。助けてほしいわけでも、その少年に変わった考えも感情など一切ない。ただ……


(言い過ぎたかな……いや、バカらしいや)


 すぐに考えを打ち切った。我ながらバカらしい。余計な思考を排除したからか、意識が弱まってきた。ルナは眠る感覚で、意識を失おうとしていた。

 が、突如、意識は覚醒する。突然響きだしたサイレンによって。地球では、確か警察という組織が、このような音を鳴らしながら現れるとか。警察は騎士団同様、治安維持が仕事と記憶していた。


「なんだ……?」


 若干、弱まったアカの握力を敏感に感じ取ったルナは、膝蹴りをアカの顔面に決める。多少の受身を取ったためダメージは少ないがルナの首を離してしまった。

 咳き込みつつも、ルナは走ってその場を離れだした。無我夢中だった。ただ、微かに聞こえる声を頼りに走っていた。

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